【医師解説】水疱瘡が流行の兆し ワクチンを打っても感染 虫刺されと間違うケースも 感染拡大を防ぐには?
インフルエンザの感染者数が増加しているなか、水痘(水疱瘡〈ぼうそう〉)の感染者数が局所的に増加しています。発疹が出る子どもの感染症は多いですが、どんな特徴があるのでしょうか。柏みんなクリニック・イオン柏院の院長である石川携医師が解説します。
(いしかわ・けい)柏みんなクリニック院長。琉球大学医学部卒業後、都立大塚病院小児科、東京大学医学部附属病院(小児集中治療班)などで経験を積む。小児科専門医、集中治療専門医。沖縄県出身で、「子どもたちの “ちむどんどん(ワクワクする気持ち)”出来る日が1日でも早く来るように全力を尽くす」がモットー。2児の父として子育てにも奮闘中。
「水痘らしくない水痘」が増加
――水痘(水疱瘡〈ぼうそう〉)の定点あたり報告数が例年よりも多い状況が続いています。
全国的に爆発的な増加というよりは、地域ごとの「局地的な流行」を感じます。最近気になるのは、ワクチンの普及によって「水疱瘡らしくない水疱瘡」が増えているという点です。典型的な全身の水ぶくれではなく、虫刺されのような発疹が数個出るだけのお子さんが多く見られます。そのため、保護者の方は水痘だと気づかずに受診が遅れるケースが散見されます。
――水痘に特徴的な症状とはどのようなものでしょうか。
発疹の「変化の早さ」が特徴です。最初は赤いポツポツである「紅斑」(こうはん)から始まり、数時間から半日で水ぶくれの「水疱」(すいほう)になり、最後はかさぶたである「痂皮」(かひ)へと変化していきます。半数以上のお子さんはかゆみも訴えます。
そして、「新旧の発疹が混在する」のが最大の特徴と言えます。体の中に、できたばかりの赤いポツポツと、治りかけのかさぶたが同時に見られる状態です。また、「頭皮」や「口の中の粘膜」にもできる点が、他の発疹症との違いです。
保護者の方がよく勘違いされて来院される疾患には、手足口病やみずいぼなどがあります。水ぼうそうの場合、発熱やその他の風邪症状があらわれることはあまりありません。
――水痘はどのくらい感染力が強い病気ですか。
水痘の感染経路は「空気感染」です。病原体が長時間空気中をただようため、空気の流れに乗って隣の部屋に到達することもあります。つまり、同じ空間にいるだけ、あるいはすれ違っただけでも感染するリスクがある、非常に強い感染力を持っています。
ちなみに、空気感染できる感染症は、はしか、水痘、結核の3つしかありません。インフルエンザが「会話(飛沫)」でうつるなら、水痘は「空気」でうつると考えると、その強さがイメージしやすいでしょう。
疫学における「1人の感染者が、免疫のない集団の中で何人にうつすか」を示す指標で比較すると、その差は明らかです。インフルエンザがおよそ1.3人であるのに対し、水痘はおよそ10人。数字で見ると、感染力の強さはインフルエンザの約7倍あるといえます。家族の誰かがかかると、免疫のない他の家族にうつる確率は90%に達するともいわれます。
――診断はどのように行われるのでしょうか。
基本は「視診」です。特徴的な水ぶくれと、新旧の発疹が混在する様子を見て診断します。
ただし、ワクチン接種後の軽いケースなど、診断が難しい場合もあります。その際は、水ぶくれの内容液を採取してウイルス抗原を調べる迅速検査を行うこともありますが、多くの場合は見た目と経過で判断できます。
――もし水痘にかかってしまった場合、どのように治療しますか。
抗ウイルス薬の内服が一般的です。発症から48時間以内に飲み始めると、ウイルスの増殖を抑え、症状を軽くし、治るまでの期間を短くする効果が期待できます。かゆみが強い場合は、塗り薬などを併用して症状を和らげます。
――登園や登校はいつから可能になりますか。
学校保健安全法というルールで決まっており、「すべての発疹が、かさぶた(痂皮)になるまで」出席停止と定められています。復帰の際には、医師の許可証が必要になることが多く、1週間以上かかることもあります。
ワクチンは重症化防止のシートベルト
――どのように予防できますか。
予防の決定打はワクチンです。現在は1歳からの定期接種となっており、2回接種が基本です。ワクチンを打つことで、基本的には一生免疫がつくといわれています。
ワクチンを打っていてもかかることはあります。ワクチンは重症化を防ぐシートベルトのようなものだと考えると良いでしょう。接種していれば感染しても発疹が少なく、熱も出ずに軽く済むことがほとんどです。逆に言えば、ワクチンのおかげで「ただの虫刺され」程度で済んでいるお子さんもいると思います。
かなり感染力の強い感染症ですので、家庭や学校などに患者がいる場合、マスクや手洗い・うがいといった通常の感染対策で防ぐことはなかなか難しいです。意識的に換気をして、部屋の空気を入れかえることをおすすめします。
――重症化するリスクはありますか。特に注意が必要なのはどのような人ですか。
健康なお子さんであれば、多くは軽症で治りますが、まれに脳炎や肺炎、皮膚の重い細菌感染症を合併することがあります。
特に注意が必要なのは、1歳未満の赤ちゃんや、免疫に関わる病気を治療中のお子さん、そして「ワクチン未接種の大人」です。大人が水痘にかかると非常に重症化しやすいため、これまで水痘にかかったことがない、ワクチンを受けたことがない場合は注意が必要です。さらに妊娠中の感染は、母子ともに大きなリスクがあります。
――妊娠中に水痘に感染すると、どのようなリスクがありますか。
妊娠時期によって注意すべき点は異なります。
妊娠初期から中期(20週ごろまで)に初めて水痘にかかると、ウイルスが胎盤を通じて赤ちゃんに影響し、「先天性水痘症候群」という病気を持って生まれてくることがあります。具体的には、皮膚に深い傷跡が残ったり、手足の発達が悪かったり、目の障害などが起きたりします。ただし、その確率はおよそ2%程度と言われており、慎重な経過観察が必要です。
おなかが大きくなる妊娠後期は、赤ちゃんへの直接的な影響のリスクは下がります。ですが、母親の免疫力が低下しているため、「水痘肺炎」を起こすなど重症化しやすい時期です。母体の健康悪化は赤ちゃんへの負担にもなるため、入院治療が必要になることもあります。
そしてもっとも危険なタイミングが、分娩の直前直後(出産5日前から産後2日)の感染です。このタイミングで赤ちゃんが感染すると、お母さんの体で作られた抗体が赤ちゃんに届く前に、ウイルスだけが届いてしまいます。
免疫のない状態でウイルスにさらされた赤ちゃんは、「新生児水痘」という非常に重い感染症を発症しやすく、命に関わることもあります。この場合は、専門の小児科での集中治療が必要になります。
注意すべきは「帯状疱疹」
――一度かかると二度とかからないのでしょうか。
基本的にはそのように考えてよいと思います。ですが、ワクチンを接種しても十分な抗体が得られない人もいて、まれに二度かかる場合があります。
むしろ注意すべきは、再感染よりも、体内に潜んだウイルスが数十年後に活動を再開する「帯状疱疹」です。水痘ウイルスは、治った後も死滅せず、神経の奥にかくれて一生潜み続けます。そして、大人になって加齢やストレスなどで体調が優れないときに「帯状疱疹」として復活することがあるのです。
――子どもが水痘に感染した場合、そのウイルスによって親が帯状疱疹を引き起こすことはありますか。
水痘のウイルスに感染することで、帯状疱疹を引き起こすことはありません。一方で、帯状疱疹の症状が表れているときに赤ちゃんなど水痘にかかったことのない人に感染すると、水痘の症状を引き起こすことがあります。
――妊婦さんが帯状疱疹になった場合、赤ちゃんへの影響はありますか。
これはよくある質問ですが、母体が「帯状疱疹」になった場合、すでに母体に抗体がある状態ですので、赤ちゃんへの影響はほとんどないと言われています。心配しすぎなくて大丈夫です。
――子どもが水痘にかかった際、将来の帯状疱疹を防ぐために家庭でできるケアはありますか。
残念ながら、将来の帯状疱疹を防ぐための特別なケアというものはありません。お子さんが水痘にかかったときに大切なのは、かき壊さないことです。爪でひっかいて傷口から細菌が入ると、「とびひ」などを併発し、跡が残ったり重症化したりする原因になります。爪を短く切り、清潔に保ってあげてください。
――神奈川県藤沢市や沖縄県など流行注意報が発令されている地域もあります。自分が感染したり、感染が広がったりしないようにするためには、どのような生活を心がけるとよいでしょうか。
インフルエンザが「向かい合って話すとあぶない」レベルなら、水痘は「同じ部屋の空気を吸うだけであぶない」レベルです。集団生活では感染拡大のリスクが非常に高いため、登園登校基準も明確に決まっています。気になる発疹を見つけたら、なるべく早く受診し、医師の診察を受けましょう。
また、妊娠を考えている方は、一度ワクチン接種が必要かどうか、医療機関に相談するとよいでしょう。現在妊娠中の方は、妊婦健診の血液検査で抗体があるか確認しておくと安心です。何か心配なことがあれば、まずはかかりつけの医師に相談してください。
水痘はありふれた病気ですが、決して軽い病気ではありません。過度に怖がる必要はありませんが、「正しく恐れ、正しく備える」ことが、お子さんの笑顔を守ることにつながると思います。
(EduA編集部/森泉萌香)








