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水いぼのお話/こどもの皮膚科ドクターが語る

水いぼのお話/こどもの皮膚科ドクターが語る

プールでうつることの多い水いぼ。水いぼ=夏? いえいえ、潜伏期間を経て秋に出現することも多い病気。意外と治療がクセモノで見た目は地味でも奥が深~い病気です。

今回は秋によく見られる水いぼの話をしていきましょう

この時期にいまさら? と思われるかもしれませんが、水いぼの新規患者さんが多いのは実は秋だったりするのです。原因は多分プールですね。プールで水いぼに感染した友だちに接触して感染する、プールサイドの床やプールの水の中にいるであろう水いぼから感染するというように、夏に裸になったときに皮膚から直接感染した水いぼが、潜伏期を経て秋に出現するという仕組みです。ちなみにプールのビート板はもちろん感染源となりますが、ほかのプールの品物にたいしては極端に神経質になる必要はありません。空気感染することもありませんので、その点はご心配なく。

感染した水いぼが体に広がる原因はひっかくことです。水いぼの部分を気にしてひっかくことで指先に水いぼが移り、そこからさらに別の皮膚に感染するという形で広がっていきます。また肘や膝、男の子のおちんちんなど擦れやすい部分の水いぼは反対側の皮膚に感染を広げることが多く見られます。

水いぼの正体はなにか

水いぼの正体はウイルスです。「水いぼウイルス」、正式名称は「伝染性軟属腫ウイルス」といいます。このウイルスは、実はより細かく4種類に分けることができます。つまり水いぼウイルス1型から4型まで分けることができるんですね。このことは感染を考えるうえでは非常に重要なお話になってきます。次の項目で詳しく説明していきましょう。

水いぼはどうして子どものみにうつるのか

毎日外来で診療をしていると、水いぼに感染するのはほとんどが子どもだということに気が付きます。大人で受診する方はほとんどいませんし、いたとしてもその大部分はお母さんです。最近は少しお父さんも見かけますが、高齢者で水いぼの方はまず見ることがありません。

その理由は免疫ができているから。大人はすでに子どものときに水いぼのウイルスに感染しています。そしてそのときに免疫が成立します。免疫は一度感染したウイルスに二度と感染しないという体の防御反応ですから、子どものときに水いぼに感染していると、その後、自分の子が水いぼを持って帰ってきても免疫機能がうまく働いて感染を起こさないで済むわけです。

大人で水いぼになってしまった場合は、体の中の免疫がうまく動いてくれない状態なのか、過去にかかった水いぼとは別のタイプの水いぼウイルスに感染してしまったか、どちらかの可能性が考えられます。お父さん・お母さんの場合は後者の可能性がほとんどなのですが、もしも高齢者が水いぼに感染した場合は、白血病やガンなど免疫力を落とす病気が体の中に隠れていないかしっかりと検査をしなければいけません。

 

〈コラム〉イクメンだからうつるんだ。
水いぼのウイルスは接触で移ります。子どもがもらってくることでお母さんに感染することもあります。その理由は簡単ですね。子どもと直接接触しているからです。外来ではお母さんが子どもから水いぼをうつされる確率は年ごとに見ていても大きな変化はないように見えます。

面白いのはお父さんです。昔といっても少し前の話ですが、お父さんが水いぼに感染したという話は全く聞きませんでした。しかし、ここ数年、お父さんの水いぼを時々見かけるようになりました。もちろんお母さんほどではありませんが確実に増えているようです。その理由はお父さんも子どものお世話をしっかりとするようになったからかもしれませんね。今後お母さんとお父さんの水いぼの発生確率がどうなるのか、少し気にして診察している今日この頃です。

水いぼはどんな形をしているのか

水いぼの診断は簡単です。特徴のある発疹が広がっていることを確認すれば良いからです。
発疹の形は1つだけ。中心部が少し白っぽく見える、小さな盛り上がりです。大きさはいろいろですが大きなものは中心部が少しくぼんでいるように見えることもあります。そしてゆっくりと、しかし着実に大きくなっていることも大きな判断材料となります。

自覚症状は基本的にありません。最初は痛くも痒くもありません。周囲に湿疹ができることも最初はなく、見た目の変化のみで現れます。そして水いぼの最後は少しずつ枯れて小さくなってなくなっていきます。それまでおおむねね2~3カ月かかります。

消えるまでのバリエーションが大きいのも水いぼの特徴です。大きくなった水いぼに細菌が感染すれば赤く腫れ、痛みが出ることもありますし、水いぼに対する免疫ができれば赤く、痒くなることがあります(もっともこの現象は自分の体が水いぼに対して免疫が現れてきた証明でもありますので、治りかけの最後の時期に見られることも多いのですが)。

厄介なのは極端な場合です。水いぼは数多く現れるのが一般的ですが、これが1個だけの場合は非常に診断が難しくなります。数センチまで巨大化した水いぼが1個だけ見られるなどということもあります。巨大化した水いぼが皮膚のできものと間違えられて手術されてしまったというお話もある程です。

治療はどうすればよいのか。取るべきか取らざるべきか、それが問題だ

じつは水いぼで結構問題になるのが治療です。診断は比較的簡単ですからね。
その問題は取るべきか否か。先程から説明しているように水いぼは時間が経過すれば自然と消えていきます。そして免疫がついてしまえば今後感染を起こす可能性はありません。そのために自然に治るのを待つべきだという考え方も一理あります。

しかし待つことによるデメリットもあります。それは今後の経過が読めないこと。どこまでこの水いぼがふえるのか? いつ最後の水いぼが消えるのか? それは診察のときには全く分かりません(赤く痒くなった水いぼは消えかけなので、そういう水いぼであれば判断がつきますが)。その予後の読めなさが問題になってくるのが社会生活との兼ね合いです。特に幼稚園・小学校のプール問題

幼稚園・小学校のプールはかなりの確率で水いぼの子は拒絶されます。水いぼがあるだけでプールの時間に1人で別のことをしているか、見学しているかという状態に追い込まれてしまうのです。皮膚科医小児科医はあまりプールの制限が感染予防につながっているとは考えていませんが、園側・学校側がダメというのであればしたがうしかありません。それが水いぼを巡る問題の中でも一番やっかいなものだと考えています。

もう1つ、水いぼのとり方にも問題があります。現状では最も簡単で有効な治療方法はピンセットでつまんで取ることです。こちらは痛みもありますし、出血することもあります(もちろん血液を介した感染症の問題もあります)。当然子どもたちは嫌がりますし、評判の良い治療法ではありません。だから医療者側も無条件に取りましょうとは言えず、最終的は保護者および本人の判断に委ねざるを得ないのです。取るべきか取らざるべきか。この問題にはいつまでたっても答えは出そうにありません。

 

〈コラム〉えっ、取ってくれないんですか?
先程のお話の逆のケースとして、プールに行きたい子が水いぼを取ってほしいといって受診することがあります。よくよく話を聞いてみると、近所の先生では水いぼを取ってくれないとのこと。実は水いぼを取るか否かについては医師側の考え方も反映されます。一般的に小児科は取らない先生が多く、皮膚科は取る先生が多いようです。小児科の先生が取りたがらないのはある意味当然かと思います。子どもたちに痛い思いをさせてしまい、今後別の病気の治療のときに差し障る可能性がありますからね。では皮膚科医は水いぼを取る先生が多いのかと思いきや、取らない先生も増えているようです。結果として、水いぼを取ってくれる先生のところに水いぼ治療を希望する患者さんが殺到することになっています。

当院では水いぼを取ること自体は別に構わないのですが、最近新たな問題が発生しました。それは医師の目と腰問題です。近頃どうも老眼が出てきたようで、小さな水いぼを取るのが徐々に大変になってきました。また中腰で水いぼを取っていますので、腰の痛みもだんだん出てきたみたいです。これもまた職業病でしょうか・・・。

水いぼはいつ治るのか?

この問題も結構難しいですね。先ほどお話したように、免疫が成立すれば完治するのですが、免疫の成立は目で確認できません。したがって水いぼの完治を知ることは非常に難しいのです。一般的には水いぼが数カ月間見られなかったら治癒と判断します。潜伏期を考えると数週間で判断するのは早すぎます。2~3カ月後に水いぼが再発する子を何人も目にしていますから。ある日、別の型を持つ水いぼウイルスが感染を起こすこともありますしね。

なので、水いぼについては完治をめざすというよりもほかの人へ感染するリスクを最小限に抑えるというのが現実的な対策になると思います。つまり見た目に水いぼがなければ大丈夫だという考え方ですね。社会問題として完治が必要になる状況は合宿などの集団生活とプールです。いずれの場合も他者に感染するリスクがなければ問題は生じませんので、水いぼの症状がなくなることを実際のゴールと考えてよろしいかと思います。そしてしばらく経過を見て、新しい水いぼができたらすぐにそれを取ってしまい、症状がない状態をキープしていくということでよいのではないかと思いますよ。

さて水いぼのお話はいかがでしたか? 見た目は大したことがないのですが、実は奥が深い病気です。治療の大変さもおわかりいただけたのではないでしょうか。社会を反映する病気の1つともいえるかもしれませんね。

わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市・皮膚科、小児皮膚科)院長。国立成育医療センター(小児皮膚科)、東京都立東大和療育センター(皮膚科)勤務。2001年山形大学医学部卒業山形大学医学部皮膚科入局山形県公立置賜病院(山形県長井市)、国立成育医療センター(東京都世田谷区)、はせがわ小児科医院(東京都武蔵野市)などの皮膚科・小児皮膚科を経て、2013年、わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市)開院。院長を務めるかたわら、専門家向け、一般向け、教育機関(保育園、幼稚園、小学校、中学校など)向けの各種講演会、勉強会を精力的にこなす。雑誌他執筆多数。広い年齢層の皮膚病、あざの治療やスキンケアに携わる。
わかばひふ科クリニックWebサイト

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