【全国の自治体初】不登校だった人たちが「もうひとつの卒業式」で心残りにひと区切り(東京都北区)

東京に寒波が訪れた2月初旬、卒業シーズンよりひと足先に、ある卒業式が開かれました。その名は「もうひとつの卒業式」。不登校などを理由に卒業式に出なかった・出られなかった人のための卒業式です。
主催は東京都北区で、全国の自治体でこうしたイベント開催は初とのこと。事前ワークショップと卒業式を通して、過去に区切りをつけ前に進もうとする参加者たちの姿を取材してきました。
きっかけは、卒業式を欠席した子どもの多さから
文部科学省の調査によると、令和6年度の小・中学校における不登校児童生徒数は過去最多の約35.4万人(※1)。北区の不登校児童生徒数も増加傾向にあり、令和4年度で600人近くに上ります(※2)。
そんな中、北区の福田晴一教育長が昨年(2025年)、区の卒業式に参加した際、不登校で卒業式を欠席した児童が北区で109人もいることを知り、この企画を考えられたそう。
【事前ワークショップ】ゲームやコサージュづくりを通して一体感が
「卒業生(参加者)」が少しでも仲間意識をもって本番を迎えることができるよう、卒業式の2週間前に設けられたワークショップ。本番と同じ建物で行われ、卒業生を含めイベントにかかわるスタッフ全員が一体となった温かな会となっていました。
講師をつとめるのは「不登校ジャーナリスト」石井しこうさん

「第1回目の会に来るというのは、とても勇気がいることだと思います。皆さんの勇気に応えたいと、関係者一同この会をつくり上げてきました。一緒に過去を振り返っていけたらうれしいです。
私も不登校経験者ですが、人から『苦しかったことは忘れて前を向こう』と言われたりして、腹が立つことも。“あのときあったこと”は忘れなくていいし、自分なりのタイミングで振り返ればいい。私も皆さんの仲間の一人として、一緒に卒業式当日を迎えたいと思います」(石井さん)
一人ひとりが今までを「振り返り」
まずは、職員を含めその場にいる全員で自己紹介。卒業生たちは、学校に行かなかったときのこと、今回参加した経緯などを一人ずつ前に出て話していきます。

「私は病気で高校を中退し、卒業式に出られませんでした。それがずっと心残りだったのですが、今回このイベントを知り、区切りをつけられるのではと参加しました」(卒業生Aさん)
「私は小5から中3まで不登校で、中学校の卒業式に出ませんでした。不登校の間、大人から『学校に行かないでどうするんだ』などと言われて、さらに引きこもってしまったり、人が怖くなったりしたのですが、今皆さんの話を聞いて、本当は学校に行きたかったんだと気づきました。
こうした温かい雰囲気で配慮してもらえたら、もしかしたら学べたのかな、と。このイベントで過去を振り返り、改めて意味付けをしていけたらと思います」(卒業生Bさん)
お互いを知り、本番に向けて準備
次はカードゲームとコサージュづくり。ゲームや共同作業を通してお互いを知りながら、卒業式へ向けた準備をととのえていきます。
どんな式にしたいかみんなで話し合い
最後は別室に移動して合唱の練習も。指導の先生のなごやかなトークのもと、本番に向けてムードが高まります。さらに、「どんな式にしたいか」卒業生の希望を聞きながら話し合い。「起立・礼・着席などの号令はナシ」「服装は自由」など、みんなで希望の式を考えていきました。
【卒業式】いよいよ本番。緊張した面持ちの卒業生たち
冷え込みが厳しい2月7日の日曜日の朝、北区にある複合施設「北とぴあ」13階で式がスタート。先日つくったコサージュを胸に、卒業生たちが入場します。

思い思いのスピーチで
卒業証書授与が厳かに進み、その後「卒業生の言葉」として一人ひとりがあいさつ。学生時代のいじめ体験から「多様性の大事さ」を訴える人、「イベントを通して今の自分を肯定できた」と語る人、思い思いの熱のこもったスピーチに、会場から温かな拍手が送られました。


その後、参加者全員で合唱。練習の成果を感じる伸びやかな歌声が響きわたり、卒業式は幕を閉じました。
卒業式を終えた心境は?
式のあと、卒業生に今の気持ちを聞いてみました。

「すごく晴れやかな気持ちです。高校のとき卒業証書をもらえなかったので、卒業証書授与が印象的でした。親も喜んでくれていると思います」(卒業生Aさん)
「参加して良かったです。達成感や自信が得られました」(卒業生Bさん)
みな、すっきりとした様子でした。
あなたを待っている人や場所がきっとある
取材を通して見えてきたのは、改めて過去を振り返り、自分を肯定して前に進んでいく参加者たちの力強さ。そして、石井しこうさんをはじめ、区長や「校長役」の教育長、北区職員の方々、合唱指導の先生、ピアノ演奏の方、「副校長役」の方、「担任役」の方……企画にかかわる沢山の人たちの懸命な姿でした。
大人たちが「何かできないか」「どうしたらいいのだろう」と心を砕いて試行錯誤している様子が印象的で、今学校に行っていない子、不登校ではないけれど友だちとうまくいっていなかったり、疎外感を抱えたりしている子に、「大丈夫、あなたのことを温かく迎えてくれる場所、人がきっと待っているよ」と伝えたくなりました。

それと共に感じたのは、「対話」や「配慮」の重要性。今回、持病や発達特性のある卒業生もおり、どうしたら式に参加できるか対話を重ね配慮がなされたことで、参加が実現したそう。
学校生活においても、持病のあるなしにかかわらず、一人ひとりの個性や特性がもっと尊重され適切な配慮が受けられる環境であれば、過ごしやすくなる子は増えるのではと感じました。もし「こうしてほしい」「こんな形なら学校に通えそう、卒業式に参加できそう」などの要望があれば、学校に相談してみるのもひとつかもしれません。

式が終わると、まるで卒業を祝う桜のように雪が舞っていました。「たかが卒業式、されど卒業式」という本企画に寄せた教育長の言葉にあるように、参加できた人にはなんてことのない一日が、欠席した人間には重くのしかかって消えない一日になることも。今でなくてもいい、いつか機が熟したときに、すべての子どもたちが“心の卒業式”を迎えられますように。
(取材・文・写真/清野 直)
もっと知りたい方はこちら
北区「もうひとつの卒業式」
https://www.city.kita.lg.jp/children-edu/education/1008137/1024911.html
こども家庭庁における不登校対策
https://www.cfa.go.jp/policies/futoko-taisaku

















