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ICTが進化する未来へ、子どもたちはどう育っていくのか 青山学院大学 杉本卓先生インタビュー第3回(全4回)

第3回 新しいテクノロジーと向き合うには

杉本先生近影
杉本 卓(すぎもとたく)
青山学院大学教育人間科学部教授。インターネットを利用した教育、電子メディア時代の社会・文化、読み書きと学習・発達の関係などの問題について研究している。訳書に『本が死ぬところ暴力が生まれる』(新曜社)、共著に『インターネットを活かした英語教育』(大修館書店)『教育の方法・技術』(学文社)など。

−−VRやAIなど、ICTの新しい技術に対しての考えをお聞かせください


まずVRについてお話しますね。

じつは、メディア的にはVRもパソコンやスマホの延長線上にあるものなので、わたしはそれほどVRが特別なものだとは思っていないんです。VRを「ある次元のなかに自分が置かれる技術」と考えると、パソコンでは2次元のなかにマウスという形で自分の視点があり、VRでは3次元で、まわりの映像が見えてそのなかに自分の視点がある、というふうに連続しているものなので。

VRの特徴はその世界に入り込めることです。自分とパソコン画面とが切り離されて向かい合っているのではなく、現実世界とうまく絡めることができるので、疑似体験やシミュレーションも含めて、体を使ったり五感に訴えたりして「体験する」ことに使っていくことができそうだとは思います。


−−次に、AIについてお聞きします。AIが発達した将来に大人になる子どもたちは、人間としてどんな感覚や技術を磨いておいたらよいでしょうか。

そうですね、AIが得意とする部分とそうでない部分というのは必ずあるので、AIが得意でない部分を人間が自信を持ってやることです。

AIが不得意なところというのは、たとえば芸術的な感性、あいまいなものの判断、そして意志決定といったことです。

あいまいなものの判断や意思決定でも、AIでできるようなものもあると思うんです。人間でないとできないところというのは、「どうしたいか?」という部分です。家庭や仲間のあいだでどういう人生をすごしたいか、なにを重要だと思うか、どんな価値観を持っていてそれをもとにどう行動したいか、というところです。

このような人間しかできないことについて感性を磨いていくことが、これから必要になってくるだろうと思います。

−−AIを教育に活用していくという報道も目にします。

AIは本当にパワフルなので、知的な部分については、かなりのことができてしまいます。決まりきった知識を教えるだけであれば、ひょっとすると人間より上手かもしれません。

でも人間でないと教えられないこともたくさんあるんです。それは先ほど言ったような、感性を伸ばすことだったり、価値観をともなった判断をする力をやしなうことだったり、人とかかわりながらちゃんと状況を読むことだったりします。AIにまかせず、人間がやるべきところの能力を伸ばしていくことですね。

そして、子どものことをよく理解し、この子にとって、このことは意味があるとか、本人が意味があると思ってくれているから伸ばしてあげよう、という判断ができるかどうかも保護者や教師に求められてくると思うんです。

それがここ何十年かでだいぶ細ってきて、うすっぺらな情報に頼ってどんどん弱ってしまっている部分ですけれども。


そして子どもの側で大事なのは、自分が消費している情報が、人間らしい感性や価値判断を伸ばして生かしているかどうかを意識することです。そこを磨いていくのが21世紀型能力でもありますし、AIとのつきあいかたも同じだと思います。

またAIをつくる側の人間も、技術的にできるからつくってしまうという考え方では危険だと思います。生物学的な研究やクローン技術にも同じことが言えますが、人間が幸せになる研究や開発とはどういうことかを健全に考えて新しいものをつくらないと不幸になってしまいますよね。

−−そうならないためには、どうすればいいでしょうか。

AIにまかせることはまかせ、人間としてやるべきことをやる。AIに使われるのではなく、むしろAIから、あの人はすごいと尊敬されるような人になればいいんじゃないかな、と思います。

−−とても考えさせられるお話でした。

 

次回は情報が押し寄せ、身の回りにどんどんICTが入り込んでくる社会において、保護者が心がけるべきことなどをうかがいます。

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梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。