日本文化の学びは意外なところに! 食事の配膳は親子で【コソダテのヒント】
元保育園園長で、現在子育てや教育関連の講演会を配信している「花まる子育てカレッジ」ディレクター井坂敦子さんによる連載です。音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の「子育てが楽しくなる小さなヒント」を読みやすく記事化しております。ぜひお楽しみください。
※今回の元になった配信は、9月22日発売の「入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て」(井坂敦子・著)の内容を抜粋してお届けしています。
合理的な「和食の並べ方」
突然ですが、おうちでの食事の際、お子さんに食器や料理などを運んでもらっていますか?
「お皿を落としてしまうのでは」「途中でこぼさないかな」と心配で、「危ないし、大人がやったほうが気がラクだな」なんて思ってしまいがちですよね。ですが、ぜひお子さんにこの「配膳」をしてもらってください。
まず、みなさんご存知だとは思いますが、この和食の食器の並べ方には、ルールがあります。
ご飯茶碗が手前の左、その右隣がお味噌汁などの汁物。さらにその手前にお箸を置きますが、箸先のとがっているほうを左側にして横向きにしますよね。
そして、右側の奥にお魚やお肉などの主菜、左側の奥に煮物のような副菜を置く。それから、真ん中に小さめのおひたしなどの副菜などを置くのが決まりで、これで「一汁三菜」とよく言われる和食の基本の並べ方になります。
「決まり」というと堅苦しいですが、これはとても合理的な並べ方。ご飯茶碗を左側に置くのは、右手でお箸を持って食べる人が多いので、左手に近いところにご飯茶碗を置くと取りやすいから。それから、お魚やお肉などは器を持ち上げたりせずに食べますので、右側の奥がよいだろう、といった具合です。
ですから決して堅苦しいものではなく、理にかなった食べやすい置き方だと思います。
配膳のお手伝いで身につく“学び”
この和食の器の並べ方ですが、大人ならなんとなく知っていたり、自然に身についていたりするものですが、子どもにとっては未知のもの。
理由があってその並びになっているということも知りませんから、子ども自身に配膳をしてもらうことで、自然と経験や学びになっていくのです。
「なんでそうやって並べなくちゃいけないの?」「なんでそこに置くの?」など素朴な疑問を持ったら、上で話したように「左手でお茶碗を持つことが多いから、左側に置けば取りやすいよね」などと話してあげてください。
並べ方には理由がある、ということや、その理由も知ると、子ども自身納得して、自然に正しい並べ方が身についていくのではないでしょうか。
ほかにも、旅館や和食のお店などでは、お味噌汁などの汁物のお椀にフタがついて出てくることがあると思います。食べ終わったあとにそれをどうするか。
食べ終わったことを知らせるために裏返してお椀の上に置く、という方もいると思いますが、フタの表面に傷がついてしまう恐れがあるから、裏返して置くのではなく、元通りにフタをしておくのが正解のようです。
こうした「器をいたわる気持ち」というのも、日本の食文化の表れ。そうしたことを親子でおしゃべりしながら食事を楽しむのも素敵です。
中学受験に「配膳」の出題が!?
10年ほど前。ある有名中学校の社会科の入試問題で、和食の配膳の問題が出たことがあります。「配膳のイラスト4枚のうち、どれが正しいですか?」というような問題です。
こうした内容が社会科の教科書に出ていたり、受験対策で勉強する、ということはあまりないと思うので、その学校は「どんなふうに家庭で食事を大事にしているか」というのを見ているのだな、と当時思いました。
このように、普段何気なくやっていることの中に、子どもにとってはたくさんの学びがあるもの。「それ知ってる!」と、「それやったことがある!」、「それいつもやってる!」には、大きな違いがあります。
子どもは、小さなことにでも「できた」と喜んでくれますから、配膳やあと片付けなどを手伝ってもらっていると、「できた」「やったことがある」「いつもやってる」というように喜びにあふれ、生活を楽しむ気持ちになれます。そんなお手伝いの体験は、いろいろなところでお子さんの力になるのではないでしょうか。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
井坂 敦子(いさか あつこ)さん
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範
慶應義塾大学卒業→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)が9月22日発売。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母