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まずは楽しむこと!食やアートの体験を通して「サステナビリティ」を学ぶ【井坂敦子の注目まなびスポット】

まずは楽しむこと!食やアートの体験を通して「サステナビリティ」を学ぶ【井坂敦子の注目まなびスポット】

「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。

今回訪れた「クルックフィールズ」は、人と自然、動物の共生を見ることができ、エネルギーと土、水の循環の仕組みを知ることができました。そして、人間も循環の一部であるというポジティブなメッセージを受け取ることができました。

クルックフィールズが始まったきっかけや、ここを訪れる人に伝えたいメッセージ、そして、小さなお子さんでもできるサステナビリティについて、ダイニングで美味しいランチをいただきながらスタッフの吉田和哉さんにお話を伺いました。

ネガティブな歴史のある土地を
ポジティブな場所に!

ーそもそもクルックフィールズはどのようにして誕生したのでしょうか?

総合プロデュースを務める小林武史の“命の循環を感じられる場を作りたい、次世代も使い続けられる農地にしたい”という思いから、クルックフィールズはスタートしました。この土地は約20年前に閉鎖された牧場の跡地。今でこそ自然豊かな土地ですが、かつては建築物の残土を受け入れていた時期もあり、土を掘ればコンクリートのガラや産業廃棄物が出てくるような場所でした。

荒地だった土地を一から開墾し、土を育て10数年かけて現在に至ります。人間のネガティブな歴史があった土地を、僕たちの手でポジティブな場所に昇華していく、そういう裏テーマみたいなものが実はあるんですよ。

ーなるほど、哲学的な側面もあるんですね。では、循環型のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

クルックフィールズでは、パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんにアドバイをいただきながら、「太陽(エネルギー)・土・水」の3つの循環の仕組みを作り上げました。人が暮らすことで自然にネガティブな影響を与えるのではなく、自然の営みで足りないものに人の手を加え、多様な生物が育つ環境を整えるというものです。この仕組みで、よりポジティブな循環型の社会や未来を作っていきたいと考えています。

スタッフが楽しく働くことが
訪れる人をポジティブにする!

ーコンセプトを落とし込んで施設を作り運営する。これを現実化するのって相当な努力とパワー、熱意が必要ですよね。だからこそ、こちらで働いている方は、志を持って仕事をされているように思います。お金を稼ぐために働く、食べるために働く、そういうことではなく、もっと深いところに考えがあるスタッフが多い印象を受けました。

僕は環境やサステナブルな社会に興味があってクルックフィールズで働き始めたのですが、そうではなくて料理や食に興味を持って入ったスタッフも多いです。お互いに刺激し合えている環境がすごく面白い!

例えば僕はクルックフィールズで働くまで食への興味はあまりなかったのですが、ここの料理人が作ったものを実際に食べることで食の面白さや奥深さを知りました。逆に僕たちの仕事を見てこういう活動は必要だと感じてくれたり、園の営みの中で出てくる素材で美味しい料理を作ってみたいと興味を持ってくれるスタッフもいる。元々の興味は違うけれど、お互いが切磋琢磨する中で新しいものが生まれるんですよね。

ー園内を見学させていただいたときにたくさんのスタッフの方にお会いしましたが、皆さんいいお顔をされていました。ここでのお仕事が大好きなんですね!

そうですね。例えばプログラムの一環でスタッフがご案内させていただくと、誰よりもスタッフが一番楽しそうです(笑)。その印象が誰かの心に残るのは、すごくポジティブなこと。サステナブルな仕組みを一生懸命作っています!と疲労困憊で語られるよりも、楽しそうに作っている方が健全ですよね。

ーわかります。私もこういう場所があったらいいなってずっと想像していたんです。サステナブルや命の尊さを楽しく学べて、何かを感じて帰って来られる場所があればいいなと。そういうところで過ごせたら、子どもにとってもすごくハッピーだなって。そう思っていたときに、ふとクルックフィールズのホームページを拝見して、お!これはイケてるぞって(笑)。サステナブルって、教科書的だったり勉強モードに傾きがちで、テーマの訴求のための社会科見学の延長のような場所が多いと思っていたので、ホームページを見たときにここは心に響く!というのを直感して今日実現しました。

僕はお客様へ提供する料理を作ることはありませんが、ここで働くシェフのお料理をいただくことで、より良い食材をシェフたちに提供したいと思うようになりました。

果樹を作ったり野菜を育てるのにも細心の注意を払っていますし、果物を取るタイミング一つにしてもそうです。お互いに緊張感を持って、“いいものを作るからいいものを提供して”という理想の関係性が作られていると思います。ここでは、さまざまなものをみんなが有効に使いたいと思っているので、剪定した枝も簡単に破棄できないんです。料理の飾り付けはもちろん、お茶やお料理にも出てくるんですよ。

森の中には、一般的に何にも活用されていない植物があるけど、多分僕たちなら何かを作れる、みたいなイマジネーションが浮かんでくるんです。

情報もアイデアも独占しない!
共有することが未来につながる

ークルックフィールズは実験する場所でもあるんですね。

ここは一つの大きな実験場である、というのは皆さんにお話しています。そしてプラットフォームであることも。人や情報が集まってサステナブルな未来を作るための実験をしているような場所なので、全てオープンソースです。例えば私の農園でもサステナブルな仕組みを作りたいと言ってもらえたら、そのお手伝いもします。第二、第三のクルックフィールズを作るのは現実問題難しいところがありますが、サステナブルや循環に興味があると言ってくれる人が独自の空間を作ることは、地球のために絶対的に良いことだと思っているので。

ーすごく壮大で新しい考え方ですね。それこそがクルックフィールズが一歩先をゆく理由なのかもしれないです。

ー持続可能であるということは、富や知識、情報を独占せず、共有してみんなで使うことなんですね。 ここで新しいことを知り、それを素敵だなと思う人が広めていく。理想のあり方ですね!

人は地球にとってのがん細胞だとか、人が地球を汚している、という捉え方をする人もいますよね。でも僕らがここで活動してお客さんが訪れることで、より豊かな自然環境を表現できていると思うんです。僕たちが生きないと地球を支えられないから、自信持って生きよう! って。来てくれた人も、自分たちの存在をポジティブに捉えることができますしね。

訪れた人が楽しんだら
世界がますます豊かになる!

ーここで過ごされる方に、これだけは持って帰ってほしいというような思いや願いはありますか?

サステナブルな未来を作るために何かをやりましょう!と伝えるのではなくて、 楽しいことをしていた先にサステナブルな未来ができ上がっていたという世界観の方が絶対に幸せだと思うので、 そのヒントをここで感じてもらいたいなと思っています。

ダイニングを彩る淺井裕介氏の作品

訪れた人に循環の仕組みを知ってほしいとは思っていますが、あえて強制はしません。食、農、アート、いろんな興味がある方がいると思うので、それぞれの興味にあった楽しみ方をしてほしいですね。その裏側には循環という一つの繋がりができているので、その背景を伝えられたらとは思っています。

サステナブルって聞くと、正義を振りかざすようなイメージで捉えられてしまうことも多く、敬遠されがちなんですね。ここで過ごす時間の楽しさ、食べるもののおいしさにサステナブルな仕組みがあるんです。だから、サステナブルな社会を作るために苦しんだり我慢する必要は全くないと思うんです。

美味しいものを食べてその結果サステナブルな未来になっていた、楽しいことをした結果サステナブルな世界になっていた、そういう世界観を大切にしています。

ー本当におっしゃる通り。今って、サステナブルなことをしましょう!地球や環境にいいことをしましょう!という風潮がすごく強いですよね。でもそうではなくて、本当に美味しかったり気持ちよかったり楽しかったりすることの方が、子どもの心の中にも残りますよね。

基本的にやっぱり楽しい方が続くんです。例えば料理で使わなかった人参のへたや葉っぱ、いろんな副産物が出てきますよね。それは全部コンポストにして土に変え、それからまた豊かな森や畑ができる。

排水もポジティブなものとして循環し、再活用していきます。お客さんが使ってくれるから排水が出てきます。なので、お客さんが来てくれないと、ここの循環の仕組みは止まってしまいます。

ですから、ここはお客さんが楽しんだら、ますます世界が豊かになっていくような仕組みになっているんです。

ーなるほど! 排水にも価値があるっていうところに目を向けることってすごく大事ですよね。今って必要なもの、不必要なものをすぐに選別しがちで、不要なもの=価値がないものと思ってしまいます。いらないものとされてきたものこそ、実は循環には大切なんですね! 今回さまざまな循環の仕組みを紹介していただいたのですが、自宅でもできることってありますか?

やっぱりコンポストですね。水やエネルギーと比べると、土の循環は取り組みやすいんです。慣れてしまえばぬか漬けを作る感覚と一緒。例えばミミズコンポストの場合、落ち葉とミミズが入っている箱に野菜クズをいれて混ぜるだけというシンプルな仕組みなので、お子さんでも楽しく取り組めると思います。

クルックフィールズではコンポストバッグも取り扱っているので、ここからスタートするのもおすすめですよ!

「土は汚いから触りたくない」「地面に座るのはバイ菌がいそうで怖い」「虫はイヤ」など、今どきの子どもたちは、衛生的なことや除菌に敏感です。ミミズやどろんこを手で触る経験が、子どもたちにどれくらいあるでしょうか?

虫は花粉を運んでくれること、ミミズは豊かな土を作ってくれること、菌類がキノコやチーズを生み出してくれること。そんな当たり前の自然の営みを知ることもなく、「汚い!」「いやだ」「怖い」と遠ざけてしまうことは、とてももったいない気持ちになります。

ただ、現実問題、すでに保育園や小学校で「汚い!」と思い込んでしまっている子どもの呪縛を解くのは容易ではありません。そのきっかけになるのが、親子で過ごす時間での体験なのではないかと思います。

土も虫も菌も、大事な地球の仲間であり、それらが美味しいものを作ってくれるんだということを親子で体験してほしいと思います。

クルックフィールズ

住所:千葉県木更津市矢那2503
定休日:火・水曜日
入場料金:中学生以上 800円、小学生400円、未就学児無料(メンバーシップに加入すると割引あり)
https://kurkkufields.jp

 

 

撮影/鈴木謙介 文/末永陽子

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

井坂敦子(いさか あつこ)さん

中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範

「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。著書に『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)。Instagramブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母

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