親が知らない「思春期男子」の学校での様子とは?【コソダテのヒント】
元保育園園長で、現在子育てや教育関連の講演会を配信している「花まる子育てカレッジ」ディレクター井坂敦子さんによる連載です。音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の「子育てが楽しくなる小さなヒント」を読みやすく記事化しております。ぜひお楽しみください。
「息子の思春期」は不安がいっぱい
「思春期男子」と聞くと、男の子がいる親御さんはドキリとするのではないでしょうか?
「反抗期」とも言いますが、小学校高学年くらいから始まりますよね。ついこの間までかわいく甘えてきてくれたのに、急に「うぜえ」「くせえ」「くそババア」のような言葉が出てきたり、逆に無口になって何を考えているのかわからなくなったり……。あるいは、ちょっとした言葉がけで暴れるようになったり。
男の子のいる友だちからも、こうした悩みをよく聞きました。
うちは娘なので、そこまで激しくはありませんでしたが、私の言葉尻をつかまえて論理的に攻めてきたり、「荒れる」とまではいかなくてもイライラしたり、ということがよくありました。
教育実習で、生徒がザワつく
私が大学生のときの話です。教職課程を取っていたので、中学校に教育実習に行き、2年生のクラスで国語と道徳を教えることになったのです。
2週間ほどある教育実習期間のうち、最初の週のなかば辺りで、ほかのいろいろな先生が見に来る研究発表のような授業をすることになりました。
それは道徳の授業で、教科書の中のひとつの話を読んで、みんなでいろいろ意見を出し合う授業でした。
皆さんもご経験があるかと思いますが、道徳の授業というのは、予定調和になってしまうことがあります。中学生くらいになると先生や大人の好む「いい答え」がわかりますので、自分の頭で考える前に、その「答え」を言って終わり、となってしまうのです。
そのときはたしか、主人公が急いでいるところに重たい荷物を持ったおばあさんが通りかかって、それを手伝うか、手伝わないか、といった話でした。
生徒たちは、「手伝ってあげたほうがいいと思う」というようなことを答えてくれました。
その授業で私がしたかったことは、そうした「大人が求める、いい答え」を言うのをやめること。
「実際はどうなの?」「本当にそうするの?」「みんな、そんなにいい人なの?」と考えてほしくて、「わかっていても、実際は行動できないことが多いんじゃないのかな?」というようなことを言いました。
「その子にも都合があるから、やってあげたほうがいいかはわからないよ」「おばあさんは、じつは重い荷物を運ぶことでトレーニングしているかもしれないし、楽しく運んでいるのかもしれないよ」など、いろいろな見方があるのでは、という話をしたのです。
生徒たちは、「え? ちゃんといい答えを言ったのに、そんなことを言うなんて」「先生のくせに」という反応。いつもなら「これでいい」と言われる答えをしているのに、この先生の卵はなんでこんな変なことを言うんだ、という感じで教室がザワザワしました。
そのザワザワした感じが私は「すごくいいな」と思い、「うまくいったな」と授業を終えました。
すると、そのあとから生徒に非常に懐かれたのです。
それまでは、みんな優しく接してくれていましたが、どこかお客さん扱い。けれど、その授業を境に、それぞれの生徒たちが自分の深い悩みなどを、放課後や休み時間にポロポロ話してくれるようになりました。
思春期は、家族には少し素っ気ない態度や関係になるけれど、学校の先輩や好きな先生などには距離が縮まる時期。そうした作用も働いたのかもしれません。
お笑い系男子の悩み
そんな中、クラスの中で盛り上げ役のような、「おちゃらけ男子」とでも言うような男の子が、真顔で相談に来ました。
どのような相談かというと、恋の相談。「見てわかるように、僕はおもしろいことを言ってみんなに笑ってもらうのが好きなんだけど、隣のクラスの女の子のことが真剣に好きなんです」「どうしたらいいですか」と、自分の思いを打ち明けてくれたのです。
普段見ているその彼は、とてもおもしろくて、変顔や変なことをしてみんなに笑われてイキイキ元気いっぱい。悩みなんかあるようには見えませんでしたが、恋をして勉強も手につかず、でも相手に伝えるのは恥ずかしい、というふうに悩んでいました。
2回ほど話をした頃、「ラブレターを書いてみたら?」と言ってみました。会ってしまうと、元々の性分と照れ隠しで、好きな女の子に限らず誰の前でもおちゃらけてしまう。なので、「手紙で自分の気持ちをそのまま書いてみたらいいかもしれないよ」と言ってみたのです。
すると、教育実習の終わる前日、「書いたよ」「先生、国語の先生なんだから、ちょっと見てよ」と持ってきてくれたのです。
読ませてもらうと、これがもう泣けるくらいの文章で、この手紙を貰ったら、女性なら一生の自信になるような、この手紙だけでどんなつらいことも乗り越えられるのではないかと思うくらいの素敵な手紙でした。
国語の先生的に「ここはもっとこうしたほうがいいんじゃない?」などと少しアドバイスをして、彼もそれを「清書して渡す」と言っていましたが、そのまま教育実習は終わりました。
もう何年も経ちましたが、今でも、彼のことや彼との時間をとてもよく覚えています。
その子の心を見つめてみると……
おちゃらけていたり、強がっていたり、いろいろなことをして、周りから見るとその子の本心が見えにくい「思春期男子」。
けれど、心の中では不安だったり、将来のことや自分のことについて真剣に考えていたり、恋をして自分でも自分の心が制御できない、というような状態にあったり……。とてもみずみずしい気持ちを持っているのだな、と彼に教えてもらいました。
一見荒々しく見える思春期男子ですが、その心の奥には、とても優しくて弱々しい部分がある。大人からすると、やわらかすぎると思えるくらいの心を持っているのではないかと思います。
うちの娘の場合は、もう高校生になり、思春期を通り越して「嵐のあとの静けさ」という状態に落ち着きましたが、小学校高学年から中学生ぐらいのお子さん、特に男の子をお持ちの親御さんは、嵐の渦中にいて、暴風に振り回されていらっしゃる方も多いかと思います。
いろいろな思いをされて大変だと思いますが、何を考えているかわからない息子さんのその奥に「素直できれいなやさしい心がある」と思うと、少し見え方や接し方が変わってくるのではないでしょうか。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
井坂 敦子(いさか あつこ)さん
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範
慶應義塾大学卒業→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母