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情報モラル教育のエキスパートが語る、ネットと子ども、そして保護者の望ましい関係とは ピットクルー株式会社 高橋大洋氏インタビュー第1回(全4回)

インターネットのコンテンツ監視サービスを手がけるピットクルー株式会社。同社では学校向けのネットサポートサービスを行なっており、「子どもとインターネット」について年間300回以上の講演と全国10,000校以上のネットパトロールを実施しています。インターネット利用者行動研究室の高橋大洋室長に「情報モラル教育のいま」についてうかがいました。

(インタビュアー 川筋真貴)

ピットクルー高橋氏近影
高橋大洋(たかはしたいよう)
ピットクルー株式会社 インターネット利用者行動研究室 室長。2008年ごろから、「子どもとインターネット」領域での保護者や学校支援に取り組んでいる。「ネットとのつきあい方をオトナにもわかりやすく」をモットーに研修講師、教材開発、執筆、省庁・自治体の会議委員など幅広く活動中。子どもたちのインターネット利用について考える研究会(子どもネット研)事務局(2008年~)。一般社団法人セーファーインターネット協会事務局(2014年~)。

第1回 情報モラル教育で子どもたちが本当に知りたいこと

−−高橋さんは小学校や中学校で、情報モラル教育のセミナーを数多く行なっているそうですね。


情報モラル教育という言葉は、文部科学省が定義し、いまでは学習指導要領にも組み込まれています。子どもたちが情報社会で生きていくために必要な知識や適切な態度を身につけさせようということです。

実は少し前まで、いわゆる「インターネット安全教室」はトラブル予防のための教育であり、学校での生徒指導の延長線上にありました。ネットでのトラブルというのは「ネット上の遊び場に子どもが勝手に遊びに行って悪いコトをする、被害に遭うこと」というのが当初の問題のとらえ方だったわけです。ですから、そこで起こった事例で怖さを伝えればおとなしくなるだろうという、わりと単純なロジックで組み立てられているものが多かったんです。

最初のころはそれも機能もしたでしょうし、意味合いとしては合っていたのかもしれません。でもこれをやったらダメ、これは危ないからやめようと事例を列挙していく教育方法には限界があります。根っこにあるネットのしくみを子ども自身が理解して、自分で判断できるというところをめざさないとネットトラブルは減りません。

−− ピットクルーの情報モラル教育の出張授業では、どんなことを教えているのですか?

多くの子どもたちが本当に知りたいことは「危ないからダメ」ということではなくて、「なんで危ないの?」「どうすれば防げるの?」というようなしくみについての疑問なんです。

そこで、わたしたちの授業では、ネットのトラブルの事例だけを紹介するのではなくて、子どもたちも知っているはずと思い込んで保護者も先生もなかなか触れない「インターネットのしくみ」を子どもたちにわかりやすい言葉で教えています。

一例をあげると、子どもたちは自分たちが使っているオンラインコミュニケーションのしくみを知らないことが多いんです。自分と相手でやりとりする内容は、途中でどこかを経由しているのかもしれないけど、やりとりしているふたりにしか中身を見ることができない……そのくらい単純なものだと勘違いしている。でもそれは大間違いで、現実の生活よりずっと匿名性のないしくみになっている、というような、意外とだれも教えてくれないことを伝えています。

そして、子ども向けの授業と同じねらいの授業を保護者や先生にも受けてもらい、ネット教育は周りの大人がいっしょに取り組まなければいけないことを伝えています。

−−保護者や先生も同じ授業を受けるんですか?


家庭教育学級での講演(世田谷区立中学校にて)

保護者や先生が日常的に子どもたちとネットとのかかわり方を見守ることで、子どもたちが受けた授業の効果がまったく違ってくるんです。ですから子どもたち向けと同じねらいの別の授業を保護者向け、先生向けと角度を変えてなるべく同時期に聞いてもらいます。

−− 授業で保護者に伝えたいことを教えてください。

保護者には監督官や指揮者のような立場に立つだけでなく、保護者自身がネットとのつき合い方をしっかり見直してほしい、余裕がある人については、他の人の相談に乗れるようになってほしいと思っています。

また、保護者は知らなきゃいけないことがいっぱいあると思いがちなんですが、実は子どもたちの多くがオンラインコミュニケーションで直面する悩みのほとんどは、人間どうしのコミュニケーション、心理の話です。そんなの、長生きしている大人の方が小学生・中学生より絶対に詳しいんですよ。

情報技術にかかわるほんとにわずかなところだけ押さえておけば、新しいことを次から次におぼえなくていい。新しいアプリの流行に右往左往するより、根っこにあるネットのしくみや背景を学んだうえで、子どもといっしょに日々試行錯誤していきましょうと伝えたいですね。

−− 情報モラル教育でめざすのは、子どもたちと保護者がネットのしくみを理解してネットでのトラブルを減らすこと。次回は子どものネットトラブルを保護者が回避できる方法についてうかがいます。

川筋真貴
川筋真貴(かわすじまき)
中学校の国語教員を経てライターに転職。女性向けの媒体での執筆が多く、IT関係からファッション・ペット・インテリアまで、女性のライフスタイルに役立つ記事の作成を得意としている。趣味は長年続けている茶道と御朱印集め。東京都在住。