最前線で働く医師・養護教諭に聞いた! 熱中症から身を守るためにとるべき対策とは?
年々暑くなる日本の夏。運動会や体育祭などの練習中に、熱中症の症状で病院に搬送されるケースが増えています。親としては、子どもにどう対策をしたら良いのか気になるところ。そこで今回は、帝京大学医学部付属病院の高度救命救急センター長を務める三宅康史医師、そして高校の養護教諭として日々子どもたちと接している堀恵子先生に、熱中症になりやすい子どもの特徴と対策について教えてもらいました。
【三宅医師に聞く】熱中症が増えている理由
近年、これほどまでに熱中症で救急搬送される子どもが増えたのは、なぜでしょう。
「子どもの数が減り、大事に育てられているというか、常に快適な環境で過ごしている、ということもあるでしょうが、やはりエアコン無しでは過ごせないほどの気温上昇が大きな要因です。地球温暖化で、日本の夏そのものが暑くなっています。今年(2022年)のように早く梅雨が明けた年は、盛夏が長い。その日上がった気温が夜になっても下がりきらないまま翌朝になり、再び気温が上昇するから、どんどん暑くなってしまう。要注意の年ですね。
一方で、かつては熱中症と診断しなかったケースでも、最近は暑い中で作業していて起こった体調不良=『熱中症』と診断するので、数が増えたように見えることは否定できません。気温上昇に伴って、熱中症に対する認識が高まり、より細かに目を配るようになったというのも、熱中症になる子どもが増えた背景にあるでしょう」(三宅医師)
熱中症が起こりやすいシーンは学校現場に多い?
では、熱中症が起こりやすいのは、どのようなシーンでしょうか。
「半ば強制的に、何かをやらなくてはいけないときですね。たとえば、家族でレジャーに出かけていて熱中症になるというケースは極めて少ないです。テーマパークなどで行列に長時間並ぶ、といった状況でなければ、好きな時間に休憩や水分を取れますから。
けれども、運動会や体育祭の練習、特に集団演技の最中など、みんなで同じことを行っているときは、一人だけ抜けて休憩しにくいものですよね。部活動で、顧問やコーチの指導に熱が入っているとき、試合前で追い込み練習をしているときなども同様です」(三宅医師)
これらの状況下では、たとえ体を鍛えている子でも、熱中症リスクが高いのだとか。集団で何かに取り組んでいるときは、弱音を吐きづらいと思ってしまうかもしれませんが、少しでも調子が悪いなと感じたら迷わず先生に伝えること。そして、周りに様子がおかしい子がいる場合も、速やかに先生に報告することを心がけましょう。
「悪条件が重なった」子どもが熱中症の危険性大
「自分の子どもが、熱中症で倒れるかもしれない」と気が気でない保護者の方も多いと思います。熱中症になりやすい子には、どのような共通点があるのでしょうか。
「熱中症は食中毒などと違って、全員が同時になるということはありません。同じ環境にいても、熱中症になる子とならない子がいる。ポイントは『悪条件が重なってしまった』という点です。
たまたま前夜あまり寝ていなかった、朝食を食べてこなかった、水筒を忘れてきた、ストレスを抱えていた、数日前から風邪の症状があって体調が良くなかった……これらの悪条件が重なるほど、熱中症で倒れるリスクは高いと言えます」(三宅医師)
熱中症予防のカギは、子どもの体調を注意深く観察・共有すること
我が子を熱中症から守るためには、夏場は特に、子どもの体調管理に細かく目を配らせて欲しいと三宅医師。何より意識してほしいのは、食事なのだそう。
「特に、朝食をしっかり食べさせてください。水分量が多いので、パンよりもお米が良いでしょう。塩分をとるために、お味噌汁を少し濃いめに作ったり、おかずに塩をかけたりすることもおすすめです。
そして、できれば毎朝の検温に加えて、体重をはかってメモしてほしいですね。通常であれば、子どもは日々少しずつ体重が増えていくはず。1週間単位で数字を見て、極端に減っているような状況であれば要注意です。健康のバロメーターになるので、夏場だけでも体重測定と記録を習慣化してほしいですね」(三宅医師)
加えて、子どもの体調で少しでも気になることがあれば、連絡帳などで担任の先生に情報共有することが重要だと三宅医師。
「お腹を壊している、少し風邪気味などの前情報があれば、先生方も注意して見ていてくれますから。放っておいても育つのは、秋と春だけ。夏場は特に、しっかりと大人が子どもの体調を見守ってあげてください」(三宅医師)
【養護教諭に聞く】学校現場での熱中症対策
堀先生は、岐阜県内の公立高校で養護教諭をされて20年。ここ数年の夏の子どもたちの様子を見て、なにか気づくことはありますか?
「もはやエアコンがないと授業が成り立たないくらいの暑さですよね。しかも、今年のように一気に暑くなると、暑熱順化(体を少しずつ暑さに慣れさせること)が難しいため、体調を崩す子が多いです。昨日も、午前中に授業を受けていて真っ青になり、倒れた子がいました。聞けば、お母さんと喧嘩をして朝食を食べず、水分もろくに取らなかったと。前の晩も、夜遅くまで起きていたそうです。その状態で、汗を流しながら学校に来て、エアコンをつけ始めたばかりの暑さが残る教室で過ごしていた結果、手足のしびれ、めまいなどを起こして座り込んでしまいました」(堀先生)
熱中症を引き起こす要因が、重なってしまったのですね。
「特に、寝不足はてきめんですね。体が疲れていたり、夜寝苦しくてしっかり眠れていなかったりすると、体調不良に直結します。朝ご飯も、必ず食べてきてほしいです。できれば、ハムやソーセージなど、塩気のあるものをおかずに加えてもらえると、塩分補給になります。
私はいま高校生の様子を日々見ていますが、小中学校の頃から朝ご飯を食べない習慣の子もいます。どうしても朝食がとれない、または食べる時間がないという場合でも、水分だけはしっかりと補給して、送り出してもらえると良いと思います」(堀先生)
夏休み明けが一番気をつけたい時期
夏は長いですが、いつ頃がもっとも熱中症に気をつけるべき時期でしょうか
「子どもたちを見ていると、ゴールデンウィーク明け、そして夏休み明けが特に要注意です。長い休み中は、どうしても生活リズムが乱れます。学校が始まる一週間くらい前から、徐々に生活を整えるよう意識してほしいですね」(堀先生)
秋に運動会や体育祭を行う学校は多いですが、休み明けの場合は特に、学校でも細心の注意を払っているのだとか。
「大きめのタオル、帽子、十分な水分。できれば水よりもミネラル豊富な麦茶で、氷を多めに入れてくるようにお知らせを出します。物理的に体を冷やすため、凍らせたペットボトルも必須です。あとは、朝の会で塩分チャージできる飴やタブレットを配っています。さらに、体育祭の最中は保健委員が紙コップに粗塩を入れて、1時間に1回クラスの子たちに舐めさせる、ということもやっています」(堀先生)
食事、睡眠を意識すれば、熱中症は予防できる
そこまで対策をしていても、熱中症の症状で倒れる子が出てくるのですね……。
「そうなんです。ただ、熱中症は悪条件が重なった子に起こりがちなので、逆に言うと予防することもできます。朝ご飯は必ず食べる、夜ふかししない、水分をしっかり取る、無理をしない。これだけでも、十分な予防策になります。
それから、保護者の方にお願いしたいのは、もしも熱中症のような症状が出た場合は、翌日まで様子をみてほしいということ。症状がおさまって大丈夫だと思っても、翌日まで頭痛が残る、体がだるいというケースがとても多いので。学校を休むことに抵抗を感じるかもしれませんが、しっかり休息をとって、体調を回復させてから、また元気に登校してほしいと思います」(堀先生)
お二人のお話から、熱中症予防で大切なのは、規則正しい生活を送ること、これに限るということがわかりました。夏休みに入っても、生活リズムに気をつけて、熱中症に負けない体を作りましょう。
(取材・文 水谷映美)
お話を聞いた人:三宅康史さん
帝京大学医学部救急医学講座教授。帝京大学附属病院高度救命救急センター長。1985年東京医科歯科大学医学部卒業。専門は救急医学。テレビ、新聞、雑誌、WEBなど数多くのメディアを通じて、熱中症の危険性と対策を訴え続けている。
お話を聞いた人:堀恵子さん
岐阜県公立高校の養護教諭。2001年愛知教育大学卒業。工業高校、中間定時制高校勤務を経て、現在は全日制普通科高校にて勤務9年目。勉強・行事・部活動に打ち込む生徒たちの体と心の健康の保持増進に日々向き合っている。