歯磨き以外も必要?むし歯予防にもなる見落としがちな習慣【専門家が解説】
子どもの歯とお口の健康のためには、歯磨き意外にもじつは大切なことがあるのを知っていますか?何が正しくて、何が間違っているのか迷うこともあるかもしれません。
今回は、むし歯予防にまつわるさまざまな疑問を軸に、子どもの健康な口内環境づくりに欠かせない習慣について、大阪大学 名誉教授・予防歯科学講座 特任教授の天野敦雄先生にお話を伺いました。
子どものむし菌。大人からうつるのは本当なのか
子どもの歯磨きケアが始まると同時に気になることでいちばん多いのは、むし歯菌が親から子どもにうつるのかどうかという疑問ではないでしょうか。
率直にお答えすると、これは事実。昭和の常識としてはよく、生後19ヶ月から31ヶ月は感染の窓と言われ、お母さんの唾液が子供の口に入らないように注意しなさいと言われました。
口移しはもちろん、スプーンやお箸などを子どもと共有することで、むし歯菌が子どもに移るのです。
いくら家庭で気を使っていても、感染を完璧に防ぐことはできません。ですが、専門家の立場からすると、たとえむし歯菌がうつってしまっても、フッ素とシーラントでむし歯を予防できるので、神経質になる必要はありません。
ただ、お子さんやご家族(両親を含む)にむし歯がたくさんある場合は、口内環境にむし歯菌が桁外れにいることになりますので、普段からむし歯を予防するためのオーラルケアはもちろん、治療は早めに行いましょう。
子どもに舌ブラシ、マウスウォッシュは必要?
普段の子どものオーラルケアは、基本的にはブラッシングで十分です。
小学生ぐらいまでの子どもは唾液がたくさん出ているので舌はあまり汚れていませんから、舌ブラシもとくに使う必要はありません。
ただし、お口が常に開いている子どもは、舌が汚れやすく、黄色や白っぽい汚れがあると口臭も発生しやすくなります。舌に汚れがある場合は、舌ブラシを使ってケアをしましょう。
マウスウォッシュも同様に、口内環境にむし歯菌が多いなどのリスクが高い場合は、歯磨き後に使用できるといいですね。
とはいえ、マウスウォッシュは万能ではありません。歯磨き代わりにマウスウォッシュだけ、と言うのは本末転倒。むし歯予防に楽な近道はありません。
健康な歯をつくるために必要な栄養素とは
ブラッシングなど、日々のオーラルケアは言うまでもなく重要ですが、健康で丈夫な歯と歯茎を育むためには、必要な栄養素を毎日の食生活に取り入れるのも大切です。
歯茎によいとされる栄養素は、オメガ3脂肪酸です。代表的なものとして、アマニ油やえごま油に多く含まれる「α-リノレン酸」や、サバやイワシなどの青魚に含まれる「EPA」や「DHA」があります。
焼き魚を夕食のメニューに取り入れたり、ほうれん草のおひたしにアマニ油をかけるなどして食べるのもおすすめです。
また、下記の栄養素も積極的に摂取しましょう。
ビタミンC:キウイ、オレンジ、ピーマンなど
ビタミンD:アドカボなど、日光浴でも形成される
抗酸化物質:ポリフェノール、イチゴ、緑茶など
食物繊維:野菜、フルーツ、冷や飯など
ビタミンCとビタミンDには、歯周病組織の炎症を顕著に減少させるというデータがあり、歯茎にもよいとされています。
なかでもビタミンCはマストで摂取したい栄養素で、キウイやオレンジ、ピーマンなどに多く含まれています。ビタミンDは日光を浴びることで生成される栄養素なので、1日15分は日光浴をするのもいいですね。
むし歯菌の餌となるのは発酵性糖質(ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、調理したデンプンなど) ですが、お口の健康のために控えた方がよい食材もあります。
・炭水化物(パスタやご飯)の過剰摂取
・過剰な糖分
・トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、フライドポテト、ショートケーキ、クロワッサン、カレールーなど)
炭水化物の過剰摂取は、腸内細菌叢(腸内フローラ)の錯乱を引き起こし、便秘がちに。体の慢性的な炎症は、歯周病のリスクが高まります。
過剰な糖分も歯だけではなく、歯ぐきにも悪影響。また、トランス脂肪酸の過剰摂取は炎症反応を起こし、慢性疾患を引き起こす可能性もあるので注意しましょう。
むし歯を防ぐために、規則正しい生活を心がけよう
食生活以外と併せて、毎日の生活習慣の見直しを意識することも大切です。
・1日3回決まった時間に食事をする
・おやつは1日1回
・食事の後は歯を磨く
・口呼吸をしない
おやつを1日に何度も食べたり、テレビを見ながらなどの、“ながら食べ”にも注意しましょう。
清涼飲料水には砂糖がいっぱい入っているので、スポーツドリンクや炭酸飲料を飲んだ後は、すぐに水でうがいをしましょう。
普段からお茶や水を飲むように心がけることも大切。とくに烏龍茶には虫歯を予防するポリフェノールがたくさん含まれているのでおすすめです。
また、子どもの3割に上ると言われていて問題になっているのが、口を常に開けている「お口ぽかん」の口呼吸です。
常に口が開いていると、
・口の機能が発達しないため、歳をとると咀嚼がうまくできず飲み込めなくなる
・口呼吸で唾液が乾燥し、悪玉菌が棲みつきやすくなる
・歯肉炎や歯周炎、カンジダ感染、口臭を引き起こす
などのリスクがあります。さらに、健康面以外でも、集中力が続かず勉強にも影響があると言われています。
じつは、現代ではロウソクの火を消せない、口笛を吹けない子どもが非常に多くいるんですよ。
これも、口呼吸の弊害のひとつ。子どもの口の機能が発達していないということですから、かみごたえのある食事を取り入れたり、噛む回数を増やしたりといった対策をしましょう。ただ、“お口ポカン”はそう簡単には治りません。小児歯科医院に相談しましょう。
また、口呼吸で唾液がなくなると、味覚が鈍くなり、濃い味でないと美味しさを感じることができなくなります。ほかにも、感染症にかかりやすくなるなどさまざまなリスクがあるので、 鼻呼吸の習慣もぜひ意識してくださいね。
取材・文/末永陽子 編集/石橋沙織