奈良県明日香村にある,高松塚古墳の南約1kmに位置する円墳(高さ3m,直径14m)。キトラとはこの場所の地名「北浦」によるものといわれる。高松塚古墳での壁画発見をうけて周辺の古墳調査が進められた1983(昭和58)年,盗掘跡の穴から石室内にファイバースコープが入れられ,四神(天地の四方をつかさどる神。東は青龍,南は朱雀,西は白虎,北は玄武)の1つ玄武の壁画が発見されて注目を浴びた。その後,同様の調査法で1998(平成10)年には青龍・白虎,現存する世界最古の天文図,2001年には朱雀が発見された。また,獣面人身の十二支像の6体の壁画も確認されている。石室内部の保全などのためファイバースコープでの調査が続けられてきたが,湿気やカビ・バクテリアなどによる劣化,壁画の剥落の危険性が高まり,2004(平成16)年,ついに古墳を発掘し,壁画のはぎとりと修復が開始された。キトラ古墳は7世紀末〜8世紀初めの古墳最終期のもので,出土品や壁画の技法から,高松塚古墳よりわずかに古いと推定されている。また,藤原京との位置関係から天武天皇の子の高市皇子の陵墓とか,右大臣阿倍御主人の墓などと推定する研究者もある。いずれにせよ当時の天皇・貴族の文化や,中国や朝鮮半島との関連を知るうえで,たいへん貴重な遺品である。国指定の特別史跡。