シリーズ 専門家にきく!

「知識への扉をひらく 図鑑のひみつ」図鑑編集室インタビュー 第3回(全4回)

第3回 実録! 恐竜図鑑のティラノサウルスに毛が生えるまで

最新の科学研究の成果によってそれまでの常識が変わった場合は、どのように対応しているのでしょうか。


ティラノサウルスにまつわる新発見を例に、いつ、どのような発見によって学説が刷新され、かつてのティラノサウルス像をぬりかえるにいたったのか、「学研の図鑑LIVE 恐竜」の監修をされている真鍋 真(まなべ まこと)先生からコメントをいただきました。

真鍋 真(まなべ まこと)
国立科学博物館標本資料センター・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター・センター長。
恐竜など中生代の化石からは虫類、鳥類の進化を読み解く研究をしている。著書に「日本恐竜探検隊」(岩波ジュニア新書、共著)、「恐竜学入門」 (監訳、東京化学同人)のほか、「学研の図鑑LIVE 恐竜」など恐竜図鑑の監修多数。

―最近の恐竜図鑑を見ると、肉食恐竜のティラノサウルスは頭や背中に羽毛を生やした姿をしています。化石から羽毛が見つかったという最新の学術研究の成果が図鑑に反映されている例として、ティラノサウルスの図版が変更されるまでのいきさつを教えてください。


ティラノサウルスの羽毛化石は、まだ発見されていません。しかし、2004年に、ティラノサウルスのなかまのディロングに羽毛があることが発表されました。2014年には、ティラノサウルスのなかまのユウティランヌスにも羽毛が発見されました。

ディロングは全長2mほどですが、ユウティランヌスは全長約9mの大型ティラノサウルス類で、全長13mの大型のティラノサウルスにも羽毛があったと考えられるようになりました。

しかし、2017年5月、アメリカ・テキサス州のヒューストン自然科学博物館のティラノサウルスの首、腰、尾の付けねにウロコが確認されました。もともと羽毛だったがウロコに戻ったと考えられます。ただ、一部にウロコがあったからといって、体全体がウロコにおおわれていたかどうかはわかりません。今後さらに化石の発見が待たれます。個人的には、背中や前肢には羽毛を残した復元をおすすめします。

―化石から羽毛が見つかって、すぐに図鑑のティラノサウスに羽毛が生えたわけではないのですね。

真鍋先生のコメントの補足をしますと、全長2mの小型のディロングに羽毛があるだけでは、大きさのちがう全長13mのティラノサウルスにも羽毛があったかどうかは定まらないため、この時点ではまだ図鑑のティラノサウルスに羽毛は生えていません。

ところが、全長9mの大型のユウティランヌスに羽毛が発見されたことで、ティラノサウルスにも羽毛があっただろうと考えられるようになったため、図鑑のほうもイラストを変更することになりました。

羽毛が生えている面積はわからないけれど、全身に生えていると体温が上がりすぎるので、部分的に生えていただろうと判断してイラストの羽毛の量を決めました。


2017年にティラノサウルスのウロコが発見されたので、次の版では体のどの部分にどれくらいウロコを描くか精査したうえで、ウロコのあるティラノサウルスのイラストを描き起こすことになります。

―羽毛が生えた姿に変更した“最新のティラノサウルス”、読者からの反応はいかがでしたか?

読者ハガキを見るかぎりでは、「かっこ悪いじゃないか」という声は、ほとんどありませんでした。おそらくこの図鑑ではじめてティラノサウルスを見た読者が多いからだと思います。はじめからティラノサウルスはこういうものだと認識するから、違和感がないのでしょう。

むしろ、過去を知っている大人のほうにとまどいがあるようです。わたしも図鑑を改訂してから「ティラノサウルスに羽毛なんてかっこ悪いじゃないか」といろいろな人に言われました。

一部に羽毛があったというのが、現在考えられる最新の姿なので、かっこいい・悪いという問題ではないんですけれどね。

―「学研の図鑑LIVE 恐竜」で、最新の学説が反映されている例はほかにもありますか?


世界ではじめて全身の羽毛の色がわかった恐竜、アンキオルニスをのせています。化石の羽毛の部分からメラニン色素が発見されたので、それをもとに全身の色が再現されました。ほとんど鳥のような姿の恐竜です。恐竜とか宇宙とかは新しい発見がされるたびに、内容がどんどん変わっていきますよ。

 

―進化する図鑑をまとめるうえで、どんなところが大変ですか?


つくっていて楽しいので、あまり大変だとは思わないです。あえて苦労している点をあげると、正しく表現することと子どもが喜ぶかっこよさを両立させるのが難しい。

かっこよく描いてもらったほうが子どもにも喜ばれるので、以前、ティラノサウルスがうしろをふりかえったイラストを描いたんです。それを真鍋先生に見ていただいたら「ティラノサウルスはこんなに首が曲がりませんよ」と指摘を受けて、イラストを修正することになりました。首の骨の形状からすると、こんなに曲がるとは思いません、というわけです。正しくなければ、どんなにかっこよくてもダメです。科学の本ですから。お菓子のように図鑑を楽しんでもらっているからこそ、科学的な正しさにはこだわるんです。

 

―お話をうかがって、図鑑は研究者の見識をきれいな絵で見られる数少ない媒体なのだとわかりました。最終回の次回は、図鑑を親子で楽しむためのポイントをうかがいます。

梅本真由美(うめもとまゆみ)
サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。