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虫さされの話 予防編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第1回】

虫さされの話 予防編/こどもの皮膚科ドクターが語る【第1回】

診察室で日々子どもたちを診る皮膚科医が教える“虫さされはこうして予防する”。

夏です! 暑いです! 虫さされの季節がやってきました!
ということで、毎日診察室は虫さされの子どもたちでごったがえし、てんてこ舞いの毎日です。今回はそんな皮膚科の診察室から虫さされのお話をしていきたいと思います。最初のテーマは虫さされ予防のお話です。

ひと口に予防と言いますが、虫はどのようにして人を刺しているのか、そのメカニズムを知らなければ予防の話はできません。そこで、最初は虫はなぜ人をさすのか? について、蚊のお話を中心に進めていきましょう。そうすればきっと予防についてもわかるはずです。

人の血を吸うのはメスの蚊だけ!

蚊はなぜ人を刺すのでしょうか? 実は人を刺すのはメスのみです。オスは血を吸うことはなく、花の蜜などを吸うことで生活しています。そしてメスは、生きていくためではなく卵を作るために血を吸う必要があるのです。

したがって、栄養を吸い取ったあとの血液は捨てられる運命です。ときに壁紙に赤っぽい点状のシミがありますが、そのシミは蚊が捨てた血液の残りの成分がくっつき、乾いたものなのです。

そのメスが何を手がかりにして人を探しているのか。大きく、「熱」「二酸化炭素」「化学物質」に分けることができます。

「熱」はなんとなく理解できます。生きている限り動物から熱は出ます。「二酸化炭素」もわかります。呼吸すれば出ますからね。そして問題になるのは「化学物質」。具体的には乳酸やアミノ酸などといった物質を指します。メスの蚊はこれらの物質を感知し、その濃度の高い方に引き寄せられるというわけです。一説には10メートル離れたところから感知して、血を吸うために近寄ってくるとされています。

実はこの探知機構を理解していると虫さされのよくある話が理解できるんですね。まず子どもはなぜたくさん刺されるのか? これは子どもの体温が高いから。運動が活発であり、呼吸回数も多いから。たくさん汗をかくから。といった面から説明することができます。

また、虫に刺されやすい人、刺されにくい人がいますが、その差も代謝の活発さや、汗の出かたで説明することができます。実際に病気のために汗が出ない人はどうやら虫さされも少ないようですよ。

もう1つ、虫さされの予防についてもこの話を読んで気づいた人がいるかも知れません。予防のターゲットは化学物質とその感知機構です。蚊は化学物質に誘引されますので、シャワーや入浴により、体表面の汗を取ることは虫さされを予防するうえで効果はあるでしょう。また、蚊の化学物質センサーをごまかすことができれば、きっと刺されないはず、という理屈で開発されたのが虫よけ剤(昆虫忌避剤)となります。

虫よけ剤の作用はまだ良くわからない部分もありますが、乳酸をはじめとする化学物質を感知するセンサーを狂わせることが知られています。

虫よけ剤の種類と特徴

では、どのような虫よけ剤を使用すればよいのでしょうか。

虫よけ剤の種類はそんなにはありません。除虫菊(ピレスロイド)ハーブ・アロマ系ディートイカリジンくらいでしょうか。

除虫菊(ピレスロイド)は最古の虫よけ剤です。昔ながらの蚊取り線香に含まれている成分ですね。実はこれは殺虫剤としても使用されており、濃度が低いと虫よけ剤として働き、濃度が高いと殺虫剤として働く成分です。

なお、こちらの成分は人間には作用せず、昆虫類にのみ作用しますので、比較的安全に使用することができます。しかし蚊以外の昆虫にも働いてしまいますので、使うときには状況を選ぶ必要があります。そういえばホタルの鑑賞会のときには虫よけを使わないようにアナウンスされていましたね。

ハーブ・アロマ系は除虫菊(ピレスロイド)以外の天然の虫よけ成分をまとめたものです。実はピレスロイド以外にも自然界には天然の虫除け成分が多種存在していること、それが虫を実際に遠ざけることが知られています。ハーブだけではなく、樹木にも同様の虫よけ成分が含まれており、これらをフィトンチッドと総称します。ハーブ・アロマ系はこれらを上手に利用することにより、虫よけとしての働きを期待したものです。

ディートイカリジンは自然界に存在しない、合成された虫よけ剤です。ディートの方が歴史は古く第二次世界大戦の頃にさかのぼることができます。虫よけとしての効果はこの両者には大きな差はありませんし、副作用もありません。こちらも人体には存在しないタンパク質に作用します。

なお、イカリジンについては使用量の制限はありませんが、ディートは過量使用により(なぜか)痙攣を起こすことが知られているために使用量の制限があります。厚生労働省からも使用量及び使用回数を制限するように告知されています。使用量には注意したいところですね。

また、ディートをイカリジンと比較した際のデメリットはもう1つあります。ディートはプラスチックや樹脂を溶かすことが知られています。海外に存在するより高濃度のディートで車のダッシュボードが溶けたなどという笑い話もありますし、現在日本で販売されているディートで、お母さんが塗っていたネイルが溶けてきたという話がありました。

虫よけ剤を購入する場合は濃度と販売チャネルに注目!

このような虫よけ剤の成分を理解したうえで購入し、上手に使用することが必要ですが、虫よけ剤の購入時の注意点がまだあります。濃度と販売チャネルです。

濃度とは言うまでもなくその虫よけ成分がどのくらい含まれているかです。当然濃度が高くなれば効果は高くなるものの、副作用などのトラブルが起きる確率も高くなります
ディート、イカリジンについては濃度は記載されていますが、除虫菊(ピレスロイド)やハーブ・アロマ系の製品では濃度は記載されていることはまれです。そのために虫よけ効果の強さが目に見えないことも悩みどころとなります。

販売チャネルとは流通経路のこと。つまり、どこで虫よけ剤を買うのかが、効果の高い虫よけ剤を選ぶための重要なポイントになるというわけです。ドラッグストアや雑貨店、スーパーなどで購入できる製品はどうしても濃度の低い製品であることが多く、濃度の高い製品を購入するためには薬局やクリニックなど限られた場所でしか購入できないことがあります。製品を購入する際にはどこで購入するかというのも大切なのです。

さて、そろそろこのお話もおしまいにしましょう。まず第一に、誰でもいつでも簡単にできる虫さされの予防法は、しっかりとシャワーを浴びて汗や汚れを落とすことです。そのうえでしっかりと虫よけ剤を使用して、刺されないようにしていきましょう。

どの種類の虫よけ剤を使うかについては、最終的にはその人の考え方になりますが、当院でおすすめしているのは高濃度ディート(30%)そして、高濃度イカリジン(15%)です。

いよいよ夏も本番、しっかりと虫よけを使用して、虫さされを予防していきましょうね。
次回は虫に刺されたときの症状についてお話をしていきましょう。

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野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

野﨑誠(のざきまこと)

わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市・皮膚科、小児皮膚科)院長。国立成育医療センター(小児皮膚科)、東京都立東大和療育センター(皮膚科)勤務。2001年山形大学医学部卒業山形大学医学部皮膚科入局山形県公立置賜病院(山形県長井市)、国立成育医療センター(東京都世田谷区)、はせがわ小児科医院(東京都武蔵野市)などの皮膚科・小児皮膚科を経て、2013年、わかばひふ科クリニック(東京都武蔵野市)開院。院長を務めるかたわら、専門家向け、一般向け、教育機関(保育園、幼稚園、小学校、中学校など)向けの各種講演会、勉強会を精力的にこなす。雑誌他執筆多数。広い年齢層の皮膚病、あざの治療やスキンケアに携わる。
わかばひふ科クリニックWebサイト

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