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キレる子どもたちの原因は眠りにあり/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第2回】

キレる子どもたちの原因は眠りにあり/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第2回】

シリーズ『AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素』では、子育てにおいて、どんな時代でも変わらず必要なこと、そして、AI時代に必要な技術や能力の育て方を、6つのカテゴリーに分けて、最新の学術研究などをもとに紹介します。今回は第2回目です。

睡眠不足が続くと自分のことも好きじゃなくなる

小学生の50.8%が午後10時以降に寝ているというデータがありますが、みなさんのお子さんは何時ごろに寝て何時に起きていますか?

世界の平均睡眠時間がおよそ7時間半なのに対して、日本は6時間強と諸外国に比べて、大人も子どもも睡眠時間が短いようです。子どもたちの自己肯定感が低いとか、突然キレるということが、ちょくちょく話題になりますが、そうした状況と睡眠の相関を示すデータがあります。

文部科学省 「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」(報告書)より

文部科学省の調査(*1)によると、おおむね寝る時刻が遅くなるほど、「自分のことが好きだ」と解答する割合が減っていきます(ただし、該当者数の少ない午前2時以降と午前3時以降に就寝する児童・生徒を除く)。

また、午後10時以降で53.7%、11時以降で63%と、寝る時間が遅くなるほど、なんでもないのにイライラするという割合が増えていきます

人間は、太陽が出ている時間に活動する昼行性動物です。それが、夜更かししてスマホなどの強い光を浴びると、動物としての活動リズムが狂い、脳にも影響を与え心身の不調となって表れてくるのですね。

親の間違った思い込みで子どもが壊れる

しかし、こうした問題の根っこには幼少期からの積み重ねがあります。幼児期の睡眠時間が短いと、子どもの脳の発達にも影響が出てしまうそうです。そこで、睡眠が子どもの育ちに与える影響についてくわしい、小児科医の成田奈緒子先生にお話をうかがいました。

成田先生は、発達障害が疑われる親子の臨床経験をベースに、遺伝子や脳科学の研究をしていらっしゃいます。また、文部科学省の「早寝早起き朝ごはん」運動の委員もなさっていた先生です。

成田先生は、「脳育てに対する親の間違った思い込みが子どもを壊す」と警鐘を鳴らしています。
いったいどういうことでしょう。

たとえば、幼少期からおりこうで、勉強もピアノも運動も得意だったA子ちゃん。せっかくの才能を伸ばそうと小さいころから習い事をかけ持ちし、家での練習時間をつくるために6~7時間の睡眠でがんばっていたら、だんだん夜は寝つけず朝は起きられないという状態に。結局、やる気がなくなり、高校を中退して引きこもる結果になってしまいました。

A子ちゃんのお母さんも、小さいころから利発だったA子ちゃんの才能を伸ばしたいという思いで、いっしょうけんめいだったのです。でも、脳の発達と睡眠の関係を知らなかったために、幼児期から習いごとを優先して十分な睡眠時間を取らなかった結果、きちんとした順番で脳が育たなかったのかもしれません。

こんな例はあとを絶たないそうです。

脳を育てる順番を間違えてはいけません

実は、脳には育つ順番があります。
(1)からだの脳(大脳辺縁系、脳幹)→(2)おりこうさん脳(大脳皮質、小脳)→(3)こころの脳(大脳皮質の前頭葉)の順番です。

「からだの脳」は、からだの姿勢の維持、呼吸や睡眠、食欲、自律神経など生きるために必要な機能をコントロールします。

「おりこうさん脳」は、記憶や言葉、指先の細かい動きなど、人間ならではの高度な機能をつかさどります。

まず、からだの脳が十分育ち、そこが土台となって、おりこうさん脳が機能するようになったあとで発達するのが、感情のコントロールなどをつかさどる人間らしさの脳と言われる「こころの脳」、前頭葉です。

どんな子どもでも、脳は生まれてからこの順番で育っていきます。

しかし、さっきのA子ちゃんのように問題を抱える子どもの多くが、「からだの脳」がきちんと育っていないのに、「おりこうさん脳」を乗っけようとして、バランスを崩してしまっているのです。

「幼児期には『手を加えればよく育った』ように見えるけれど、正しい脳の発達に沿わない子育ては、小学校以降でほんとうに困った問題を引き起こす」と成田先生は言います。

反対に、いっけん遅れているように見えても、脳育ての順番を守って育った子どもは、あとになってぐんぐん伸びるのです。脳の発達の順番を守り、まずは土台となる「からだの脳」からしっかりと育てましょう。

あたまとこころとからだのバランスを維持するためにもっとも必要なのが、睡眠と食事です。そのキーワードが「早寝早起き朝ごはん」なのです。つまり、夜になったらちゃんと寝て、朝、太陽が出たら起きて、しっかり食べる。日中はからだを動かす。そのループを一定のリズムでくり返すこと。それこそが、子どもの才能を開くためにもっとも有効で大事なことなのです。

実際、睡眠と学力も関係があると言われています。

5歳までは夜8時に寝かせる。それだけで子どもは育つ!

子育てはほんとうに大変です。多くのお母さんが、仕事や家事で忙しいうえに、良い子に育てようと、子育てもがんばっています。

でも、がんばる方向を間違っていたとしたら、ほんとうに残念ですよね。

成田先生は、「5歳まではなにがなんでも夜の8時に寝かすこと」に親は根性を入れて取り組むべきだと言います。

「夜の8時に寝かせるなんて無理!」という声が聞こえそうですし、ご家庭の事情で難しいとう方もいるでしょう。でもここはがんばりどき! 1分でも早く寝かせるとことで、脳の土台をしっかりとつくることが大事です。成田先生によると、小学生も夜9時には寝かせたいそうです。

もう遅い! と思った人は、今からでも大丈夫。寝ないでがんばるのではなく、親もいっしょに早寝早起きに取り組んで、正しい睡眠リズムをつくることをがんばってください。

「急がば回れ!」。科学的な根拠をしっかりと理解して、順番を間違えない脳育てを実践しませんか?

順番を守った脳育ては、失敗を恐れずにチャレンジできる「失敗力」をはぐくむための大切な第一歩です。

「寝ること」を生活の第一優先にして、残りの時間をどう使うか工夫してみましょう。

参考

『早起きリズムで脳を育てる』(芽ばえ社、2012年)成田奈緒子著
『「睡眠第一!」ですべてうまくいく』(双葉社)成田奈緒子著
Webサイト「子育て科学アクシス」 成田奈緒子資料

 

*1)文部科学省「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果」

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中曽根陽子

中曽根陽子

中曽根陽子

教育ジャーナリスト

教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。子育て中のママたちの絶大な人気を誇るロングセラー『あそび場シリーズ』の仕掛人でもある。 “お母さんと子ども達の笑顔のために”をコンセプトに数多くの本をプロデュース。近著に『1歩先行く中学受験成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などがある。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザ インする力を育てる学びの場「Mother Quest 」も主宰している。公式サイトhttp://www.waiwainet.com/

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