【特集】STOP 小学生の視力低下① 眼科医に聞いた近視にまつわるウソ・ホント
2019年12月に文部科学省から発表されたプロジェクト「GIGAスクール構想」。これにより、小中学生に一人一台コンピューターが配布され、学校でも自宅でも、パソコンやタブレットの画面を見ながら過ごす時間が増えました。さまざまなゲーム機やスマートフォンの普及も相まって、子どもの視力低下を気にしている保護者の方も多いのではないでしょうか。そこで、世の中にあふれる「視力に関する情報」は果たして正しいのか、みさき眼科クリニックの石岡みさき先生に教えていただきました。
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近視の進行は止められない? 視力が低下する理由
そもそも、視力の低下はなぜ起こるのでしょうか。
「近視というのは、目の中に入ってきた光線が網膜(カメラのフィルムに当たる部分)の手前でピントを結んでしまう状態です。近くは見えるけれど、遠くが見えにくい状態ですね。
じつは、生まれてから成人するまで、私たち人間は誰しも近視が進行していきます。背が伸びるのと同時に、眼球も前後に伸びていくため、眼球の手前で像を結ぶような屈折度数にだんだんと移行していくんですよ。ですので、体の成長と同時に、近視が進むのは避けられないことなんです」(石岡先生)
誰であっても、近視が進んでいくというのは驚きです! では、なぜ人によって屈折度数が違っていたり、目が悪くなる人とそうでない人がいるのでしょうか。
「視力低下の原因のうち、半分は遺伝です。お父さんお母さんが強い近視の場合、子どもも近視が進む可能性が高いと言えます。これは、個性のひとつだと思っていただいた方がいいですね。
あとの半分が、環境です。なかでも『近くを見る時間が長い』『太陽光を浴びない』、この2点が近視を進行させる要因だという多くの研究結果が出ています」(石岡先生)
つまり、近視の進行を少しでも緩やかにするためには、
・余分な「近くを見る作業」をやめる
・近くを見る作業をするときは、30分ごとに遠くを見て目を休ませる
・一日に2時間は太陽光を浴びる
これらが有効なのだそうです。
もちろん、他にもいろいろな要素があるので、この3つを実行したからといって完全に近視の進行を止められるわけではないですが、石岡先生曰く「20歳に向かって進行していく近視が、少しゆっくりになるでしょう」とのこと。
これってホント? 視力にまつわる噂を検証
学研キッズネットのTwitterでアンケートを実施したところ、たくさんの疑問や噂が寄せられました。ここからは「視力にまつわる噂」の真偽を石岡先生に教えてもらいます。
噂:その① 暗い部屋で読書やゲームをすると目が悪くなる
A. ウソ!
「部屋の明るさは、視力には関係ありません。目が疲れるだけです」
よく、「暗い部屋で本を読むと目が悪くなる」と言いますが、これは間違いなのだそう。
「暗いところでは瞳(瞳孔)が広がった状態になるので、ピントが合いにくくなります。そのため、大人でも子どもでも目が疲れます。ただ、それ自体が原因で、極端に視力低下が進むわけではありません。近いところを見る作業という意味では近視が進む要因ではありますが、部屋の明るさは関係ないでしょう」(石岡先生)
噂:その② 前髪が長いと視力が低下する
A.ウソ!
「目が悪くなる原因にはなりません。見えにくくて邪魔に感じるのであれば切った方がいいでしょう」
「近視の進行と前髪の長さはまったく関係ありません。髪が邪魔で前が見えにくくなければ、問題ないと思いますよ」(石岡先生)
前髪を伸ばしている娘に、いつも「切らないと目が悪くなるよ!」と叱っていましたが、まったくの筋違いな話だったようです……。
噂:その③ 室内よりも外で遊んだほうが目に良い
A.ホント!
「直射日光である必要はないですが、太陽光が届く場所に一日2時間以上いることで、近視の進行を遅らせる効果があります」
「海外では、教室に太陽光がより多く入るよう工夫されている学校もあります。紫外線を長時間浴びると別の問題に繋がるおそれがありますので、直射日光の下にいる必要はなく、太陽の光が届く場所にいることが大切です」(石岡先生)
お散歩をしたり、公園で遊んだりといった外遊びは、目のためにも必要なことなのですね。
噂:その④ 山などの緑を見ると目に良い
A.ホント! でも……
「近くを見ることで近視が進み、目も疲れるので、その点では遠くの山を見ることは有効です。ただし、緑色を見たから目が良くなるとは言えません」
「子どもは大人よりも眼精疲労が溜まりにくいと言われてはいますが、長時間近くを見ていると近視進行の要因になってしまうので、定期的に遠くを見て目を休ませることを心がけましょう」(石岡先生)
噂:その⑤ 視力は一度悪くなっても回復する
A.ウソ!
「伸びた背がもとに戻らないのと同じで、一度悪くなった視力は改善されず、もとに戻りません」
「ただし、子どもの場合は視力検査で正確な度数が測れず、本来の度数と違った結果が出るケースも。一度近視と言われたとしても、詳しく調べたら、かなり軽度の近視だったということもあります。また、近視の研究は日々世界で進んでおり、新しいデータが日々報告されています。一方で、いろいろな情報が錯綜していることも否めません。何か気になることがあったら、東京医科歯科大学の先端近視センター https://myopia-center.com/ など信頼できるサイトを確認したり、かかりつけの眼科医に質問や相談したりしてくださいね」(石岡先生)
視力低下に関する噂は数あれど、ポイントは「近くを見る作業の合間には休憩をはさむ」、そして「外で遊ぶ時間を作る」ということがわかりました。お子さんの視力低下をできるだけ防ぐため、ぜひこの2つを意識してみてくださいね。
(取材・文 水谷映美)