わが家のSNSトラブル ~ユカの事件簿~

Case 22 夫婦ゲンカ実況中

Case 22 夫婦ゲンカ実況中

「夫婦ゲンカ爆音上映中!」

「アハハハハ、Aちゃん、『うちの親、夫婦ゲンカ爆音上映中』だって」
と娘のユカがスマホでTwitterを見ながら笑っています。

Aちゃんはユカの中学校の同級生で、いまも毎日のようにTwitterで近況を知らせあう仲よしです。わたしも、Aちゃんと親ごさんの顔見知りです。

休日なのに朝からケンカで起こされるAちゃんは気の毒ですが、Aちゃんの親ごさんはもっとお気の毒です。何年も会っていないわたしにまでケンカしていることを知られるなんて……。

子どもが夫婦ゲンカをTwitterで実況しているとわかったら、ケンカも即時終了にちがいありません。

「言わなくていいこと」の定義はむずかしい

子どもが「かくす必要はなくても、わざわざ言わなくてもいいこと」を外でしゃべってきてしまうのは、SNSのない時代でもふつうにありました。

「言わなくてもいいこと」はたとえば、家族のもめごととか、部屋がきたないとか、夕食の手抜き(逆にごちそう)とか、旅行先とかさまざまです。

わたし自身も、ユカが小学校のころ、授業で「最近うちのママはとてもイライラしているので、わたしは怒らせないようにすごく気をつかっています。」と発表したと担任の先生から聞いて、顔から火の出る思いをしたことがあります。

クラスでためらいなく発表したくらいだから、当時SNSがあったらユカは毎日「今日もママはイライラしてる」とワールドワイドにお知らせしていたかもしれません。

いまの子どもはSNSをごくプライベートに、直接友だちに話すように使っています。でもSNSは世界にも発信できるツールですので、その場限りで流れていく話し言葉とちがい、「言わなくていいこと」の扱いには注意がいります。

「言わなくてもいいこと」には、たとえば個人情報に気をつけるときの「住所」や「名前」的なわかりやすい条件はありません。その家庭や時と場合によって変わるものですから、言ってしまった後のことを考えてその都度判断しないといけません。

ネットを使う子どもたちは、これを判断できるようになるまえに、広く拡散できるツールを手に入れてしまっているのです。

Aちゃんが実況中継した理由

もういちど、冒頭のAちゃんの夫婦ゲンカツイートに戻ります。

もう分別のつく年ごろのAちゃんは、仲間だけのかぎアカでつぶやいていたのですが、どうしてそんな実況をしたのでしょう。つづくAちゃんのツイートは、「聞いているのが辛い」というものでした。

大学生になっても両親がケンカをするのは子どもにとって大きなストレスで、AちゃんはTwitterでケンカを実況することで、友だちと辛い気持ちを共有して解消しようとしたのでしょう。

辛さをひとりで抱え込まず他人と共有するのは、恋愛や受験、人間関係など、さまざまなストレスにとても有効です。SNSを使えば、時間や場所の制約もありません。

反面、思った瞬間に投稿できるというSNSの手軽さは、落ち着いて起こっていることの意味を考えたり、自分のなかで感情を消化する時間を持たないまま、不特定多数に発信してしまう危うさもはらんでいます。

SNSの時代だからこそ「発信するまえにいったん考え、状況や感情を自分で受け止める」ことを、子どもも大人も大切にしないといけないとわたしは感じます。

立ち止まって考える習慣が、不用意な「言わなくてもいいこと」発信への一番の処方せんにちがいないでしょう。

マリ(まり)
サラリーマンの夫・大学生の娘(ユカ)との3人暮らし。
大学の恩師の「あなたは一生文章を書きつづけなさい」という言葉を真に受けて、今も日々ものを書いている。
現在はIT系の会社で、セミナー関連の仕事に携わっている。
趣味は映画鑑賞。年に100本みることがひそかな目標。