法律で争い事を解決する「判断のプロ」。中立な立場で公平に物事を見極めなければならない。
こんな人にピッタリ!
他人の意見に惑わされず、冷静で明確な判断を下せる人。判決を下すには、深い法律知識や過去の判決(判例)と照らし合わせる作業が欠かせないので、日々勉強する努力のできる人。
どんな仕事?
事実を認定して判決を下す「法の番人」
裁判官は、裁判所に訴えられた事件について、訴えた側と訴えられた側の両方の話をよく聞き、中立公正な立場でどちらの主張が正しいのかを認定する。そのうえで法律に基づいた適切な裁定を下すのが「法の番人」と呼ばれる裁判官の仕事だ。日本には5種類の裁判所(最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所)がある。ほとんどの裁判は最初に「地方裁判所」で行われ、その判決に納得できない場合は「高等裁判所」で裁判をやり直し、その判決でも納得できない場合は「最高裁判所」で裁判をやり直すこともある。裁判を三回受けられるこの制度は、裁判を受ける人の権利を守るための「三審制」と呼ばれるものだ。そうした裁判の種類を大きく分けると「民事裁判」と「刑事裁判」がある。民事裁判は、一般の人の間で発生した争いを解決するもの。刑事裁判は、事件や事故について国家機関の一員である検察官が訴えた「被告人」の処罰を求めるもの。そうした一般の民事・刑事裁判ではあつかわない「家族間の争いや非行少年の裁判」を行う裁判所として「家庭裁判所」があり、請求金額が140万円以下の民事事件や罰金以下の刑に相当する刑事事件など軽い罪の事件は「簡易裁判所」が取りあつかう。このようにさまざまな裁判所があり、それぞれの裁判官が自分の信念に従って判決を下している。だが、裁判に関わったすべての人が納得できる判決を下せるわけではない。判決によっては、人生が大きく変わる人もいる。裁判官の仕事はとても責任が重いのだ。それだけに、裁判官の仕事はやりがいのある仕事と言えるだろう。
これがポイント!
法律系国家資格の最難関「司法試験」合格を目指す
裁判官になるためには、国家資格である「司法試験」に合格しなくてはならない。司法試験を受験するには、年齢制限はないが、資格が必要だ。受験資格は、大学を卒業した者が進学する「法科大学院」を修了するか、「司法試験予備試験」に合格すること。法科大学院は、大学の法学部卒業生だけでなく、ほかの学部の卒業生でも進学できる。ただし、法科大学院で学ぶ期間は、法学部卒業生は2年だが、ほかの学部の卒業生は3年になる。そのように法科大学院を修了するか司法試験予備試験に合格した者は、5年間は何度でも(試験は1年に1度実施)司法試験を受験できる。司法試験は法律系国家資格の中では最難関と言われている。予備校や通信講座を利用する人が多いが、独学で挑戦する人もいる。なお、2023年からは、法科大学院在学中の学生でも一定の要件を満たすことで司法試験を受験できるようになる。
司法試験に合格しても裁判官になれるとは限らない
司法試験に合格すると、1年間「司法修習生」として裁判所・検察庁・弁護士事務所の3か所で実習(司法修習)を行う。その司法修習の総仕上げとして行われる「2回試験(司法修習生考試)」に合格できれば、裁判官・検察官・弁護士のいずれかになる資格があたえられる。ただし、本人が希望しても裁判官になれるとは限らない。裁判官は、最高裁判所が任命されるべき者を指名し、内閣が任命することになっている。司法修習中に知識と経験を積むだけでなく、人付き合いを積極的に行って実力を認めてもらう努力も必要だろう。裁判官には「判事」という役職名があり、任官された裁判官は「判事補(未特例判事補)」として、地方裁判所や家庭裁判所に配属される。判事補は一人で判決できず、3人で合議する場合も裁判長にはなれない。経験が5年以上になる判事補の中には、最高裁判所の指名により、判事と同じ一人で判決を下せるなどの権限を持つ「特例判事補」になる者もいる。判事補が10年以上の経験を積むと「判事」に昇格する。判事は、一人で判決を下せるほか、3人で合議するときのまとめ役である裁判長を務めることもできる。20年以上経過すると地方裁判所長や家庭裁判所長に命じられ、高等裁判所にも配属される。そこからの裁判官の出世コースは、高等裁判所長官→最高裁判所判事→最高裁判所長官。裁判官のトップである最高裁判所長官は、内閣の指名に基づき、天皇によって任命される。
将来こうなる
法律以外の経験を積み、温かい判断ができる裁判官が求められる
裁判官は、裁判の公正さを保つために「国家公務員特別職」として特に強い身分保障があたえられている。強制的に職を辞めさせられる理由が限られていたり、給料を減らされたりすることはないのだ。経験年数によって階級が上がり、給料も増えていく。定年は65歳から70歳なので、将来性は格別だ。一方で、裁判官はおよそ3年ごとに全国500か所以上にある裁判所のどこかへ転勤することになっている。それは、同じ地域に居続けて地域の人と親しくなることで裁判の公平性・中立性が守れなくなる危険を防ぐためだ。男性・女性の区別はなく、結婚して子どもがいる人も転勤を命じられ、それが定年まで続く。裁判官の任期は10年なので、区切りのいい時期で再任を希望せずに退職し、弁護士などに転職する人もいる。また、日本は外国に比べて裁判官の数が少ないと言われ、現在も裁判官の不足が問題になっている。一人の裁判官が担当する事件が多いうえに、国際化や情報化が進んだことで多種多様な事件が増え、事件の処理に時間がかかるからだ。もともと時間のかかる裁判が、より長期化することが心配されている。さらに「裁判官以外の仕事を経験したことのない裁判官は一般市民の意識とかけはなれた判決を下す」という意見もある。そうした問題を解消するために生まれたのが「弁護士任官制度」や「裁判員制度」。弁護士任官制度は、10年以上の弁護士経験がある者を裁判官に任命できるもの。裁判員制度は、国民の中から選ばれた裁判員が刑事裁判に参加して一般市民の感覚や常識を裁判に反映させることを目的の一つにしている。今後、裁判官を目指す人は、法律以外のさまざま経験を積み、法律的な冷たい判断だけではなく、人間的な温かい判断をできることが望まれるだろう。
データボックス
収入は?
平均年収は640~1460万円。国家公務員である裁判官の給与は法律で決められている。2021年度のデータでは、判事補は月額約23~42万円、判事は月額約52~118万円、最高裁判所長官は月額約201万円。ちなみに最高裁判所長官と内閣総理大臣の給与の月額は同じ額だ。また、裁判官に残業手当は出ないが、ボーナスは出る。格安の公務員住宅に入居できるので、かなり恵まれた条件の職場だ。
休暇は?
裁判官は、裁判所の法廷で担当する裁判に立ち会ったり、裁判官の部屋で資料を読んだり調べたりしている。法廷が開廷するのは月曜から金曜なので、基本的に土曜・日曜は休み。だが、裁判の準備に忙しい裁判官は、休日でも自宅や裁判所で仕事を進めることが多い。
職場は?
最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所。
なるためチャート
裁判官の仕事につくための主なルートが一目で分かるチャートだよ!