学習意欲につながる「運筆力」って何?課題から生まれた「ザラザラ下じき」開発者に聞く/前編
2022年に新設された「文房具総選挙」のキッズの学習がはかどる文房具部門で、学研キッズネット賞を受賞した「先生おすすめ 魔法のザラザラ下じき」(レイメイ藤井)。ザラザラとした手触りが特徴的なこの下じきは、キャプテンキッズによるお試し企画でも「きれいな字が書ける」「書きやすい」と大好評。
今回は、開発を担当した、株式会社レイメイ藤井の商品企画室・開発一課の江向桂さんにインタビュー。お話を聞く中で見えてきた、子どもたちが抱える「書く力」の課題とは?
便利な世の中だからこそ育ちにくい「子どもの書く力」
デジタルデバイスが普及し、私たちの身の回りでは、パソコンやスマートフォンが当たり前のように使われる時代に。教育現場においてもGIGAスクール構想がスタート。オンライン授業が始まるなど、子どもたちの学習環境にも大きな変化が起こっています。
ところが、こうした発展の裏側では「子どもの握力低下」の進行も。「ザラザラ下じき」開発背景には、子どもたちにとって身近な「書く力」の課題があるといいます。
「開発のきっかけは、子どもたちが上手に文字を書けなくて困っているという状況を、なんとかできないかと思ったのが、いちばんの理由です。鉛筆の市場では2Bや4Bの売れ行きが好調で、少ない力でより濃く書くことが可能な鉛筆の需要が高まっていると感じています。
実際に、学校の体力測定の資料を見ると、子どもたちの握力が低下している現状もあります。デジタルデバイスの普及もそうですが、世の中が便利になることで、手の力を鍛える機会が少なくなりました。たとえば、昔は力を入れてひねっていた蛇口は、センサー式やレバー式になり、簡単に水が出ます。
瓶の蓋を開ける機会も、なかなかないのかもしれません。このような環境の変化によって、子どもたちの手の力が育ちにくくなっているのを感じています」(江向さん)
「運筆力(うんぴつりょく)」とは? 学習意欲に直結する理由
鉛筆は持つという視点で見たとき、しっかりと握る力が必要です。とはいえ、それさえ身につけば、字がうまく書けるようになるわけではありません。なぜなら、鉛筆を自分の思い通りに動かす「運筆力」も、欠かせない要素のひとつにあるからです。
「運筆力とは、鉛筆で自分の思い通りに書くこと、動かす力のことをいいます。誰もが書くこと自体はできると思いますが、子どもたちは、どれくらい力を入れて書いたらいいか、どう動かしたらいいのかというのが最初はわかりません。
本来、運筆力は、書く経験を積み重ねて身につけていくものですが、小学校低学年の子どもたちの手指の発達は、まだまだ成長段階にあり未熟です。
ところが、小学校に入学して1か月もすれば、先生の板書を写したり、連絡帳を書いたりする機会が増えてきますよね。
最初のうちは、力の加減がわからず疲れてしまって、時間内に書けなかったり、字が整わないことで、自信が持てず書くのが嫌になってしまったり…。そういった経験が積み重なり、勉強自体が嫌いになってしまうこともあります」(江向さん)
一方で、思うように字が書けるようになると、自信がつき、書くことが楽しくなってくるといいます。
「運筆力は、学習意欲にも直結しています。だからこそ、それをサポートできるものがあれば、子どもたちの学びはより豊かになると思いました」(江向さん)
文房具で子どもの「書く力」をサポートしたい
子どもたちの「書く力」の課題は、「運筆力」に留まりません。最近は、定規を押さえながら、うまく線が引けない子どもたちが増えていると江向さんはいいます。
「小学3年生から使うようになるコンパスもそう。つまみをつかみながら、円を描くことは定規を使うよりも難度が上がりますよね。これらの動作は、字を書くのに加えて、道具を固定しなければいけません。今後、ますます子どもたちの書く力をサポートする文房具の需要や進化が、求められているのを感じています」(江向さん)
作業療法士監修のもと誕生した『先生おすすめ 魔法のザラザラ下じき』は、子どもたちの「運筆力」をサポートするための技術がたくさんつまっています。保護者にとっても、「字がきれいに書けない」「筆圧が弱い」といった子どもの書く力にまつわる悩みはつきません。
そんな課題を解決するべく、読み書きの支援をする作業療法士監修のもと誕生した「先生おすすめ 魔法のザラザラ下じき」。
後編では「字がきれいに書ける」という魔法について深掘りします!
取材・文/石橋沙織