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ICTが進化する未来へ、子どもたちはどう育っていくのか 青山学院大学 杉本卓先生インタビュー第1回(全4回)

タブレットやデジタル教科書、そしてスマホ。教育の現場におけるICT利用は、いまや当たり前と言われるようになってきました。子どもにとってICTのメディアは、どのようなものなのでしょうか。またテクノロジーの発達が著しい社会において、子どもたちの育ちや学びをサポートするために保護者が果たすべき役割とはなんでしょうか。青山学院大学の杉本卓教授にお話をうかがいます。

インタビュアー 梅本真由美(サイエンスライター)

杉本卓先生近影
杉本 卓(すぎもとたく)
青山学院大学教育人間科学部教授。インターネットを利用した教育、電子メディア時代の社会・文化、読み書きと学習・発達の関係などの問題について研究している。訳書に『本が死ぬところ暴力が生まれる』(新曜社)、共著に『インターネットを活かした英語教育』(大修館書店)『教育の方法・技術』(学文社)など。

第1回 子どもの教育現場をとりまくICTの現状

−−はじめに教育現場におけるICT利用の現状についてうかがいます。一般的に小学校、中学校の教育現場でICTはどのような使われ方をしているのでしょうか。


小学校、中学校をひとくくりにするのは、自治体や学校によって導入状況に違いがあるので難しいのですが、わたしの考えでは大きく分けて三つの使われ方があると思います。

まずひとつ目は、基礎的な知識を身につけさせる道具としての使われ方です。
コンピュータに向かって基礎知識を練習したり学んだり、デジタル教科書やタブレットを使ったドリルといった使われ方ですね。家庭などでのネットを使った学習サービス、eラーニングもこの延長と考えていいかと思います。

ふたつ目は、マルチメディア的な使われ方です。いままでの紙の教科書では、文字と絵と写真くらいだった表現が、電子黒板やタブレットを使うことによって音や動画なども使えるようになりました。視覚的に魅力的でわかりやすい教材になりましたよね。また、単に受動的に視聴するだけでなく、学習者の操作に応じて情報が提示されるというインタラクティブ性も、多くのマルチメディア教材の特徴になっています。

三つ目は、思考の道具、人とかかわり合いながら学ぶためのツールという使われ方です。アクティブラーニングとか協調学習などと言われていますけれど、電子黒板やタブレットを使って「みんなで学ぶ」という試みがされている点は重要だと思っています。

※アクティブラーニングとは、教師が一方的に学生に知識を伝達するのではなく、ディスカッション、プレゼンテーションなどを取り入れ、生徒が能動的に学ぶ学習法のこと。協調学習とは、生徒どうしが意見交換し協力しあいながら理解を深める学習方法のこと。


−−そのようにして教育現場でICTを使うことのメリットは何でしょうか?

まずは子どもたちがしっかり前を見て注目することですね。これだけでも小学校、中学校の授業においては大きなことだと思います。みんなが教科書を見ながら下を向いている状態ですと、教科書をひらいてはいるけれども、見ているかどうかがあやしい子どももいますから。

また、マルチメディア的な教材を使うことによるメリットもあると思います。内容がわかりやすいかどうかは教材の作り方にもよりますが、デジタル教科書や電子黒板で映像や音声を使うことによる効果はあると考えています。

そして、タブレットを使ったドリル学習などは、ひとりひとりの学習ペースに合わせた学習ができるというメリットもあります。

さらに「ともに考え学ぶ」ということに関して、これまでの教室学習でやりにくかった・できなかったことが可能になりました。思考・コミュニケーションの道具としてICTを使う大きなメリットです。

−−反対にデメリットについては、どうでしょうか。

デメリットとしては、表面的にわかった気になる、という点があげられると思います。子どもに限らず大人にも言えることですが、たとえばニュースアプリでとあるニュースをパッと見て、なんとなくわかったつもりになっている。でも、関連することがらを突っ込んで聞いてみると、本当はどうもわかっていない、ということがあります。これはウェブで検索して情報を見ているときでも同じです。

いまの子どもたちは、画面を見るスピードがとても速いですよね。Googleで検索して上位に出てきたページをサッと見て、また検索ページに戻って、ひとつふたつ別のページを見て、それでおしまい。「これってなに?」とか「なんでこうなの?」とかを深く考えていないんです。

じっくり考えようとしないから理解が浅くなりますし、なんとなくわかった気になって終わってしまっている。もちろんICTの使い方とか指導のしかたにもよりますが、あまりにも「わかった気」を促進しすぎてしまうと、人間が堕落していく危険はあると思います。

−−わかった気になってしまうのはメディアの特徴なのでしょうか。

たしかに、メディアの特徴ということもあると思います。テレビの時代からも言われていることですけれども、人間の側でどれくらい積極的に考えないといけないのか、どれくらい真面目に考えないと受け取れないのか、その負荷が高いほど理解が深くなるわけですから。

−−理解が浅いのにわかった気になる、という指摘には思わずドキッとしました。

次回はICTを使うことによって「わかった気」ではなく、理解を深めるためにはどうすれば良いのかについて、より掘り下げていきたいと思います。

第1回 子どもの教育現場をとりまくICTの現状
第2回 言葉で思考し理解することの大切さ、人間らしさ
第3回 新しいテクノロジーと向き合うには

梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。