第2回 ICTの得意わざをいかす! 子どもの創作活動サポート「お話づくりワークショップ」
――前回にひきつづき、朝倉さんがとりくんでいるICTを用いた子どもの創作活動についておたずねします。お話づくりワークショップの概要について教えてください。

枚方 T-SITE(大阪府)でのワークショップのようす
おもな対象は未就学児から小学生の親子で、所要時間は2時間ほどです。「ものがたりをつくる」「ものがたりを外へとり出す」「ものがたりを語り、わかちあう」という3つのステップでおこなっています。
具体的には、絵本にまつわる話を少ししたあと、「きょうはみんなが絵本作家になります」と宣言します。毎回共通するのは、プレゼントする相手を決めること。それによって、幼い子どもであってもテーマや表現に心を配るようになります。
続いて、画面上にキャラクターやアイテムを配置しながら絵をつくっていきます。欲しいアイテムがないときはデジタルつみ木でつくります。声の録音もできます。作品はプレゼント用と本人用の2部をプリントアウトして、手のひらサイズのちいさな絵本にします。最後に、つくった作品をみんなの前で発表し、お互いに鑑賞します。
対象が小学生の場合は、保護者には離れた席からの見学をお願いし、未就学児の場合には、親子で参加してもらいます。
――お話づくりワークショップを親子でとりくむ必要性について、もう少し教えてください。
基本的には子どもひとりでお話づくりに向きあいます。未就学児が対象の場合には、文字入力や録音のサポートやハサミを使う工程のお手伝いのために保護者の同席をお願いしています。でもこれは表向きの理由で、本当の理由は、保護者を、ものがたりが生まれるすばらしい瞬間に立ち会わせてあげたいからなんです。
また、保護者のみなさんには、お話づくりには口出しせず、聞き手となって楽しむことをお願いしています。
しかし、最初にそうお願いしても、なかには話の筋に口をはさんだり、子どもが選んだ暗い色を変更させようとする保護者もいらっしゃいます。そんな指示や指導が続くと、最初は輝いていた子どもの表情がしだいにくもり、表現がいしゅくしてしまいます。
あるとき、未就学児親子対象のワークショップを終えたあと、主催者の方からこんな感想をいただきました。
「親はお話づくりにおいても、日ごろの生活で世話を焼くのと同じ調子で手と口を出そうとする。あるいは、その必要があると思いこんでいる。
しかし、わが子が思いがけず豊かに発想し、つくるようすに、その手を引っこめ見守るようになる。子どものようすを観察し、操作面などでどうしても必要なときだけ手を貸し、補佐する側に自然にまわる。
“親は子どもを支援する”、頭でわかったつもりでいたことに真に気づき、その役割を具体的にやってみることで、子育ての姿勢を深く体得する」
と。親にとっても実践的学びになるというのは、思いがけない視点でした。
――大人のかかわり方によって、子どもの活動の質が変わってくるのですね。創造活動におけるICTの役割と特徴を教えてください。
最初にお伝えした3つのステップのうち、1つめの「つくる」と3つめの「語り、わかちあう」で、ICTを使っています。一方、2つめの「外へとり出す」は紙の絵本としています。
あらかじめ用意されたキャラクターやアイテムを使うことで、ゼロから絵を描く必要がありません。お話づくりという最も核になるところを敷居低くはじめ、短い時間で味わえるのもICTを使う利点です。お話をつくる楽しさを知れば、あとは子どもが自分で得意な領域に広げます。絵を描くのが好きであれば、絵も自分で描いて絵本をつくるようになります。
言葉は人の内面をつくり、人と人とをつなげます。自分の言葉で物語を紡ぎ、物語を語りわかち合うことは、人の根源にかかわる深い喜びです。幸いなことに、ICTはつくることとつなげること両方のサポートが得意ですので、そこに使っていきたいです。
――アプリやソフトをつくるうえで、それらの特徴をどのような形でいかしていらっしゃいますか。

たとえば、泣いているのには理由がありますよね。キャラクターの表情やポーズを自由に変えられると、子どもの発想をうながします。
そこで、キャラクターをほぼ2頭身とし、顔の向きは正面のみにするなど、お話づくりにおいて重要な顔の表情が読みとりやすいように、大事なことにしぼって整理したうえで、喜怒哀楽の感情バリエーションを豊富にもたせ、ポーズも変更できるようにしています。
――アプリやソフトが豊かな感情表現にこたえられるからこそ、作り手はお話づくりに夢中になれるのですね。なるほど。そのほかにも工夫したこと、心がけたことはありますか。
子どもが集中しているときは思考を止まらせないことが大事なので、各種コマンドは、深い階層化をせず一目で見わたせるように置いたり、操作を現実世界に似せて使いやすくしています。たとえば、使い終わったツールをかたづけるときはゴミ箱へ捨てるのではなく、道具箱へもどすようにしました。
子どもの集中のさまたげになるような効果音や、アニメーションなどの過剰な演出は控えました。スペルミスを知らせるといった先回りした親切すぎる機能もできるだけ使わないようにしています。
新しいメディアはできることが多すぎて、開発者にとっても誘惑が多いのです。ついついそういった要素を入れたくなってしまうのですが、あくまでも主役は子どもで、ソフトは黒子です。むやみに機能を盛りこまず、子どもの創造表現活動に寄りそい支援することを心がけています。
――次回は小児医療施設におけるICT活用事例として、院内学級でのお話づくりワークショップのようすをうかがいます。
「ピッケ」および「ピッケのつくるえほん」は、株式会社グッド・グリーフの登録商標です。
第1回 子どもとICTの幸せな出会いを願って
第2回 ICTの得意わざをいかす! 子どもの創作活動サポート「お話づくりワークショップ」
第3回 小児医療施設におけるICT活用事例、院内学級でお話づくりワークショップ
第4回 大学でのゲスト講義&小学校の先生向けレクチャーレポート 青山学院大学・青山学院初等部