道で困っている人がいたら声をかける?子どもを犯罪から守る“リアル・ネットの世界”の距離感【専門家が解説】
子どもに防犯について教えるとき、難しいのは人との距離感ではないでしょうか。道徳的に「挨拶をしましょう」「困っている人がいたら助けましょう」とは言うものの、誰でも信用して声をかけてしまうと危険な場合もあります。これは、知らない人とつながりやすいSNSでも同様です。
子どもを犯罪から守るため、リアルとネットの世界で気をつけるべき「人との距離感」とは? 犯罪学の専門家である小宮信夫さんに教えてもらいました。
道で困っている人を見かけた。どうするのが正解?
子どもが登下校や習い事へ行く道中、困っている人を見かけることがあるかもしれません。道徳心と防犯の視点で対応が変わってきそうなこの問題について、小宮先生は客観的に判断することが大事だと指摘します。
「いい人そうだから助けてあげる、見た目が怪しいから声をかけない、と考えがちですが、大切なのは事件が起こる可能性が高い『場所の景色』で判断すること。
犯罪者が好む『入りやすく、見えにくい』場所であれば、相手がどんな人であろうと警戒が必要です。
たとえば、フェンスで囲まれていない遊び場や、男女の入り口が隣り合わせになっている公衆トイレは、犯罪者が簡単に子どもに近づける『入りやすい』場所。人の目が届きにくいトンネルや歩道橋、田舎の田んぼ道、木が生い茂っている公園などは、犯行が『見えにくい』場所なので危険です。
また、放置自転車やゴミのポイ捨て、落書きが多い場所は、管理が行き届いていない場所。そのため、犯罪の予兆があっても、見て見ぬ振りされやすいんです。
これらの場所では、犯罪が起こりやすいことが統計的にわかっています。たとえ困っているのが知り合いでも、そういった場所で声をかけたり応じたりするのは、リスクが高いことをぜひ知ってほしいですね。
実際に、子どもが巻き込まれた事件の犯人が、毎朝挨拶をしてくれるPTAの会長だったケースがありました。また、顔見知りの人から性犯罪を受けるケースも少なくないため注意が必要です」(小宮先生)
子どもの防犯に対する判断は、すぐに身につくものではありません。そのために保護者ができることは、外出時に「この場所で、車に乗った人から道を聞かれたらどうする?」と対応策を一緒に考えることだと言います。
「『ここはガードレールがあって、子どもがすぐに車に乗るのは難しいね。だから返事をしてもいいね』『この道は両側が高い塀で囲まれていて、何かあっても見てもらえないから断っていいんだよ』といった具合に、シチュエーションごとに考えるとわかりやすいと思います。
あわせて、声をかけられたときの断り方も話し合っておきましょう。対応次第では相手が激昂して危害を加えてくる場合もありますので、『すみません、ちょっとわかりません』など、丁寧に断るのがポイントです」(小宮先生)
ネットの世界は「入りやすく、見えにくい」から危険!
近年、子どもが犯罪に巻き込まれやすいネットの世界でも、場所を見て危険かどうか判断する力が役立つと、小宮先生は言います。
「インターネットがあれば世界中の人とつながれますが、相手の顔も年齢も性別もわかりません。知らない人とも気軽にコミュニケーションがとれてしまうのが、ネットの世界なんです。
特に、誰でも参加できるSNSは『入りやすい場所』。ダイレクトメールなどのやり取りなども、家族の目が届かない『見えにくい場所』です。
オンラインゲームも同様です。周囲の目がない閉じられた場所で、知らない人とすぐ隣に座ってゲームをしているようなもの。
たとえば、男性が女性だと偽ってコメントをしてきたり、子どものふりをして会話に入ってきたりする犯罪者が多いことも覚えておいてください」(小宮先生)
犯罪者に狙われやすくなる!?何気ない情報発信に注意
インターネットの世界から広がる人間関係は、子どもたちの日常を豊かにしてくれる一方で、犯罪目的で近づいてくる人が一定数いることも否めません。
「ICTの普及によって便利な世の中になりましたが、それは犯罪者にとっても同じ。ターゲットや犯罪が成功しそうな場所を、簡単に下調べしやすくなってしまいました。
位置情報がわかる写真をアップしたり、自分の写真や名前を伝えたりしていなくても、学校の話や家での過ごし方などふとした情報発信から、性別や年齢、家庭環境がわかってしまうんですよ。列車事故の話から、住んでいるエリアが特定されることもあります。
犯罪者は、ターゲットにした子どもの家庭環境や興味関心がわかれば、それをネタに、会う約束を取りつけようとしてきます。そうならないように個人の情報発信は避けなくてはいけません」(小宮先生)
自分からの情報発信によって、危険な状況を生み出してしまうのは、ネットの世界だけではありません。たとえば、入学時に配られる黄色いランドセルカバーは、「一年生です」と言って歩いているようなものだと小宮先生は警鐘を鳴らします。
「実際に『黄色い帽子は連れ去りやすい目印』と語った犯罪者が複数います。
みんながつけているからつけるのではなく、どういうリスクがあるかをしっかり考えた上で、各家庭の方針を決めていくことが大切だと思います」(小宮先生)
親子の密なコミュニケーションが子どもを犯罪から守る
加えて、子どもが狙われる犯罪は、保護者の目の届かないところでおこりがちです。
「特に子どもの性犯罪に関しては、親が気づいていないケースのほかにも、被害に合ったこと自体に子ども自身が気づいていないことも多いんです。
『ゴミがついてるよ』と体を触られたり、『虫歯を治してあげる』とディープキスされたりした事例があり、普段の会話の中で保護者が性犯罪に気づいたケースも少なくありません。
また、被害を受けても言いにくい問題もあるため、子どものちょっとした異変に気づけるように、どんなことでも相談できるような親子のコミュニケーションが大切です。
今日あったことを報告しあう時間をつくったり、様子が気になるときは、やさしい口調で話を聞いたりするのもいいですね。何でも話し合える親子関係も、子どもを守るうえでは重要です」(小宮先生)
取材・文/水谷映美 編集/石橋沙織