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ICTが進化する未来へ、子どもたちはどう育っていくのか 青山学院大学 杉本卓先生インタビュー第2回(全4回)

第2回 言葉で思考し理解することの大切さ、人間らしさ

杉本先生近影
杉本 卓(すぎもとたく)
青山学院大学教育人間科学部教授。インターネットを利用した教育、電子メディア時代の社会・文化、読み書きと学習・発達の関係などの問題について研究している。訳書に『本が死ぬところ暴力が生まれる』(新曜社)、共著に『インターネットを活かした英語教育』(大修館書店)『教育の方法・技術』(学文社)など。

−−前回、ICTのメリットとデメリットについてお話をうかがうなかで、ICTの特徴として「わかった気になる」という指摘がありました。ICTを使うことによって、わかった気になるのではなく、理解を深めるためにはどうすればよいのでしょうか。


そうですね、理解を深めるためには、言葉でちゃんと説明できるかどうかが、いまのところ非常に大事だと思います。「知ってるよ」とか「検索すれば出てくるよ」ではなく、自分の言葉でものごとを説明できるところまで理解するということです。

「いまのところ」という限定は、この先、人工知能やテクノロジーの発達によって言葉だけでなくても、イメージや身体なども使って理解したり表現したりできるようになる可能性もあるので一応つけましたが、少なくともいまの子どもたちが大人になったくらいの年代では、言葉や文字にすることの大事さを軽く見てはいけないと思うんです。

人間は言葉によって考えたり概念化したりしています。ただ「話し言葉」はその場で流れてしまうので、それらをもう一度見つめ直すということは「文字」を使ってしないとできません。人間の思考力にとって、言葉や文字は非常に大事です。

−−そのような言葉で思考したり考えたり表現したりする力は、ICTだけでは身につきにくいのでしょうか。

そうとは限りません。使い方によっては言葉で説明したり考えたり議論したりするツールとしてICTがパワフルに使えます。とくにアクティブラーニングとか協調学習をするときには、道具としてICTが大事になってきます。

青山学院初等部の授業を例にあげると、子どもたちの考えを発表するために、かなりICTを使っています。

いままででしたら、紙に書いた自分の考えをクラスのみんなで共有する機会はあまりなかったと思うんです。たまには全員が書いたものをプリントにして配ることがあるかもしれませんが、日常の授業のなかで、子どもたちが考えるプロセスで使うには、紙のプリントでは共有しにくいですよね。

でも、子どもたちが自分の考えを書いた紙を実物投影機で電子黒板に映して、子どもが前に出てきて画面上にいろいろ書き込みながら説明していると、それを聞いている子どもの側から意見が出てきたりします。そうしたら、2人の考えを対比して画面上に映しながら、みんなで説明したり議論したり、いっしょに考えたりするというふうにして使っています。


−−紙もICTも有効に使われているのですね。

そうなんです。紙のほうが大事だとか、いやICTは新しい道具なんだから新しいことができるじゃないか、というような両極の議論になってしまいがちですが、そうではないんです。

また、ICTは目的のための単なる道具でしかないという考えかたも少し違います。目的と手段は両方絡み合っているんです。道具が進化することによってより高度な目的が生まれてくることもありますから。

LINEの使い方を例にあげますと、わたしたちは文字やスタンプを使ってやり取りをしますけれど、聴覚障がい者の方はビデオ通話機能を使って手話によるLINEチャットをしています。対面でなくてもどこでも話ができますから、コミュニケーション自体が道具で変わってきているわけです。

そこでもっとコミュニケーションの幅を広げるため、道具の側をより進化させて、手話を撮影しながらAIがリアルタイムで字幕を出しつつ、もう一方でしゃべった声を音声認識で文字にするような、対面して使える手話通訳アプリができたらどうでしょうか。聴覚障がい者の方は他者とコミュニケーションをかなりとりやすくなり、生活そのものが大きく変わるでしょう。

こんなふうに、目的が手段を変え、手段が目的をも変えていく相互作用の関係があるので、目的と手段は切れない関係なんです。

ICTを下手に使えば、言葉をないがしろにしたり、表面的な理解になってしまいますが、人間が本当に大事にしたいところを伸ばしていくうまい使い方もあるので、そこを考えていく必要があると思うんです。

本当に大事にしたいところというのは、人間が生物として変わってない部分で、しかも人間だからできることです。わたしはそれを身体をともなうことだと思っています。言葉で考え理解するときも、身体の動きやイメージが大きく関係しています。新しい状況に対応する力は、いろいろな状況で身体をともなって体験しないと身につかないと思いますし、情報教育とかICTを使うときに、体験をないがしろにして情報を取り扱うだけにしてしまったら、これから必要な教育にはならないだろうと思います。

 

次回は、AIなどのテクノロジーが発達した将来における問題点も含めてさらにお話をうかがっていきます。

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梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。