日本伝統の武器として、職人たちの技がつまっている日本刀。その見た目も美しく、美術工芸品として海外からも人気を集めているほどだよ。みんなにとっては、例えば『鬼滅の刃』とかマンガやアニメ、ゲームの世界でよく登場するから、一度は手にしてみたいとあこがれるアイテムかもしれないね。その日本刀をつくる伝統を継ぐ刀鍛冶のお仕事のことを、羽岡義仁(本名・慎仁)さんに聞いたよ。
日本刀のどこに魅力を感じていますか?
日本刀の魅力の一つは、その美しさです。「機能美」といって、武器として考え抜かれ、磨き上げれたことで生まれた美しさが好きですね。昔の刀鍛冶たちが「折れず、曲がらず、よく切れる」という理想を実現するため、工夫を重ねてきた技術の結晶なんです。本当に、どうしてこんな技術にたどりつけたんだろうと感心してしまいます。海外の刀剣などにはない、刀身にあらわれる「地肌模様」や、刃部分の「刃文」の芸術的な美しさもありますね。
また、日本刀そのもののほか、日本刀をつくるという鍛冶仕事も、かっこいいと思っています。美しい刀を、自分の手でつくりあげるのは、楽しいですね。
日本刀はどうやって作るのですか?
玉鋼という、日本刀用の鋼を材料に作ります。すごく簡単にいうと、玉鋼を熱して金づちでたたいて、不純物を除く「鍛錬」、刀の形を整える「火造り」などをへて、鋼を硬くする「焼き入れ」をし、刃を研ぎます。切るときに折れてしまわないように中心は少し軟らかさのある鋼をおき、よく切れるように刃の部分には硬い鋼をかぶせて作るのが、日本刀の特徴の一つです。
ちなみに、一つの完成した日本刀をつくることは、刀鍛冶のほかに、刃を研ぐ「研師」や、鞘をつくる「鞘師」など、多くの職人の分業でなりたっています。
刀鍛冶をどうして目指したのですか?
実は、アニメがきっかけなんです。中学生くらいのときにテレビで「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の主人公・両津勘吉が、日本刀を作る回を見て「日本刀って自分でつくれるんだ!」と感動したんです。この回のエピソードは今でもよく覚えているほどです。同じように、日本刀や刀鍛冶が登場する『鬼滅の刃』のアニメを見て、興味を持つ子どもたちがいるのかもしれませんね。
私の場合、父親が大工で、自分でも木材のあまりで木刀を手作りするなど、もともと、ものづくりに興味はありました。そして偶然にも自宅の近くに日本刀を作っているところがあったのも幸運でした。高校を卒業して「弟子にしてください」と押しかけて…。一度は追い返されたのですが、なんとか弟子入りさせてもらって、今につながっています。
刀鍛冶のやりがいはなんですか?
やっぱり、自分の刀を作れるところです。作っている途中でキズが入ってダメになるものも少なくないなかで、最後、刃が研ぎあがって完成したときに達成感がありますね。刃文がきれいに入ってくれたときも気持ちいいです。
日本刀は海外での評価が高く、購入する人も外国の方のことが多くなってきています。日本の伝統や文化、技術の高さを、世界に発信しているという気持ちもありますね。
大変なことはなんですか?
正直に言って、日本刀を作るのには、材料費などのまとまったお金が必要です。独立して自分の鍛冶場を持とうと思えば、それもまた、お金はかかります。
刀鍛冶としての実力が認められるまでは、なかなか自分の作った日本刀を買ってくれる人も少ないです。アルバイトをしながら日本刀を作るためのお金をかせぐなど、厳しいこともあります。
刀鍛冶としての夢はなんですか?
コンクールでたくさん賞を取って、吉原義人師匠のように「無鑑査刀匠」になることです。無鑑査刀匠は、別格の腕前がある刀鍛冶のみ認定される称号で、刀鍛冶として最高の目標です。
ほかには海外で、日本刀の制作を公開実演してみたいですね。今はインターネットで動画を公開するなど、世界中に発信することはできますが、やはり直接、飛び散る火花を見て、炭の燃えるにおいをかいでもらうとなると、伝わるものが全然ちがうと思っています。
刀鍛冶になるにはどうしたらよいですか?
刀鍛冶になるには、まず刀鍛冶の師匠に弟子入りして、そこで5年以上の修業が必要です。修業では、炭を細かく切るなどの作業をこなしたり、師匠たちに教えをこいながら技術を見て盗んだり。同じものは二つとないので、それぞれの素材の状態にあわせて、熱する温度を調整するなどの細かい技術を身につけるのは大変です。師匠はあんなに簡単そうにやっているのに、自分でやってみるとまったくできないということだらけでしたね。
5年以上が経過して、一通り日本刀が制作できるようになってから、文化庁主催の「美術刀剣刀匠技術保存研修会」を受ける必要があります。8日間かけて脇差という小さな刀をつくる、実地試験のようなものです。研修を無事に修了できると、ようやく刀鍛冶としてのスタートラインに立てます。
刀鍛冶に興味を持った子どもたちへのメッセージ
私は中学・高校と部活やスポーツをやっていたわけでもなく、何か特別な能力があるわけでもありません。むしろ、どちらかというと不器用な方です。それでも刀鍛冶になれました。やりたいという熱意と、少しの幸運さえあれば、誰でも挑戦できる仕事だと思いますよ。
日本刀の詳しいつくり方を見てみよう
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