特集 プログラミング教育

プログラミング教育についての素朴なギモンを聞く【後編】 料理はプログラミングだ!

2020年度からプログラミング教育は小学校で必修となることが決まりました。プログラミング教育とはいったい何なのか? なぜ小学生がプログラミングをやらなければならないのか? プログラミング教育によって子どもたちはどんなふうに育っていくのか? そして家庭でできることは?

学習科学(教育学、認知心理学、情報工学など幅広い視点で学習活動を科学的に分析する学問)の第一人者である公立はこだて未来大学の美馬のゆり教授にお話をうかがいました。

美馬 のゆり(みま・のゆり)
学習環境デザイナー/学習科学者/博士(学術)。公立はこだて未来大学システム情報科学部教授。電気通信大学(計算機科学)、ハーバード大学大学院(教育学)、東京大学大学院(認知心理学)で学ぶ。公立はこだて未来大学および日本科学未来館の設立計画策定にたずさわり、設立後は大学では教授、科学館では副館長(2003-2006)を務める。NHK経営委員のほか、中央教育審議会委員、科学技術学術審議会委員、日産財団理事などを務める。平成26年度文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞。代表著作:『理系女子的生き方のススメ』(岩波書店)、『「未来の学び」をデザインする―空間・活動・共同体』(東京大学出版会)、『不思議缶ネットワークの子どもたち―コンピュータの向こうから科学者が教室にやってきた!』(ジャストシステム)。

――プログラミング教育は、正しいプログラムコードを書けるようにすることと思われがちで、そのため没個性的な教育になるのではないかという心配があります。


むしろプログラミング教育によって、子どもたちの発想や表現方法がひろがるのではないでしょうか。ひとつ例をあげますね。

五十音のひとつずつに「っぱ」という言葉をつけるというプログラムを書けば、一気に「あっぱ」、「いっぱ」、「うっぱ」…と組み合わせたものの一覧が作れます。コンピュータはこういうくり返し作業が得意なんですね。

そうやってできたものを、ある詩人に見せたら、「これ、ぼくが頭でやっていることだ」と言ったそうです。

彼は組み合わせを自分で全部書き出して、そのなかで日本語としてなりたつものをピックアップして詩にしたそうなのです。

こういったことが、だれでもプログラミングでできるようになります。

このように、一覧を作るというような機械的に行なうことはプログラムを使ってコンピュータにやらせて、出てきたものを人間が拾い上げて組み合わせる、ということが今後、発想方法や表現手法として出てくると思います。

――めんどうなことはコンピュータに任せて、人間はちがう領域で真価を発揮するということになるのでしょうか。

コンピュータを使ってできてきたもののなかから、おもしろいと感じたものをピックアップするのは人間です。コンピュータはそこは不得意なんです。これからもデータにもとづいた分析や考察といった部分には人間がかかわっていくことになるでしょう。

ですから、創造性をどう伸ばしていくか、というところにこそプログラミング教育は注力してほしいと思います。

――2020年度から小学校でプログラミング教育が必修となり、いま中身についての議論が進められていますね。

必修化するのであれば、教員養成をきちんとやっておかないと大変なことになると思います。準備不足で導入してプログラミング嫌いを増やすことになる前に、教員がプログラミングの本質を授業で伝えられるようなツールや副読本を作り、授業の実践事例を広めていかなくてはいけないでしょう。

――たしかに、「プログラムができた、動いた、楽しい、おしまい」になってしまってはもったいないですね。

そこで終わってしまっていけません。次にそれを何に適用できるかが大切なんです。

そして、経験したことを自分だけの暗黙知(暗黙のうちに持っている、経験や勘にもとづく知識)にとどめず、人に話したり、書いたりという言語化するという作業をとおして、形式知(言語化・視覚化された知識)にする。

その結果、他の人はもちろん、自分もその知識をちがう環境で使えるようにする。

そこまでやってほしいと思います。

――家庭において、プログラミングという考え方、つまり計算論的思考をきたえる方法はあるのでしょうか。

料理をおすすめします。

――料理ですか!


料理って、アルゴリズム(問題を解く手順)そのものなんです。

同時にコンロが2つしか使えず、30分しか時間がないとき、どうやったら冷蔵庫にあるもので3品同時においしいものが作れるか、どうやったらまな板やボウルを洗う回数を減らせるかとか、いろいろ考えて料理をしているでしょう? そしてそれを別の日の別の料理にも適用している。

デキる主婦は、毎日計算論的思考をやっているんですよ。

以前、研究したことがあるのですが、料理が上手な人は、全体の見通しを立てて、同じ作業はできるだけまとめてやり、調味料や道具などを合理的な場所に配置するんです。頭のなかにフローチャートができているんでしょうね。

みなさんも、どういう手順で、どういう制約のなかで料理をしているのか、自分の頭のなかにあるものを一度言語化してみて、どうやったら効率的に料理ができるようになるか、パズルのように考えてみてはいかがでしょうか。

――言語化しておけば、他の家族も同じ手順で料理ができるようになりますね。子どもといっしょに考えたらおもしろそうです。宿題や日常生活の効率化にもとりいれられそうな考え方ですね。

そう、計算論的思考で考えれば、家のなかの無駄な時間を省くことができます。時間にゆとりができればなにか他に楽しいことができますから、ぜひ楽しんで取り組んでみてください。

――本日はありがとうございました。

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)
株式会社コドモット代表取締役社長。
NTT在籍時代の2001年、子ども向けポータルサイト「キッズgoo」を立ち上げ、同サイトでデジタルコンテンツグランプリ・エデュテイメント賞受賞。独立後は小学生向けのコンテンツを中心に、企業の子ども向けWebサイトや公共団体の子ども向けツールなどの企画制作を数多く手がける。一男一女の母。