子どもが伸びる親力

事件にならないまでも、密かに進行する中学受験の弊害

事件にならないまでも、密かに進行する中学受験の弊害

また起きた悲惨な事件

今年(2016年)の8月21日に名古屋で中学受験を巡る悲惨な事件がありました。
小学6年生の男児が父親に刺殺されたという事件です。

朝日新聞によると、容疑者の父親は「自分の期待通りに受験勉強をしなかったことに不満を募らせたといい、『口論になって刺した』などと説明している」とのことです。

中学受験を巡っては、ときどきこのような事件が起こりますが、これらは氷山の一角です。

事件にはならないまでも、その一歩手前までいったという例はたくさんあります。そこまでいかなくても、親子関係が冷え切ってしまったという例は非常にたくさんあります。

中学受験のネット掲示板やブログにもそういう話がよく出てきます。

がんばると約束してもすぐ挫折する

志望校の学校説明会に親子で出かけると、在校生たちのすばらしい学園生活を動画で見せられます。

「どう素晴らしい学校だね。あなたもここに入りたい?」

「うん、この学校に入りたい」

「じゃあ、これから受験勉強がんばる?」

「うん、がんばる」

「約束だよ!毎日がんばろうね」

「うん、約束する」

このような会話があって受験勉強がスタートします。でも、「約束」通りに勉強をがんばり続けられる子は極めて少ないです。

特に、男子(厳密に言えば男子脳の子)は、ほとんどの子がすぐに挫折します。

発達段階から見ても中学受験には無理がある

それは当たり前のことです。

そもそも、10歳ちょっと過ぎたくらいのこの年代の子どもたちにとって、毎日長時間の勉強をやり続けるというのは不自然なことだからです。

発達段階から見ても、この年代は、毎日楽しく遊びまくる、時間を忘れて自分がやりたいことに没頭する、そういった黄金の少年・少女時代の最後の時期なのです。

やりたいことをやる時間がほとんどなく、毎日難しい勉強をやらされる、やらないと叱られる……。

この年代の子どもたちにとって、こういう毎日がどれほど苦痛なことか!

親のイライラが爆発する

そんな状態ですから、成績が上がるはずもなく、親のイライラはますますつのります。

そして、子どもに向ける言葉は日ごとに荒々しくなるばかりです

「がんばるって約束したよね。やるやるって口ばっかりで、いつになったらエンジンがかかるの」

「やるべきことをやらないで、一体あなたは何をしてるの? そんなことで○○中学に行けると思ってるの? あなたは自分に負けてるのよ」

「ちゃんと勉強しないと、今度のお出かけはナシ。お出かけしたいなら勉強しなさい」

「何度言ったらわかるの? あなたのために言ってるのよ。お母さんの気持ちがわからないの?」

挙げ句の果てには、子どもへの人格攻撃が始まります。

「口先だけなら何とでも言えるよ。ホント、あんたは口先だけの人間だね。もう、あんたなんか信用できない」

「なんでちゃんと勉強しないの。しっかり勉強しなきゃダメでしょ。なんでそんなにズルイの」

自己否定感と愛情不足感が子どもに深刻なダメージを与える

こういう言葉を浴び続けるといろいろな弊害が出てきます。

まず、子どもは、自分に自信がなくなり「自己否定感」にとらわれるようになります。

「ぼくってダメだな。○○なんかできるはずないよ」

「どうせ私なんかダメな子だ。何をやってもできないよ」

という思い込みに支配されるようになるのです。
親に対しても疑問が出てきてしまいます。

「お母さんは私のことをダメな子だと思ってる。なんだか嫌われているようだ」

「お父さんはボクのことをよく思っていないみたいだ。大切に思ってくれていないんだ」

という思い込みに支配されるようになるのです。
これは親の愛情が実感できない「愛情不足感」と言われるものです。

成長期のこの年代に「自己否定感」と「愛情不足感」にとらわれると、その後、長い年月に渡って尾を引くようになり、親が思う以上に深刻なダメージを子どもに与えます。

何のために中学受験するのか?

私は私立中学の存在自体を否定しているのではありません。
公立以外にいろいろな選択肢がたくさんあることは、とてもよいことです。
公立の学校しかない国というのは、とんでもなく困った国だとも思います。

親が「この子にはこういう学校でこういう教育を受けさせたい」と考えたり、子ども自身が「自分はこういう学校でこういう教育を受けたい」と考えたりして、自由に学校を選べるのはとてもよいことです。

でも、問題は、その本来の趣旨からかけ離れてしまっているケースが多いということです。
受験ブームだから受験するとか、受験しないと負け組だから受験するなどということが増えています。
これらは親の見えや世間体で受験しているのです。

あるいは、親自身が行きたくても行けなかったので自分の夢を子どもに託す、などというとんでもない勘違いをしているケースもあります。

中学受験より高校受験で勝負した方がよい子もいる

それに、はっきり言って、中学受験に向かない子もいます。

自己管理力がまだ十分に育っていない子、もともと勉強がそれほど好きでも得意でもない子、教科の得意・不得意の差が大きい子、などは向いていません。

特に自己管理力の成長は早い子と遅い子の差が大きく、これがまだ育っていない子には中学受験は無理です。

でも、小学校時代にはそういう状態だった子が、中学に入ってから伸びてくるというケースもよくあるのです。

そういう子は、無理に中学受験するよりも、高校受験で勝負した方がはるかによい結果が得られます。

子どもの成長ペースは百人百様です。
早くから自己管理力が高い早熟の子ばかりがよいのではありません。
だんだん尻上がりに伸びてくる子もいるのです。

ですから、わが子の成長のペースをよく見て、まだ無理だと思ったら「勇気をもって中学受験から潔く撤退する」という選択肢も持って欲しいと思います。

繰り返しになりますが、この年代の子どもを毎日毎日叱ってばかりという状態は絶対によくない、ということを肝に銘じて欲しいと思います。

親野智可等(おやのちから)
教育評論家。1958年生まれ。本名 杉山 桂一。
公立小学校で23年間教師を務めた。教師としての経験と知識を少しでも子育てに役立ててもらいたいと、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。具体的ですぐできるアイデアが多いとたちまち評判を呼び、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど各メディアで絶賛される。また、子育て中の親たちの圧倒的な支持を得てメルマガ大賞の教育・研究部門で5年連続第1位に輝いた。読者数も4万5千人を越え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。『「親力」で決まる!』(宝島社)、『「叱らない」しつけ』(PHP研究所)などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。長年の教師経験に基づく話が、全国の小学校や幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会で大人気となっている。
著書多数。
Webサイト http://www.oyaryoku.jp/