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イランがホルムズ海峡封鎖 重要な海峡ってここだけ?

イランがホルムズ海峡封鎖 重要な海峡ってここだけ?

日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんがヒントを教えます。

アメリカとイスラエルのイラン攻撃がきっかけ

アメリカとイスラエルがイランを攻撃しています。イランの核開発をやめさせるための話し合いをしていましたが、2月28日に突然、イランの最高指導者であるハメネイ師らを空爆によって殺害しました。さらに、軍事施設などへの空爆を続けています。

イランは対抗して、イスラエル軍やアメリカ軍の基地がある周辺国にミサイルやドローンによる反撃をおこないました。イラン周辺は戦争状態になっています。ただ、軍事力に勝るのはアメリカとイスラエルの側で、イランの被害は大きくなっています。

そうした中、イランのイスラム革命防衛隊の司令官は「ホルムズ海峡を通ろうとする船舶はすべて焼き払う」と宣言しました。この宣言によりホルムズ海峡を通る船はイラン側から攻撃を受けることが怖くて通れなくなっています。「ホルムズ海峡封鎖」という状態になりました。

ホルムズ海峡封鎖による世界経済への大きな影響

世界地図を開いてみてください。ホルムズ海峡はペルシャ湾の出口にあたります。イランとオマーンの飛び地にはさまれていて、狭いところは約33キロの幅しかなく、そのうち水深の深い場所は6キロほどしかないといわれます。しかも、鋭角に曲がっている海峡です。ここを通る船は狭い水路をスピードを落として航行しなければならず、難所といわれます。

ペルシャ湾内の沿岸は、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、イラク、イランが囲んでいます。これらの国はどこも石油を産出する国です。産出される原油や液化天然ガス(LNG)の多くはペルシャ湾内の港からタンカーやLNG船でアジア各国などへ輸出されます。その際、船は必ずホルムズ海峡を通らなければなりません。世界の原油とLNGの約2割がホルムズ海峡を通過します。日本が輸入する原油に限ると、8割から9割がホルムズ海峡を通過します。

ホルムズ海峡の封鎖が長引けば、世界の原油やLNGが足りなくなって価格が上がるでしょう。アメリカは湾岸諸国の原油やLNGをあまり輸入していませんが、こうした国際商品の価格は世界全体で同じように動くため、アメリカでも上がります。自動車大国のアメリカではガソリン価格が上がると国民の不満が大きくなります。イランの狙いは、アメリカのトランプ政権にとって打撃になり、戦争を終わらせる機運が高まることです。

重要な海上水路「チョークポイント」

ホルムズ海峡のように戦略的に重要な海上水路を地政学の言葉でチョークポイントといいます。地政学は地理的な条件をもとにして軍事戦略や外交関係を考える学問です。チョーク(choke)というのは、首を絞めて窒息させるという意味です。つまり、チョークポイントとは、そこを通れないと世界が困るような重要な海峡や運河のことを指しています。

世界にはホルムズ海峡のほかにもチョークポイントがいくつもあります。世界地図か地球儀を見ながら確認しましょう。よく挙げられるのは、マラッカ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、ボスポラス海峡、バシー海峡、スエズ運河、パナマ運河などです。

マラッカ海峡はインドネシアのスマトラ島とマレー半島にはさまれた海峡です。マレー半島側にはマレーシアとシンガポールがあります。全長約1000キロに及ぶ細長い海峡で、インド洋と太平洋(南シナ海)を結ぶ最短の海路になります。日本、中国、韓国といった東アジアの国のタンカーは中東と行き来する際、必ずこの海峡を通ります。

ただ、浅瀬が多かったり潮の流れが速かったり海賊が出没したりする難所でもあります。日本政府は大型船が安全に通航できるように海図を作ったり標識を設置したりするなどして、周辺国とともに水路の整備をおこなっています。

バブ・エル・マンデブ海峡はアラビア半島とアフリカ大陸の間にある紅海の出口にあたる海峡です。そこからアラビア海、インド洋とつながり、日本などのアジア各国と結ばれます。この海峡が大事なのは、紅海の北の端にはスエズ運河があり、地中海とつながっていることです。つまり、ヨーロッパ、中東、アジアを結ぶ水路になっているのです。ヨーロッパから日本向け貨物はスエズ運河、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡、アラビア海、インド洋、太平洋というルートで日本に届くことになります。この海峡を通れなくなると、物流に大きな影響が出ます。

ただ、重要な海峡だけに、武装勢力や海賊が出没する場所です。日本は海上の安全を守るためにアフリカ側の近隣国であるジブチに自衛隊を派遣しています。

台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡もチョークポイントです。日本に向かうタンカーや貨物船の多くがこの幅約100キロの海峡を通ります。太平洋と南シナ海を結ぶ重要な海路になります。中国が自国の防衛ラインとする「第1列島線」と名づけた線上にあり、中国との関係においても重要な海峡です。

スエズ運河やパナマ運河も

ヨーロッパでは、黒海と地中海を結ぶボスポラス海峡もチョークポイントです。トルコのイスタンブールを東西に分ける海峡で、狭いところでは約700メートルの幅しかありません。黒海に面したロシアやウクライナにとって、ボスポラス海峡を通って地中海に出る航路は貿易や軍艦の運用のために極めて重要になっています。ボスポラス海峡を通ることができなくなれば、ロシアやウクライナは世界への出口のひとつがふさがれることになります。

スエズ運河とパナマ運河は世界の2大運河です。スエズ運河はヨーロッパとアジアやオセアニアを結ぶ海上物流になくてはならない運河です。パナマ運河は大西洋と太平洋を結ぶ航路として欠かせません。そのため、スエズ運河をめぐっては、かつてエジプトとイギリスやフランスなどとの間で領有権抗争がありました。パナマ運河については、パナマが支配権を持っていますが、トランプ大統領は「パナマ運河の支配権を取り戻す」と言っています。どちらの運河も国同士の争いにつながるほど世界の重要な水路といえます。

世界の物流のほとんどは船による海上輸送によるものです。世界が豊かに発展していくためには海上輸送の安全が保たれなければなりません。ホルムズ海峡の封鎖により、今回改めてその大切さともろさを知ることになりました。世界の首を絞めることにつながるチョークポイントを覚えておきましょう。

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一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

朝日新聞社に勤めていた時には、経済部記者、アエラ編集長、テレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターなどの立場でニュースと向き合ってきた。アイスホッケーと高校野球と囲碁と料理が好き。

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