第39回
小説家
あさのあつこさん
1 小説家になるまでの道のり

わたしが小説家になろうと思ったのは、中学時代にある本を読んだのがきっかけでした。プロになるまではそれからずいぶん時間がかかったけど、その間に書く力をたくわえることができました。今日はそんなデビューまでの話から『バッテリー』誕生のヒミツ、原稿(げんこう)の書き方、さらに小説家になるためのポイントまで、たっぷりお話ししましょう。
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シャーロック・ホームズとの出合い
ものを書く仕事をしたいと思うようになったのは、中学生のときです。コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズと出合ったのがきっかけでした。読んでいると、さし絵もないのに情景がありありと目にうかぶんですよ。霧(きり)にけぶるロンドンの街なみ、石だたみを行きかう人々、ひづめの音を立てる馬車、だんろの前にたたずむ背の高いホームズ……、まるで自分がそこにいるみたい。「物語ってなんておもしろいんだろう、なんてすごい力をもっているんだろう」とショックを受けました。

同時に、世の中には自分が知らない世界があると気づいて救われたような気持ちになりました。中学生のころって、まわりの人や世の中とどうつきあえばいいかわからなかったり、自分をもてあましたりしますよね。
みんなにみとめてもらいたいけど、どうしたらいいかわからなくて、自分はダメだと落ちこんだりする。わたしもそんなひとりで、当時は自分がつまらなく思えて、息苦しくてたまらなかった。
みんなにみとめてもらいたいけど、どうしたらいいかわからなくて、自分はダメだと落ちこんだりする。わたしもそんなひとりで、当時は自分がつまらなく思えて、息苦しくてたまらなかった。

そのうち自分でも何か書いてみたいと思って、ふだんの出来事をふくらませて物語に仕立てたりしました。たとえば友だちに言いたいことを言えなかったとき、ちゃんと言えている自分を書いたりね。日記とお話の中間のような感じでしょうか。
ときどき物語をつくろうとしたこともありましたが、イメージをつかみきれなかったり、うまい言葉が見つからなかったりで、なかなか完成しませんでした。それでも中学の終わりには、大きくなったらものを書く仕事につきたい、いつかは本を1冊書きたいと思うようになっていました。
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「本当に書きたいの? それとも……?」

大学時代も文学サークルに入って何作か書きました。作家の後藤竜二(ごとう・りゅうじ)さんが講師として指導してくださって、作品をほめていただいたことははげみになりました。でも、いま思えばこのころのわたしは、どこか真剣(しんけん)さが足りなかった。それほどたくさん作品を書いていなかったし、書きはじめても完成させる努力をあまりしていませんでした。
大学卒業後は小学校の講師として就職し、その後、結婚(けっこん)して家事や育児でいそがしく過ごすうち、あっという間に10年がたちました。この間も後藤さんは「書きつづけようよ」とはげましてくださっていたんですが、わたし自身が時間がないことを理由に、書くことの大変さや力のなさに直面することから逃(に)げていたように思います。
それで、子育てがひと息ついたとき自分に問いかけてみたんです。「さあ、あれだけ望んでいた書く時間がやっと手に入ったぞ。おまえは本当に物語を書きたいのか? それとも書きたいと思いこんでいただけなのか?」と。

おそいデビューでしたけど、時間をかけていろんな経験を積んだことで、作品を形にできるだけの力をたくわえてきたという実感があります。15歳で感じたことや20歳で思ったこと、仕事や子育ての経験……、すべてのものが溶(と)けあって今のわたしのベースになっていると思います。
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