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幸せに生きるための賢くなる算数学習法/「賢い子ども」の育て方【第13回】

幸せに生きるための賢くなる算数学習法/「賢い子ども」の育て方【第13回】

幸せな人生とは自分らしく生きられる人生です。そのために算数を学ぶのです。決して試験のために学ぶわけではありません。算数を学ぶ上で最も大切な姿勢は自分の頭で考え、納得しながら、少しずつ前に進むということです。

「速く解ける」ことより「深く考える」ことの方がずっと大切なのですが、大半の人は「速く解ける」ことがいいことだと勘違いしています。算数の問題を速く解くことを低学年のうちから重視すると、幸せに生きるための賢くなる算数学習で最も大切な資質が失われてしまいます。

それは堪え性です。

速く解くことを要求されているうちに、長時間考え続けることができない頭になってしまうのです。そもそも、反復練習で短時間に解けるようになるのは、解いたことのある問題だけです。つまり、レベルの高い中学校の入試問題には全く通用しないのです。

次の問題は筑波大学附属駒場中学で今年、出題された4題のうちの最初の問題です。

[1] 扉のついたロッカーが200個あり、それぞれのロッカーに1から200までの番号がひとつずつ書いてあります。最初、すべてのロッカーは扉が閉まっています。これら200個のロッカーに、次の100回の操作を行います。

なお、以下で「開閉する」とは、ロッカーが閉まっていれば開け、開いていれば閉めることです。

1回目すべてのロッカーを開ける。
2回目番号が2の倍数であるすべてのロッカーを閉める。
3回目番号が3の倍数であるすべてのロッカーを開閉する。
4回目番号が4の倍数であるすべてのロッカーを開閉する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

100回目番号が100の倍数であるすべてのロッカーを開閉する。

例えば2回目の操作の直後は、番号が奇数である100個のロッカーが開いていて、番号が偶数である100個のロッカーは閉まっています。

100回目の操作が終ったとして、次の問いに答えなさい。

(1) 番号が1から10までの10個のロッカーのうち、開いているロッカーの番号をすべて書きなさい。

(2)番号が99、100、101のロッカーはそれぞれ何回開閉されましたか。開けた回数と閉めた回数の合計を答えなさい。

(3) 200個のロッカーのうち、開いているロッカーは何個ありますか。

飛び抜けた難問というほどではありませんが、堪え性のない子をいくら鍛えてもこういう問題を解けるようにはなりません。言い換えれば、筑波大学附属駒場中学の算数は堪え性のない子を排除するためにあるのです。「速く答えを出したい!」と焦れば焦るほど、解けなくなります。

深く考えることができる子はこういう場合、どうすると思いますか?

ちゅうちょなく、書き出して調べます。もちろん、試験時間内にすべてを調べ尽くすことは不可能なので、問題文を注意深く読んで、必要な部分だけを調べます。

○は扉が開いている状態を表し、×は扉が閉じている状態を表します。

ここまで書き出せば、約数が関係することがわかります。

(1) 1~5の扉は6回目以降、開閉されることはありませんので、5回目の操作が終った状態と同じです。

6~10の扉はそれぞれ、6回目、7回目、8回目、9回目、10回目の操作で1回ずつ開閉されますので、5回目の操作が終ったときと逆の状態になります。

上の表のような結果になり、開いているロッカーの番号は1、4、9であることがわかります。

(2)操作は100回で終るので、100以下の約数の数だけ開閉されることがわかります。
99=1×99=3×33=9×11 なので、6回です。
100=1×100=2×50=4×25=5×20=10×10 なので、9回です。
101=1×101 ですが、操作は100回で終るので、1回です。

(3) 1、4、9は約数の数が奇数の平方数です。
1から100までの平方数は1、4、9、16、25、36、49、64、81、100の10個なので番号が1から100までのロッカーのうちの10個が開いています。

操作は100回目で終りますので、101から200までの平方数の番号のロッカーだけが閉じていることになります。101から200までの平方数は121、144、169、196の4個なので、番号が101から200までのロッカーのうち、開いているのは100-4=96(個)になります。

これらを合計し、10+96=106(個)のロッカーが開いていることがわかります。

100 101 195 196 197 198 199 200

「どうすればこういう問題がすらすら解けるようになるのか教えて下さい!」という質問が来そうですね。

残念ながら、そういう方法はありません。

この問題を100回解き直して、すらすら解けるようになっても、来年の入試で同じ問題が同じ形で出されることはありません。そもそも、上位の学校はすらすら解ける子なんて求めていないのです。

わたしは30年以上、中学入試問題を毎年、解き続けていますが、筑波大学附属駒場中学の問題がすらすら解けることなんてほとんどありません。
毎年、悶え苦しみながら解いています。そして、それが楽しくて仕方ないのです。

算数は解けることを楽しむ科目ではなく、解けないことを楽しむ科目なんです。
そういう取り組み方ができるようになれば、自分らしく生きる道が拓かれていくのです。

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シリーズ『「賢い子ども」の育て方』第1回から第13回(最終回)まとめ

宮本哲也(みやもとてつや)

宮本哲也(みやもとてつや)

宮本哲也(みやもとてつや)

1959年生まれ。
学生時代に塾業界に足を踏み入れ、大手進学塾講師を経て1993年宮本算数教室を横浜に設立。
「指導なき指導」を授業の柱に「無手勝流算数家元」と自らを名乗る。
無試験先着順の教室ながら、近年卒業生の80%以上が首都圏最難関中学(開成・麻布・栄光・筑駒・フェリス・桜蔭など)に進学する実績をあげている。
2009年、教室を日本橋に移転。2015年、教室をマンハッタンに移転。2017年、教室を中野に移す。

Webサイト http://www.miyamoto-mathematics.com/

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