「ふしぎ」をとことん調べた自由研究、発見と感動の種はいまでも無限にある――大西琢磨「しんかい6500」パイロット

「ふしぎ」をとことん調べた自由研究、発見と感動の種はいまでも無限にある――大西琢磨「しんかい6500」パイロット

「しんかい6500」のパイロットとして深海調査に携わる大西琢磨さん。子どものころは、自由研究に熱心に取り組んでいたそう。身近にある「不思議」を探る自由研究はとても楽しく、家族の一大イベントでもあったそうです。今年の夏はお子さんといっしょに自由研究を楽しんでみませんか?

大西琢磨 (「しんかい6500」チーフパイロット)
水産研究・教育機構 水産大学校(沿岸環境生態学専攻)卒。日本海洋事業株式会社に入社し「しんかい6500」運航チームに配属される。2007年に南西諸島海溝にて初潜航後、有人潜水船をはじめ、無人探査機、深海機器など多数のオペレーションに携わる。コパイロット(船長補佐)、パイロット(潜水船船長)を経て、2017年「しんかい6500」運航チーム チーフパイロット(潜航長)に就任。現在までの潜航回数は86回(2018年7月現在)。趣味はサイクリング、スクーバダイビング

深海の謎を探るパイロット

「しんかい6500は名前の通り、水深6500mまで潜ることができるJAMSTEC(海洋研究開発機構)の有人潜水調査船です。人を乗せて6500mという深さまで潜ることのできる現役の潜水調査船は世界でも2隻しかありません。


潜航していく「しんかい6500」©JAMSTEC

わたしはこの「しんかい6500」のパイロットとして調査に携わっています。深海では生物の生態を調べることで進化の謎を解明したり、深海底のようすを探ることで地球の成り立ちや地震のメカニズムを研究したり、海底に眠る新たな資源について調査したりします。「しんかい6500」のコックピットは内径が2mの球形で、パイロット2人と研究者1人の計3人が乗れます。研究者が深海で研究したいことに合わせて機器を操縦して船体を動かしたり、岩石や生物を採取したり、機材を海底に設置したりするのがパイロットの仕事です。


「しんかい6500」は、深海潜水調査船支援母船「よこすか」に搭載され、調査に向かう。航海中はここでメンテナンスも行う。

コックピットは2mの球体で3人乗り。中央ののぞき窓をのぞいて操縦しているのが大西パイロット。©JAMSTEC

研究者にとって「しんかい6500」に乗船して調査できる機会は貴重です。限られた時間で最大限の成果を挙げなければと重圧を感じている研究者が、できるだけゆったりと深海を観察できるように環境を整えることも仕事。調査によって海底の自然を壊さないように、常に細心の注意を払うようにしています。
深海に向かうときは緊張気味だった研究者が、目的を果たして浮上するときには本当に生き生きとされているときなどは、パイロット冥利に尽きる思いがします。

生き物とともにすごした子ども時代

子どもの頃は兵庫県姫路市に住んでいました。とにかく生き物が好きで、近くの田んぼや川でとってきたエビや魚を水槽に入れて飼っていました。50cm近くあるナマズを釣って飼ったこともあります。カエルやトカゲ、チョウチョなんかを見かけたら、「しめしめ、こいつを飼ってやろう」と追いかけ回していました。あるとき、庭に植わっていたパセリをアゲハチョウの幼虫が好きだということに気づき、パセリを植え続けたら毎年卵を産むようになってくれて、うれしかったです。

ハムスターやリス、セキセイインコなどを飼ったこともあります。熱帯魚も好きで、小学校の友だちと自転車で市内の熱帯魚屋さんめぐりもしました。雑誌には、東京のお店に姫路にはいないような魚がいろいろ出ていたので、東京に行きたいなって友だちと話したこともいい思い出です。熱帯魚の機材は高価で買えず、金魚用のものをなんとか工夫して代用したりしていました。

振り返ると、特に水辺の生き物が好きだったような気もしますね。魚は見ていて飽きませんでした。当時ファミコンゲームがはやっていましたが、我が家は禁止でしたから、身近な自然や生き物と遊ぶのが楽しかったのでしょうね。本当はファミコンを持っている友だちがうらやましかったんですけど(笑)。

好きなものに向き合った自由研究

そんな子ども時代でしたから、自由研究では主に身近で興味を引かれたものを題材にしていました。
小学校1年生のときには、セミの自由研究をしました。夏になると家の周りでうるさいくらいに鳴いていたし、姫路城の周りには家の近所にはいないセミがいたので、よくセミ捕りに行っていました。抜け殻も不思議で面白くて、集めているうちに幼虫がどうやって羽化するのか気になり、どうしても見たくなりました。家族で夜に姫路城に出かけて、羽化する前の幼虫を捕まえてきて網戸にとまらせ、夜通し観察しました。母に聞いたところ、幼虫を見つけるのが大変で、何度も姫路城へ行ったようです。

羽化のようすは本当に感動的で、眠さは全く感じませんでした。なかにはきれいに羽がのびない幼虫もいて、「がんばれーっ」と応援しながら見守っていましたね。今でもその光景はよく覚えています。セミの羽化のようすを見たのはこの自由研究のときだけで、大人になった今、もう一度見てみたいと思いますね。

2年生のときには、ウナギが食べられるようになるまでの過程を調べました。母方の実家が浜名湖のほとりにあり、当時はウナギの養殖池や加工所、販売店などがあちこちにあって、よく遊びに行っていました。養殖池のようすを見せてもらい、選別や出荷、加工場でウナギをさばくところ、販売所、店で焼いて売っているところも訪ねて写真を撮り、話を聞いてまとめました。地元の人に行くとよいところを教えてもらったり、ウナギをつかませてもらったりしたことも自由研究に残っています。


大西さんが小学校2年生のときの自由研究「うなぎをたべられるまで」

大学時代には浜名湖の水質を調べていて、浜名湖の生態系を調べる仕事をしたいと考えたこともありました。現在の仕事について、ウナギの研究で世界的に有名な塚本勝巳先生が、ウナギの産卵生態の解明のための調査航海をされたとき、いっしょに「しんかい6500」で潜航することができ、とてもうれしく光栄でした。

苦労して取り組んだことが自信につながる

3年生で取り組んだのはカイコの自由研究です。何かのキャンペーンでカイコの飼育セットが当たって幼虫が送られてきたので、これを自由研究にしたようです。幼虫がまゆをつくり、羽化して卵を産み、死んでしまうまでを模造紙にまとめました。今回、改めて自由研究を見てみたら、「せっかく羽があるのに人間が品種改良したから飛べなくなってかわいそう」といったことを書いてあって、なんかジンとしました。


大西さんが小学校3年生のときの自由研究「カイコのかんさつ」

4年生のときに取り組んだのはレモン電池です。雑誌の記事で自由研究の項目が並んでいたなかで興味をもったものを選んだ覚えがあります。細かな内容は覚えていませんが、冊子にまとめ、表紙もこだわってつくりました。これは姫路科学館で展示され、家族で見に行きました。
姫路科学館にはよく遊びに連れて行ってもらっていました。自由研究にはしませんでしたが宇宙にも興味があって、科学館の天体望遠鏡で惑星を見たりしていたので、その科学館に展示されたのはうれしかったですね。

自由研究は1日や2日で終わりませんから、大変だった思い出がありますね。字を書くのが苦手で、まとめるときにたくさんの字をまっすぐに書くのに苦労しました。でも自由研究のために普段行けないようなところに連れて行ってもらえたり、普段は見られないような生き物の姿に出会えたりしたので、年に1度の大イベントとしてとても楽しみでもありました。学校ではみんなの自由研究が体育館に並べて展示されるのですが、苦労した分思い入れがあり、自分のものが一番よくできていると思えて、自信になりました。

当時は自分自身で自由研究を進めてやり遂げたと思っていましたが、今振り返ってみると家族をはじめ、親戚、調べ物のために訪ねた先の人など、いろいろな人が協力して見守ってくれていたことがわかります。母もそんなに昆虫が好きではなかったと思うのですが、いっしょに観察しながら自由にやらせてくれました。みんな、わたしが「自分でやった」と思えるような形で協力してくれていたのですね。そういう人とのつながりが自然にできるのも、自由研究の良さだと思います。


「自由研究は苦労した分、思い入れもあり、それが自分への自信につながりました」と話す大西さん。

「なんか違う」も立派な研究

自由研究をどうしようか悩んでいるなら、身近にある好きなものや興味のあるものをじっくりと観察するのがいいと思います。子どもは頭が柔らかいので、変化や違いに素直に気づきます。人より長い間同じものをずっと見ていると、きっと何か自分だけの素敵な発見があるし、それは大きな感動につながります。

近所の川や田んぼなどに出かけて植物や生き物を観察するのもいいですし、都市に住んでいても、街の中や家にある花や植物、冷蔵庫の野菜、ペット、空の雲など、発見の種はどこにでも無限に眠っています。「昨日までこうだったのに今日はなんか違う」ということでも立派な発見であり、研究です。ちなみにわたしは最近、部屋で育てている柱サボテンの観察にはまっています。先日はじめて花が咲き、ずいぶん感動しました。

多様な姿を見せる「最後のフロンティア」深海

小学生のころ、好きなことに取り組んだ経験は大きな財産になっていると思います。今でも生物が好きですし、姫路科学館で天体観測をしていたころは宇宙飛行士になりたいと思ったりもしていました。

深海はさまざまな顔をもっています。チムニーといわれる噴出孔から熱水が噴き出しているところには、光合成に頼らない独自の生態系があり、「深海のオアシス」と呼ばれています。ヒバリガイの仲間やエビの仲間などが無数に群がっているようなにぎやかな場所で、ふつふつと湧き立つような、躍動感あふれる地球のダイナミズムのようなものが感じられます。


伊豆・小笠原海盆(かいぼん)のチムニー。手前に見えるのは「しんかい6500」のマニピュレーター(マジックハンド)と採集した岩石などを入れるサンプルバスケット。©JAMSTEC

一方で、生物どころか微生物などの死骸であるマリンスノーさえも見当たらない場所もあります。本当に真っ暗で「無」といってもいいような世界なのですが、そんなところでふと、マッコウクジラが近くを通ったのではないかとか、何か生物がいるのではないか、といった気配が感じられ、不思議な感覚になることもあります。海底には結構流れがあり、ゴーッというような音が聞こえたりもします。

相模湾や駿河湾は、陸地から一気に3000mくらいの深さまで海底が落ち込んでいて、プランクトンが流れ込みやすく生物の種類が非常に豊かです。カメラでは写らないような、名前もついていないような無数の小さな生物が、海面から海底まで、そこらじゅうでうにょうにょと動き回っています。深海はすでに調査された場所はごく一部で、「地球最後のフロンティア」といわれるように未知の世界が広がっています。

深海に潜航するまでにもいろいろな映像で深海や海底のようすを見て知識はありました。しかし、実際に潜ってみると、右も左も上も下もどこを見ても深海で3次元の広がりが感じられ、平面の画面で見る深海とは全然違うと実感しました。チムニーの周辺に何千匹、何万匹のエビが群がっている映像も見たことがありましたが、実際にただなかに行くとその世界が立体的に感じられ、「こうなっていたのか」と映像との違いに驚きます。実際に見る深海は、実に広いのです。


黒いけむりのような熱水の周りには、エビや巻貝がたくさん生息している。(中央インド洋海嶺 かいれいフィールド)©JAMSTEC

答えがないから発見の喜びがある


「自由研究にまつわる経験は一生の思い出になるかもしれません」と話す大西さん。

自由研究に話を戻すと、テレビなどで自然や動物について知るのも悪いことではありませんが、やはり身近なものを実際に観察してほしい。今はインターネットなどで手軽に調べることもできますが、そういうものに頼りすぎると自分の中で正解をつくってしまい、見方をせばめてしまうような気がします。答えのないまま取り組むほうが面白いし、発見の喜びもひとしおではないでしょうか。自分でいろいろとやってみてから調べ、ここはいっしょだな、とかこれは違うな、などと比べるのはいいことだと思いますけれど。

保護者の方はいろいろな題材を探してきてアドバイスするよりも、子どもが何に興味がありそうなのかをさりげなく探り、いっしょに観察してみるといいのではないでしょうか。普段からいろいろなフィールドに出かけたり、図鑑や本などを見たりする機会をつくり、子ども自身が興味を持ったものに自然と向き合えるような環境を整えてあげられるといいですね。

自由研究は確かに大変ですが、面白い発見があるし、一生の思い出になるかもしれません。学年が低いときほどインパクトが大きいのか、わたし自身、一番記憶に残っているのは1年生のときのセミの羽化の観察で、その次は2年生のウナギです。低学年のうちからいろいろな経験をすることには大きな意味があり、何らかの自信につながるのではないでしょうか。

ぜひ、自由研究を「保護者にとって面倒な宿題」ではなく「一大イベント」として、お子さんといっしょに楽しんでみてください。


深海潜水調査船支援母船「よこすか」
学研キッズネット編集部(がっけんきっずねっと)
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