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ICTを使って子どもの創造する力をはぐくむ 株式会社グッド・グリーフ代表取締役 朝倉 民枝さんインタビュー 第3回(全4回)

朝倉民枝(あさくらたみえ)
クリエイター。株式会社グッド・グリーフ 代表取締役。日本子ども学会理事。子ども服デザイナーをへて、1991年よりNHKテレビ番組などの3Dコンピューターグラフィックス(以下CG)を制作。2001年、個人事務所開設を機に子どもたちの創造表現活動をサポートするピッケシリーズの開発をはじめる。最初にリリースした「ピッケのおうち」がキッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。その後リリースした「ピッケのつくるえほん」「ピッケのつくるプレゼンテーション」は、教育現場や子ども向け施設、小児医療施設で幅広く活用されている。NHK Eテレ「てれび絵本」で「ピッケとがーこ」シリーズがオンエア。2004年度 IPA未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定(経済産業省)。

第3回 小児医療施設におけるICT活用 院内学級でお話づくりワークショップ

――前回はお話づくりワークショップのようすをお聞きしました。今回は小児医療施設におけるとりくみについてお聞きします。院内学級での活動と子どもたちの状況を教えてください。

3年ほど前から、小児がんの専門医療施設「チャイルド・ケモ・ハウス」を活動拠点に、大学の附属病院や母子保健センターなど他の小児医療施設へも出かけて、ピッケを使った絵本づくりの活動をしています。

入院中の子どもたちは、闘病の身体的負担に加えて、長期にわたって外出することもできず友だちとも遊べない暮らしのなかで、精神的ストレスにさらされています。そして、その苦しさや心細さを口に出さず、ひとりでがんばっていることが多いのです。

そんな子どもたちにとって絵本づくりは、それ自体が楽しみであると同時にさまざまな気持ちを解放する機会となります。作品を通して子どもの心の内をかいま見ることができるので、子ども本人のみならず保護者や医療関係者にとっても役立ちます。


京都大学医学部附属病院でのワークショップのようす

院内学級でもふだんのワークショップと同じように、だれにプレゼントするかを決めてから物語をつくっています。お母さんのため、小さい弟・妹のため……。入院していると、いろんなことをやってもらうことが多くなりがちです。そんななか自分のつくった絵本を家族や友人が喜んでくれることが本当にうれしくて、疎外感がやわらぎ、治療にも前向きな気持ちになれるようです。

後日、院内学級の先生から届いた手紙に、こう書かれていました。

絵を描くのが苦手な子どもにとっては、iPadの中のキャラクターが指一本で思うがままに絵になっていくのが楽しくてしかたがなかったようです。できあがった絵本を部屋へ持って帰り、おうちの方に見てもらいほめてもらって、さらに充実感や達成感を味わいました」

――発達障がい児対象の活動についても教えてください。


発達障がいのある子もない子もいっしょに参加するワークショップを、2つの団体と協働でおこなっています。

学校の国語の授業で、正しい文法で、鉛筆を使って作文用紙に書くのはむずかしい子どもたちが、ICTの助けを借りて本来の表現力を発揮できることが多々あります。

制作中に集中力がとぎれドラミングなどの常同運動が出る場合も、自己調整ができるとふたたび集中をとりもどして制作に向かいます。

できあがる作品に優劣はなく、むしろ自閉症スペクトラム障がい(ASD)児の、世界や時間のユニークなとらえ方と豊かな表現が、参加者みんなを感心させることもありました。

このワークショップは、いつもの約1.5倍の時間をかけてとりくみます。

日ごろ、ひとつのことを完遂することがむずかしいASD児が、3時間半にわたって自己調整しながら制作から発表までをおこない、絵本という成果物を得るまでやりとげることは、本人はもとより保護者の自信や喜びにもつながるようです。

――院内学級に限らずお聞きしたいのですが、朝倉さんが活動を続けてこられた15年で、子どもがつくるお話の内容に変化を感じる点、たとえばメカやロボットがよく出てくるようになったとか、バトルものが増えたりはありますか。

とくに変化は感じません。ワークショップに参加する子どもの年齢はおもに幼児から小学生くらいですが、生活のなかの1シーンであったり家族や友人とのかかわりや空想物語が多いです。子どものなかの「なにかをつくる気持ち」は、おそらく道具が変わるほどには変わらないのだと思います。

また、とくに5、6歳まではどの子もみな、生命力、知りたい気持ち、世界への肯定感に満ちあふれたキラキラした作品をつくります。その輝きに触れるたび、人間はだれしも本来はそうなのだと思えて、励まされる思いがします。

――朝倉さんの活動の今後の展望についておきかせください。

ICTを活用した学びの場づくりをすすめたいです。

先日、発達障がいのある娘さんの保護者から、娘さんがピッケを「本領発揮できるところ」「自由な世界」と感じてくれているとうかがい、うれしく思いました。従来の方法に不自由を感じている子どもたちが心の内に育つ豊かさを発揮できるよう、このお話づくりの活動を知ってもらいたいです。
どんな環境にある子どもにも等しく、また、困難な状況にある子どもにはより楽しい学びの場を届けたいと思っています。

ICTは単なる便利な道具ではなく、子どもたちの創造力をのばすために活用することが大事なのですね。だれのために、なにを届けたいか。それこそがつくる本質で、ICTはそのためのサポートであることをあらためて認識しました。朝倉さん、ありがとうございました。

「ピッケ」および「ピッケのつくるえほん」は、株式会社グッド・グリーフの登録商標です。

第1回 子どもとICTの幸せな出会いを願って
第2回 ICTの得意わざをいかす! 子どもの創作活動サポート「お話づくりワークショップ」
第3回 小児医療施設におけるICT活用事例、院内学級でお話づくりワークショップ
第4回 大学でのゲスト講義&小学校の先生向けレクチャーレポート 青山学院大学・青山学院初等部

梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。