図鑑はお菓子!/シリーズ 専門家にきく!「知識への扉をひらく 図鑑のひみつ」図鑑編集室インタビュー【第1回】(全4回)
子どもたちが大好きな恐竜や虫、宇宙などについて総合的に学べる「子ども向け図鑑」はどうやってつくられているのでしょうか。写真やイラストで本物をリアルに伝える工夫や、最新情報の反映、映像やARとの連携など、進化する子ども向け図鑑の編さんについて、「学研の図鑑LIVE 恐竜」を担当した、株式会社学研プラス 小中学生事業部 図鑑・辞典編集室の松下清シニア・プロデューサーにお話をうかがったインタビューの第1回目(全4回)です。
インタビュアー 梅本真由美(サイエンスライター)
第1回 図鑑はお菓子!
―はじめにお聞きしますが、そもそも図鑑ってなんなのでしょう。図鑑にはどんな役割があるのでしょうか。
まず図鑑には「分類して伝える」という役割があります。そもそも図鑑は「動物」とか「植物」というように、本自体が大きな分類になっていますよね。そして1冊の図鑑のなかでも、動物なり植物なりをしっかり分類してどこがちがうかを示し、特徴を伝えます。何百種も出てくる動物や植物ひとつひとつが図鑑の主人公なので、それらの情報をわかりやすく伝えることが図鑑の役割です。
―子ども向け図鑑にはどんなものがあるのですか?
まずは、「昆虫」「動物」「恐竜」など、項目別に豊富な写真やイラストで紹介する総合図鑑があります。単価が2,000円前後の大型本で、シリーズになっているものが多いです。子どもが手に取るメインの図鑑といっていいと思います。学研の図鑑ですと「LIVE(ライブ)」「ニューワイド学研の図鑑」がそれにあたります。このタイプは各社から出ていて、なかなかの激戦市場になっています。
これらを持ち運びできるサイズにしたのが、「学研の図鑑LIVEポケット」です。恐竜が大好きな子どもなら、いつでもどこでも恐竜の図鑑を持ち歩けるように、というねらいでつくりました。
最近では子どもだけでなく、野外観察をする大人が「鳥」のポケット図鑑をバードウオッチングに使ったり、山ガールのみなさんが「植物」のポケット図鑑を山歩きに持ち歩いて便利に使っていると聞いて、おもしろいなと思いました。
そのほかにも、なぜ の質問に答える「なぜ? の図鑑シリーズ」とか、しかけで遊びながら楽しめる「はっけんずかん」など、用途や年齢に合わせて特徴を出した図鑑があります。
最近では、話題になっている『ざんねんないきもの事典(高橋書店)』のようなエンターテイメント系の図鑑もありますが、わたしたちは、定番の図鑑ではあまり演出を加えず、しっかり分類して特徴を伝えるということを基本的な考え方としています。
―図鑑がもつ教育効果にはどんなものがあるのでしょうか。
食べ物にたとえると教科書や学習参考書は「お米」にあたりますが、図鑑は「お菓子」なんです。お菓子ですから、お米のようには役立たないかもしれない。どんなに恐竜にはまっても、それが将来役立つ子どもはあまりいないかもしれません。
でも、ある年代のお子さんは恐竜や虫の図鑑が好きなんですよ。見ること知ること自体が楽しくて、脳が快感をおぼえて、自分からどんどん読み進めていくんです。お菓子ですから、とにかく楽しくてとまらない。ですからその知りたい気持ちに熱量をもってこたえてあげたいし、こんなこともあるよっていうのを伝えたいですね。
―図鑑はお菓子、楽しむものなんですね。よくわかります。何歳くらいから図鑑が好きになるのでしょうか。
最初は2歳とか3歳、未就学児のころにはまる子どもが多いと思います。
そうやって子どものころから恐竜が好きで、図鑑にはまっていた人たちのなかから、恐竜学者が誕生したりするんです。ある恐竜学者は、成長してからも月に一度は国立科学博物館へ行き、恐竜の骨の数を数えていたそうです。すごいですよね。
さすがにそういう人は少ないかもしれませんが、子どものときにだれでも一度は興味をもって図鑑に立ち寄ってくれる時期があるので、その興味にこたえ、めいっぱい楽しんでもらえるものをつくりたいと思っています。
―子どもの知りたい、楽しみたい気持ちに、図鑑を編集する側も熱意をもってこたえているのですね。次回はそうした子ども向け図鑑ができるまでのステップについてお聞きします。
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