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小中一貫教育で、中1ギャップを解消する?/知っておきたい教育用語のトリセツ【第6回】

小中一貫教育で、中1ギャップを解消する?/知っておきたい教育用語のトリセツ【第6回】

日本の学校制度は長い間、小学校6年-中学校3年-高校3年の「6-3-3」制が主流でしたが、中高一貫教育が制度化されるなど少しずつ選択肢は広がっています。新たに小中一貫教育が制度化されましたので、「知っておきたい教育用語のトリセツ」の第6回目ではその内容を解説します。

小中一貫教育とは
義務教育9年間を一貫してとらえる教育のことです。現在、
①新たに、9年間学習する「義務教育学校」を作る。
②独立した小学校・中学校が9年間の教育目標などを共有して、①の義務教育学校に準じた形で一貫教育を行なう「小中一貫型小学校・中学校(仮称)」といった2つの形態が考えられています。

小学校と中学校の環境の違いが中1ギャップを生む

日本の義務教育は小学校6年・中学校3年の9年間です。たとえば、小学校は学級担任制で単元ごとにテストをするけれど、中学校では教科担任制で定期考査が中心というように、小学校と中学校では教育環境は大きく違います。

子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について
平成26年12月22日 中央教育審議会答申より

これまでは、同じ校区であっても、子どもたちの小学校での学習上の課題などが中学校と十分共有されてきませんでした。

しかし、小学校から中学校へと進学する段階で、いじめや不登校といった問題が発生することが多くなり、いわゆる「中一ギャップ」として注目されるようになったことから、今の教育制度に課題があるのではと指摘されるようになったのです。

2016年度から義務教育学校の設置が制度化

こうした課題を解消するために、小中の連携を図ろうという動きはありました。しかし、実際にはあまり進んでいないのが現状です。

そこで、小中一貫教育の制度化が検討され、国会で改正学校教育法が成立。2016(平成28)年度から小中一貫教育を実施する「義務教育学校」が創設されることになりました。※1

これからは、市区町村教育委員会などの判断で、既存の小中学校などを義務教育学校にできるようになります。

義務教育が6-3制から、「4-3-2」や「5-4」制になる!?

一口に義務教育学校といっても、小学校段階と中学校段階が同じ校舎にある「施設一体型」、それぞれの校舎が別々の場所にある「施設分離型」があります。施設分離型の場合でも一つの学校ですから、校長先生は1人だけです。一方、「小中一貫型小学校・中学校(仮称)」は学校ごとに校長先生をおきます。

小中一貫教育にするメリットは、6-3制ではなく「4-3-2」や「5-4」などの区切りを設けて、年齢にあった教育を実施したり、中学校の内容を小学校段階で先取りしたり、教育内容の実施学年を入れ替えたりすることも可能になるということです。

実際、文部科学省の調査によると、中1ギャップの解消、教育改革への対応、子どもたちの発達が早くなっていることへの対応など、さまざまな理由から独自に小中一貫教育を行なっている市区町村のほとんどが、生徒の意欲や学力の向上、中1ギャップの解消などに成果があったと回答しています。※2

先行して設置されたところは、あと戻りすることはないと思われますが、一方で、9年間の一貫教育で子どもたちの人間関係が固定化してしまうことによる悪影響があるのではないかとか、小中両方の教員免許状を持つ教員が少ないなどさまざまな課題も明らかになっていて、そうした懸念をどう解消していくかが、今後この制度が定着していくためのかぎを握っています。※3

教育制度の複線化で選択肢が広がる

義務教育の制度改革ですから、導入が進めば日本の教育制度が大きく変わることになりますが、実際には、前述のように課題は多く、現時点では導入に慎重な自治体が多いようです。

しかし、子どもの数が減っているので、学校の統廃合を進める必要のある地方を中心に導入が進むことも考えられます。今の子どもは成長が早く、小学校4~5年生段階で個人差が広がっていますから、さまざまな選択肢が広がることは良いことかもしれません。

いずれにしても、小・中学校よりも先に公立中高一貫校の設置が進められていますし、日本の学校制度が複線化していく方向だと言えるでしょう。それだけに、保護者も子どもにどのような教育を与えるのが良いか、より主体的に考える必要があります。

そのためには、こうした教育改革の動きにも関心を持ち、理解を深めることが大切です。

小中一貫教育のポイント

  • 小中一貫教育とは、義務教育9年間を一貫してとらえる教育のこと。
  • 2016(平成28)年度から小中一貫教育を実施する「義務教育学校」が創設されることが決定。
  • 小中一貫教育は、中1ギャップの解消などに成果があるが、現時点では設置に慎重な自治体が多い。
  • 6-3制・中高一貫教育・小中一貫教育と、日本の教育制度も複線化の傾向。
  • 子どもにどのような教育を与えるのが良いか、保護者がより主体的に考える必要がある。

※1
改正学校教育法 (文部科学省)
※2
 小中一貫の制度化による評価 (文部科学省)
※3
小中一貫教育の制度化及び総合的な推進方策について (中央教育審議会)

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中曽根陽子

中曽根陽子

中曽根陽子

教育ジャーナリスト

教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。子育て中のママたちの絶大な人気を誇るロングセラー『あそび場シリーズ』の仕掛人でもある。 “お母さんと子ども達の笑顔のために”をコンセプトに数多くの本をプロデュース。近著に『1歩先行く中学受験成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などがある。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザ インする力を育てる学びの場「Mother Quest 」も主宰している。公式サイトhttp://www.waiwainet.com/

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