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星空は科学への入り口 国立天文台が伝える星の魅力 第1回(全4回)

夜空を見ればだれでもできる科学体験として星空観察があります。星や宇宙について研究する天文学は、はるか昔から行なわれてきた身近な学問でもあります。天文学の楽しさとはなんでしょう。家庭で親しむにはどうしたらいいのでしょうか。
自然科学研究機構国立天文台天文情報センターの縣秀彦(あがたひでひこ)准教授に話を聞きました。

縣 秀彦(あがた ひでひこ)
自然科学研究機構国立天文台准教授、天文情報センター普及室長。専門は天文教育と科学コミュニケーション。国際天文学連合国際普及室長、日本科学教育学会理事、日本天文教育普及研究会長などを歴任するほか、テレビやラジオ等でも活躍。「面白くて眠れなくなる天文学」(PHP出版)、「地球外生命は存在する!」(幻冬舎)など多数の著書がある。

第1回 天文学とわたしたち

――はじめにお聞きしますが、そもそも天文学とはどんな学問なのでしょうか。


天文学は 天からの文(ふみ)を読み解く学問と解説する縣さん

「てんもん」という字は「天の文(ふみ)」と書きますよね。天文学とは、天からやってくる文(ふみ)を読み解く学問なんです。では、天からやってくる文(ふみ)とは、なんだと思いますか?

――星の光?

そうです。光です。その天から届く光を使って、人間は暦をつくったり、時刻を決めたりしてきました。それだけではなく、皇帝や王様が国を治めるときにも天からの文(ふみ)を使うことがありました。

はるか昔から人間は、自分たちの存在をこえたもっと大きな存在があることを感じとっていて、それをUniverse(ユニバース)=宇宙と呼んだんです。
宇宙とは森羅万象をさすんですよ。この世のありとあらゆるすべてのもの、宇宙にある一切の存在や現象のことを、天からの文(ふみ)を読み取って調べようとしているのが天文学なんです。

――どのようにして天からの文(ふみ)を読み取るのでしょうか。

はじめは目で星を見て文(ふみ)を読み取っていました。でも400年くらい前から望遠鏡という道具を使うようになり、宇宙からやってくる光がさらによく見えるようになりました。100年くらい前からは、目で見える光だけでなく、宇宙からやってくる「電波」も文(ふみ)としてとらえられるようになりました。2015年に世界ではじめて検出された「重力波」も文(ふみ)です。こんなふうに目で見える光だけでなく、天からの文(ふみ)がマルチになったというのが、いまの時代です。

――天文学の魅力はどんなところにありますか。

昔の人だけでなく、現代人も目のまえにある星や宇宙に関心がありますよ。そうでなければ、故ホーキング博士の難しい宇宙論の本が世界中でベストセラーになったりしませんよね。では、なぜ関心があるか。それは、自分が何者であるかを知りたいからにほかならないんです。


人間にとって宇宙は、潜在的な知的好奇心の対象だという縣さん

人類の存在とはなにか。わたしたちは何者で、どこから来てどこへ行こうとしているのか。このことについて、意識するしないにかかわらず、人類一人ひとりが「知りたい」という知的好奇心をもっている。人間にとって宇宙は、潜在的な知的好奇心の対象なんだと思います。もちろん、ミクロの世界や深海底なども知的好奇心にあふれていますが、そういった分野は、非常に専門性が高いのでプロの科学者でないとアプローチが難しいことが多い。でも、空はだれがどこから見ても存在するので、だれからもアプローチがしやすいですよね。

学問としてみると、天文学は昔も今もアマチュアが活躍しています。数年前にはアメリカで、小学生が超新星※1 を発見しました。
大人も子どもも発見ができて、学術的な社会貢献ができる。場合によっては見つけた星に自分の名前が残せる。そんなところにも魅力があると思っています。

※1 超新星は大きな星が一生を終えるときに大爆発を起こす現象のこと。急に明るさを増して、まるで新しい星が生まれたように見えるので「超新星」と呼ぶ。

――子どもが活躍できるというのはすごいですね。

天文学って「みんなの科学」なんですよ。いまでも太陽系外惑星の名前を一般市民の公募で決めたり、宇宙探査機に載せるメッセージを集めたりしていますよね。天文学には、そうした市民科学としての魅力があります。
これがもし特許が絡んだりすると、みんなで決める・みんなでやる、というふうにはいきません。

また、天文学のいいところとして、国際的な紛争の種にならない、という点もあげられますね。実際、最先端の天文学研究では、世界中の国が協力しあっていろいろなプロジェクトを進めています。そういった意味でも「みんなの科学」なんですよね。さまざまな文脈において「みんなの科学」であるということは、天文学の大事な立ち位置だと思います。


日本を含む22の国と地域が協力して運用するアルマ望遠鏡。南米チリの標高5,000mの高地に建設された(写真:国立天文台)。

――「天からの文(ふみ)」そして、「みんなの科学」。次々に印象的な言葉が飛び出しました。

次回はいま注目の天文学のトピックスについて聞きます。

(企画・構成 渡邉純子)

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第1回 天文学とわたしたち
第2回 この夏は火星に注目!
第3回 星空は科学への入り口
第4回 家族みんなで星と宇宙を楽しもう

梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。