獣肉を,火を通さない生の状態で食べる食事法・調理法。人類の火の発見以前はもちろん獣の肉は生で食されていたが,それ以降も伝統的に獣肉を生で食べる民族・地域は存在する。たとえば,北極圏のイヌイットのクジラやアザラシの生肉食,モンゴルのヒツジや馬肉の生食と,それが伝わったヨーロッパでのタルタルステーキ(タタール人の,の意味で馬肉や牛肉)などである。また,朝鮮半島にも13世紀のモンゴル支配以降,獣肉食が伝わり,長い宮廷文化のなかで牛肉食やその生食が発展していった。日本では古い時代からの鳥(鶏,野鳥)の生食法,一部の地域での馬肉の生食法はあったが,ほとんど生肉食の習慣はなかった。しかし,第二次世界大戦後,朝鮮半島の人びとによって牛の焼き肉,ユッケ(生牛肉のたたき),レバー刺し身などが伝わり,一般にも普及し,近年では朝鮮料理店だけではなく一般の家庭でも食べられるようになってきている。2011(平成23)年4月,北陸の焼き肉屋チェーンでユッケを食べた客5人が病原性大腸菌O111,O157による食中毒で死亡する事件があり,同年10月,厚生労働省は食品衛生法に基づく規格基準をあらため,牛生肉食について表面加熱とトリミングを厳密化したため,飲食店でのユッケや生牛肉の提供はむずかしくなってきている。また,11年12月には牛レバー内からO157が発見され,生レバーの提供も規制されることになった。