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現代版 “てらこや”で地域ぐるみの教育を NPO法人全国てらこやネットワークインタビュー 第3回(全4回)

NPO法人全国てらこやネットワーク
精神科医の森下一氏の提唱により、子どもたちが困難な状況におちいらない未然予防の取り組みとして2003年鎌倉でてらこや活動がスタートした。子どもの居場所づくりや体験活動の支援を行なうてらこやの活動は全国に広がり、2010年内閣府認証NPO法人全国てらこやネットワークが発足。現在では全国40カ所のてらこやで実施されている活動を結び、地域教育の再興によって子どもや若者、地域の明るい未来をつくることをめざして活動している。2016年、グッドデザイン賞受賞。同年、NPO法人鎌倉てらこやと共同で子供未来応援基金採択団体に選ばれる。

第3回 てらこやで交わる、大学生と子どもたち

――てらこやの特徴として大学生の力をいかしているとのことですが、大学生はてらこやで具体的にどんなことをしているのでしょうか。


大西:基本的には、その地域の大学生が、てらこやの事業の企画立案、実際の活動の運営を中心となって行なっています。

――第2回で紹介していただいた数々のプロジェクトも、大学生の企画だったのですか?

大西:はい、そうです。てらこやの取り組みは大学生が提案したものを具体化しているんです。現実的にできるものとできないものがありますので、各地域のてらこやの大人のスタッフに相談して企画を進めます。

てらこやの合宿では、学校や一般の体験学習とは違って、初日のプログラムは作りますが、2日目以降は大きな枠組み以外はノープランで始めるんです。1日目の子どもたちの動きや考え方、学生たちの気持ちなどの状況を見ながら、夜に企画会議をして、翌日のプログラムを決めていきます。

もともとあるプログラムを遂行してそれができたかできなかったかを評価するのではなくて、目の前にいる子どもたちを見て自ら考えて、どんなことが必要なのかを学生たちが一生懸命考えて企画して実行するんです。なにも決まっていないところから一をうみ出すという力は、学生の将来にとってとても大切な力だと思っています。

――子どもたちの反応はどんなものでしょうか。

大西:子どもたちは学生とかかわることが、とにかく楽しいみたいですね。学生たちにすごく心を開いていて、学生たちに会いたいからてらこやに行く、そんな感じです。

大人と子どもにはどうしても距離感があるんですが、10歳くらい年上のお兄ちゃん・お姉ちゃんと接して、自由な管理されない時間のなかで子どもたちは心を解き放していきます。学生たちのもっている力がそれを引き出すんですね。

当時不登校だった子どもががてらこやの合宿に参加して、高卒認定試験を受けて大学受験して大学生になって、自分が与えてもらったことを与える立場として大学生スタッフになって、鎌倉てらこやに来てくれている、そんなケースもあります。

村瀬:てらこやで大学生にふれて、あんなふうになりたいと思ったのだそうです。

※高等学校卒業程度認定試験。高等学校を卒業した者と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験で、合格者は大学・短大・専門学校の受験資格が与えられる。

――素晴らしい学びを得たんですね。


大西:てらこやの提唱者である精神科医の森下一先生は、身近の手本となるお兄ちゃん・お姉ちゃんとの出会いが子どもの人生の転機になるとおっしゃっています。あのお兄ちゃん・お姉ちゃんみたいになりたいというような、身近の手本との出会いをどれだけ作っていけるか。「よき人との出会い」、これが「複眼の教育」と並んで、てらこやの大きな目標となっています。

学生のなかには、あれはまずいだろうという悪い見本もいるんです(笑)。でも、それも一つのサンプルで、いい手本から学ぶだけでなくて、反面教師としてああいうのはダメだよねというところから学ぶこともあるんです。

村瀬:それに、ある面ではダメな学生でも、すごくアクロバティックに遊んでくれたりするわけなんです。人間はある一面だけじゃないというのを、子どもは学んでいると思います。それと、とくに男の子は、大学生の体力にあこがれますね。

大西:何回も肩車して、ずっと鬼ごっこをして。大学生、いつまででもできますもん。親は絶対できません(笑)。見ていてすごいなと思います。子どもはそれでものすごく日ごろのストレスを発散できるんですよ。

そして、てらこやで自ら考えて企画をし、実際に子どもとふれあうことで、大学生もおおいに成長します。ですから、全国てらこやネットワークはいま、大学生の育成にとても力を入れています。各地域のてらこやでは子どもの教育をメインに行なっていますが、全国てらこやネットワークでは大学生を対象に、学生が社会に出る前の教育の機会として、大学生どうしの合宿や全国各地のてらこやの活動成果を共有するてらこやアワードを実施しているんです。社会でかがやく若者を全国てらこやネットワークとして育てていきたいと強く願っています。


[学生の合宿風景。チームビルディングを体験するプログラムのひとこま]

てらこや事業の数々が大学生の企画によるものだと知り、とても驚かされました。子どもたちは大学生にあこがれを抱いて成長し、大学生は知恵を出し合って子どもとふれあい成長する。てらこやは子どもと大学生、両方の成長の場になっているのですね。最終回となる次回は、てらこやを通じた子どもの成長と、地域で子どもを見守るために保護者はなにをしたらいいのか聞きます。

第1回 現代によみがえる“てらこや”
第2回 全国に広がるてらこやの活動
第3回 てらこやで交わる、大学生と子どもたち
第4回 子どもたちの成長のために、てらこやと保護者ができること

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)
株式会社コドモット代表取締役社長。
NTT在籍時代の2001年、子ども向けポータルサイト「キッズgoo」を立ち上げ、同サイトでデジタルコンテンツグランプリ・エデュテイメント賞受賞。独立後は小学生向けのコンテンツを中心に、企業の子ども向けWebサイトや公共団体の子ども向けツールなどの企画制作を数多く手がける。一男一女の母。