「本を読む体験はまるでRPG」児童文学作家 久米絵美里さんに聞く「読書の魅力」
私たちが普段何気なく使っている「言葉」をテーマにした壮大な物語『言葉屋』シリーズや、インターネットの世界に溢れる「嘘」をめぐる冒険を描いた『嘘吹き』シリーズなど、魅力的な児童文学を次々と発表している児童文学作家の久米絵美里さん。
子どもの頃から読書家だったという彼女が考える、本の持つ力や読書のおもしろさとは? そこには、親から子どもに伝えられる「読書が好きになる」関わり方のヒントがありました。
本は最高のおもちゃ。自分だけの自由な世界が広がる
8歳の頃には作家になりたかったという久米絵美里さん。子どもの頃から読書が大好きで、本の世界に夢中だった幼少期を過ごしていたと語ります。
「読書のいちばんの魅力は何といっても、自分だけの想像の世界で楽しめることだと思います。子どもの頃の私にとって、本は“最高のおもちゃ”でした。
映画や漫画、アニメと違って、本は文章がメイン。文字だけの情報からどんな状況でどんな音やにおいなのか、登場人物の声や表情などを頭の中で想像する。自分だけにしか見えない世界をつくり上げることができるんです」(久米さん)
読書で培った「想像力」を駆使すると、現実世界もより楽しく過ごすことができたと久米さんは微笑みます。
「自分の頭の中でいろいろな世界をつくることを『情景起こし』と呼んでいるのですが、このスキルを磨いておけば、ゲーム機やテレビ、スマホがなくても、いつでもどこでも好きなだけ頭の中で遊べるようになるんです(笑)。
ですが、『読書力』はすぐに手に入るものではなく、RPGゲームのレベルのように、少しずつ育てていくもののように感じています。
読書を通じて、自分の想像力のレベルをコツコツ上げていくと世界がより広がって、できることが増えていくんです」(久米さん)
読書を通じて出会った「空想と現実世界」の友だち
幼少期の読書体験は、自分の世界を広げることにとどまらず、心の支えになることも。
「私自身は、心の容量がとても小さく、悲しいことがあるとそのことで頭がいっぱいになって、ものすごく落ち込んでしまったり、悩んでしまうタイプ。
そんな時には想像の世界で楽しいことを考えることで、自分の心を軽くしていました。
悩みや後悔をなくすというより預けておく感覚なので、時間を置いてからまた引き出して自分の学びや成長につなげることも。読書は、そんな自分の心の預け先づくりにも役立っていました」(久米さん)
また、読書という疑似体験を通じて、現実の大切さを改めて学ぶこともあったと言います。
「本を通じての体験がこんなに楽しいのだから、実際に体験したらもっと面白いのではないだろうか……そんな期待が、私の『とにかくなんでも体験してみる』という精神を育ててくれたと思います。
塾に行きたくなくても『何か面白いことが起こるかもしれない』と行ってみたり、大きくなってからは留学をさせてもらったり、一人旅をしていろいろな人に会ってみたり。
読書で出会った『本物ではない世界』からたくさんの勇気をもらい、すてきな出会いに恵まれて……現実世界でも豊かな経験を得ることができました。
空想世界の友だちと現実世界の友だち、みんな読書がもたらしてくれた大切な宝ものです」(久米さん)
両親がつなげてくれた「読書」との接点
そんな久米さんの読書好きな一面を生み出したのは、幼少期のご両親からの働きかけも大きかったそう。
「無口で仕事人間であった父との唯一のコミュニケーションは、日曜日に本屋さんに一緒に行くことでした。
お互い好きな本を選び終えると、どちらともなく合流して、私の選んだ本も自分の本とともに購入してくれました。帰り道は、新しい本を読めることにわくわくして、とても幸せな気持ちであったことを今でも鮮明におぼえています。
また、母も幼稚園の頃からよく図書館に連れて行ってくれて。1週間分の本を借りて、毎日1冊ずつ読んでもらうのが楽しみのひとつでした。
小学校に上がってからは、さらに学校の図書室で1日1冊借りていたので、年間400冊以上読んでいたと思います」(久米さん)
小さいころに飼っていたヨークシャテリアのショパンと小学校時代の久米さん。家族であり、大好きな友だちのひとり(写真提供/本人)
読書好きが高じるあまり、小学校の担任の先生に心配された事も。ところが、久米さんの母親は、思いがけない言葉をかけてくれたのだとか。
「休み時間も1人教室で本を読みふけっていたので、当時の担任の先生が心配して母親に相談したことがあったんです。
ですが私の母も帰国子女だったせいか、あまりみんなと同じことをしなさいというタイプではなくて。
『いつも誰かといて同じことをする必要はないし、1人の時間を楽しめるのは素敵なことだから、好きなだけ読書を楽しめばいい』と肯定してくれたことが、うれしかったですね。
大人になってから理由を聞くと、『孤独を恐れない人になってほしかった』と言われて。あのとき母が受け入れてくれたから、安心して本の世界に浸れたのかも知れません」(久米さん)
おもしろいと思える「本」との出会いを信じて
現在はご自身も2児の母親である久米さん。子どもたちへの「絵本の読み聞かせ」も毎日欠かさず行っていると教えてくれました。
「次女はまだ産まれたばかりなので、参考になるようなお話しはできないのですが。長女が年少さんの頃からでしょうか、自分で本を選べるようになってからは、『彼女が選んだ本』と『私が選んだ本』を読むようにしています。
寝る前の絵本タイムが『いっしょに本を楽しむ時間』になるといいな、と思って。子どもたちが自分で好きな絵本を選ぶ楽しさを大事にしつつも、私が読みたい絵本を読むことも大切にしています。
子どもも自然と、『ママ(=大人)も本が好きなんだ』『本って楽しいものなんだ』と思ってくれるようになった気がしています」(久米さん)
今では「ママが好きそうな本、あったよ」と教えてくれるなど、久米さんにとって、心強い読書コンサルタントになってくれているそう。
親から子どもに対して自然と「本が好き」という気持ちを伝えられる環境は理想ですが、本が苦手な子の場合は、どう関わればいいのでしょうか?
「誰かにとっては最高の一冊でも、それがすべての人に当てはまるわけではありません。もし『おもしろくない』と感じたら、無理して読み続ける必要はないと思います。
ただ、絶対どこかで『楽しい』と思える本に出会えるはずなので、読書全体はあきらめず、また別の本、また別の本、とトライしてみてもらえるとうれしいです。
本を読むことが好きになってきたら、自分なりの楽しみ方を見つけられるといいですね。そうすれば、『自分にとっておもしろくない本を、おもしろくする』魔法のような読み方だって可能に(笑)。ぜひ自由な発想で楽しんでください」(久米さん)
親子で本の楽しさを発見できるオンラインイベント
久米絵美里さんも出演する、小中学生向け無料オンラインイベント「学研キッズフェス みんなに伝えたい!わたしの推し本」は5月20日(土)開催! 子どもの頃にお気に入りだった本や、子どもにおすすめの本の選び方、読書推せん文の書き方などを紹介します。お子さんと一緒に本の魅力を再発見できること間違いなしのイベントです。ぜひご応募ください!
取材・文/諸橋久美子 編集/石橋沙織 撮影/鈴木謙介