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バーチカルの手帳を「いらない」と言われて/シリーズ 専門家にきく! 中学生・高校生の声をいかして新しい文房具をつくりだす 学研ステイフル【第2回】(全5回)

バーチカルの手帳を「いらない」と言われて/シリーズ 専門家にきく! 中学生・高校生の声をいかして新しい文房具をつくりだす 学研ステイフル【第2回】(全5回)

えんぴつ、消しゴム、ノートや暗記シートなど、子どもたちは学校で、そして家庭で、たくさんの文房具を使ってくらしています。文房具は子どもの学びに欠かせない存在で、こだわりの文房具があるお子さんも多いのではないでしょうか。こんな文房具があったらいいな……。そんな学生の思いが形になったのが「学生to」(がくせいと)シリーズです。

(株)学研ステイフルが(株)ロフトとのコラボで開発し、ロフト限定で2016年に発売された「学生to手帳」は、現役の学生の声から生まれた手帳として注目を集め、完売しました。2017年には「学生to」シリーズとしてラインナップを拡大し、 “ありそうでなかった”学生向け文房具として、中高生向けの文房具市場に新風を巻き起こしています。

中高生の声は、いったいどのようなプロセスを経て学生向けの商品に結実していったのでしょうか。「学生to」シリーズの立ち上げからたずさわった営業部ホビー営業課課長代行の中澤達哉さんと商品企画室パーソナル企画課の中丸美乃里さん、広報担当の吉永真紀さんにお話を聞きした第2回(全5回)です。

第2回 バーチカルの手帳を「いらない」と言われて

渡邉:ロフトとのコラボ商品、「学生to」シリーズの第1弾となった「学生to手帳」について、開発の経緯をお聞かせください。

中澤:背景として、学習を記録できる手帳が学校ルート中心に販売されていて、中学校・高校での利用が広がっているという状況があります。その流れを受けて、ロフト限定のオリジナル手帳を作り、店頭とネットで販売しようということになり、わたしたち学研ステイフルに声がかかったんです。

ターゲットは中学生、高校生で、ゼロベースから商品開発をはじめることになりました。

中学生・高校生に向けたノートをゼロベースから開発したと話す、中澤達哉さん

ロフトのバイヤーの考えは、中高生は一般的にあまり手帳を使わないけれど、一日の過ごし方をみるとムチャクチャ忙しい。勉強、部活、バイトと忙しいからこそ、時間軸のあるバーチカル(縦に時間軸が書かれている手帳の型式)がぴったりなのではないかというものでした。

バーチカルって、学生にはなじみのない形なんです。通常は、使うとしてもレフトタイプ(見開きの左側が1週間の日付、右側がメモになっている手帳の型式)なんですね。

ただ、それはバーチカルにふれる機会がなく、身近にレフトタイプの手帳しかないから、使っていないだけなんじゃないかと。中高生がバーチカルの手帳を使う、というのをロフトが提案することでブームをつくっていきたいという意志がありました。

渡邉忙しい中高生のライフスタイルと、1週間単位で時間を見わたせるバーチカルという型式がマッチしているんじゃないか、という提案がロフトからあったんですね。

中澤:はい、そうです。ビジネスパーソンだったらバーチカルを使うかたはよくいるんですけど、中高生ではまだ使っていません。
そして、中高生はどういう手帳だったら使うのかな、どういう潜在ニーズがあるのかなということを探るために、実際に学生にヒアリングをすることにしました。
ここにいる中丸が品川女子学院の卒業生なのでまずはそこにあたってみることにしたんです。

中丸:わたしの母校の品川女子学院は私立の女子校で、中高一貫の6年制をとっています。企業コラボに積極的で、わたしも在学中には、総合学習の時間でさまざまな分野の大手企業とコラボを行なったりしていました。自分の経験からそういうことに抵抗がない学校だとわかっていたので、ヒアリングの打診をしました。そのときは手帳を使っている子限定で、高校1年生と高校2年生、計4人が協力してくれました。

品川女子学院とのコラボのきっかけになった企画課の中丸美乃里さん

中澤:そして、集まってくれた子に、既存のバーチカルの手帳を見せて、こういうのあったらどう? みたいなざっくばらんな話をしました。学生ならではなんですが、けっこう辛らつなこともズバズバ言ってくるんです。いろいろと刺激になりました。

渡邉:印象に残った意見はありますか?

中澤「バーチカルどう?」って聞いたら、「いらない」と言われましたね。

渡邉:それは……

中澤:「使わない」って言ってました。

中丸:ちょっと不安にはなりました(笑)

中澤:ただ、きっちりとしたバーチカルではなく、朝昼晩くらいのざっくりしたものだったら使うかも、という意見も同時にありました。

全国の中高生たちのニーズをたった4人が集約しているとは思わないのですが、収穫だなと思ったのが、学校にいる時間は時間割があるから、バーチカルの手帳は使わない、という話だったんです。それがのちのち、学生to手帳のフォーマットにつながっていきました。

品川女子学院の学生の声が形になった学生to手帳

渡邉:どういうところにヒアリングの意見が反映されているのですか?

中澤:中身を見てください。バーチカルの時間軸の9時から16時のところが時間短縮されています。

月曜日から金曜日までは、9時から16時がぎゅっと時間短縮されている

渡邉:ちょっと驚いてしまったのですが、月曜日から金曜日までは、9時から16時に時刻が書かれていないうえに、ぎゅっと短縮されているんですね。ビジネス向けだったらメインとなる時間帯が、圧縮されたデザインになっています。

中丸:はい、そうなんです。学生は9時から16時の時間帯は、学校で時間割が決まっていて、なにも予定を書くことがないんです。小テストがある、くらいのことが書ければいいんですよね。

中澤:その分、朝は早い時刻から、夜も12時までスペースをとっています。学校にいる以外の時間、つまり朝の時間と学校から帰ってからの時間を充実させましょうという時間軸になっているところがポイントです。

渡邉:学生向けというキャッチフレーズどおりの時間軸になっているのですね。

 

「いらない」からはじまった高校生へのヒアリングが、学生の生活に合った独自の時間軸につながったという中澤さん。ビジネス向けでは考えられない大胆なフォーマットのバーチカル手帳は、現役の学生の声から生まれました。次回の第3回では手帳にこめられた「学び」のサポート機能について聞きます。

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第1回 新しい文房具って、どうやってつくるの?
第3回 手帳で中高生の学びをサポートするしかけづくり
第4回 中高生の声を練り上げて、新しい文房具をつくる
第5回 文房具のこれからを考える

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

株式会社コドモット代表取締役社長。
NTT在籍時代の2001年、子ども向けポータルサイト「キッズgoo」を立ち上げ、同サイトでデジタルコンテンツグランプリ・エデュテイメント賞受賞。独立後は小学生向けのコンテンツを中心に、企業の子ども向けWebサイトや公共団体の子ども向けツールなどの企画制作を数多く手がける。一男一女の母。

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