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高校生になったときの壁、新科目「歴史総合」。 親子で知っておきたい、学ぶためのポイント!

高校生になったときの壁、新科目「歴史総合」。 親子で知っておきたい、学ぶためのポイント!

2022年に新しい学習指導要領に従って導入され、高校の新しい必修科目となった「歴史総合」。2025年1月に実施された大学入学共通テストにもいよいよ登場しました。

歴史は特に文系では重要科目。これまでの「日本史B」「世界史B」とはどこが違うのでしょうか。学校の別なく、きちんと教えてもらえるの? 入試対策は? 定期テストや評価ってどうなるの? そもそも、何のために学ぶの? など、お子様にとって戸惑うことも多いでしょう。もちろんそうなれば、保護者の方も気になりますよね。

今回はそのような「歴史総合」について、「歴史総合」の教科書執筆者であり、『学研まんが 日本と世界の近現代の歴史』の監修者である、高橋哲先生(渋谷幕張教育学園 幕張中学校・高等学校教諭)に、お話をうかがいました。「歴史総合」の意義や学び方、そして学びの楽しさについてお伝えします!

世界史と日本史をいっしょに、18世紀以降の近現代史のみを扱う科目

「歴史総合」を知るためには、まずはお子さんが購入する、学校指定の教科書をご覧になってください。これまでの教科書とはイメージが違うはずです。四大文明も縄文・弥生時代も出てきません。内容は18世紀以降の近現代史のみ。日本史と世界史がいっしょになっているのも特徴です。しかも、順を追ってできごとを学んでいく、いわゆる「通史」でもありません。

のちほどご説明しますが、教科書でいえば見開き2ページ、もしくは4ページ程度で一つの内容を扱い、全体が50~60テーマで構成されています。保護者の方々も経験があるかもしれませんが、これまでの歴史の授業では授業数の関係で、日本史も世界史も、教科書の最後までは学び終えられないことが多くありました。とりわけ現代の諸課題に直結する、近現代史の学習が手薄というのは否めませんでした。また、当時の学習指導要領では必修科目の世界史を高校で授業していない世界史未履修問題もかつてありました。

こんな話があります。春に韓国に旅行へ行った日本人が、3月1日が韓国の祝日であったことに際し、「なぜ今日は休みなの?」と尋ねたところ、「あなたは歴史を学んでいないの?」と怒られたといいます。この理由がおわかりでしょうか。3月1日は、韓国で1919年に、日本の植民地支配に抵抗し、独立運動が始まった記念日なのです。

この例から学べるように、特に世界と日本がより密接に関わり合ってきた近現代史を、他国も含めて総合的に学んでおくことは、とても大切なことです。昨今、グローバル化の波がさらに広がり、進学や留学、就職などで世界中の人たちとの交流がますます増えることを考えればなおさらのことです。

古代史や中世史の学習ももちろん大切です。しかし、授業時間数には限りがあります。だからこそ文部科学省は、2単位の「歴史総合」を必修科目とし、これを履修した後に、より探究を深める科目である「日本史探究」「世界史探究」へと進む教育課程に改めたのです。

日本と世界の歴史を横断的に学び、「私ごと」としてとらえていくこと

高等学校学習指導要領地理歴史構造表
(山川出版社『高等学校学習指導要領地理歴史構造表』より)

「歴史総合」には、3つの大項目があります。

①「近代化と私たち」②「国際秩序の変化や大衆化と私たち」③「グローバル化と私たち」。いずれも、「~と私たち」となっています。この①②③の大項目に沿って、先ほど述べた教科書を構成している、50~60個の学習内容(テーマ)が設定されているのです。特に現代の子どもたちは、私たちの時代以上に将来、これまで以上に世界の人々と協力して生きていかねばなりません。歴史を“私ごと”としてとらえ、それをもとに現代的な諸課題について考えることは、とても大切で、なくてはならない感覚です。

とはいえこの“私ごと”という感覚については、説明を受けても、どういうことかいまひとつピンとこないのではないでしょうか。ここでは具体的に、①「近代化と私たち」の大項目で扱われている「日露戦争」を例にとってみましょう。

日露戦争は、1904年に始まった、満洲・韓国の権益をめぐる日本とロシアの戦争です。激戦ののち、日本とロシアは、アメリカ大統領の仲介で講和条約(ポーツマス条約)を結びました。その内容は、日本が樺太の南半分を獲得し、ロシアからの賠償金はなし、というものでした。日本では「日露戦争に勝った!」と沸きましたが、ロシアでは「日露戦争には負けていない」と思っているそうです。

さて、それはなぜなのでしょうか。このときのロシアの外交代表ウィッテは、ロシア国民にどう説明したのでしょうか? ここに、あなたが仮にウィッテであったとして、ロシアは負けていないと言い切るにはどうしますか? という「問い」が生まれます。この「問い」もまた大切なので、後でお話ししますね。

ウィッテになったつもりで、ウィッテのロシア国民への条約の説明を、“私ごと”として考えましょう。
この「問い」に対する答えの一つは、「首都から遠く離れた樺太の半分こそ割譲したが、賠償金は払っていない。これは停戦のための譲歩だから負けてはいない」というものです。この答えの意図を知るためには、もっと深く「日露戦争」を調べなければなりません。講和の背景には何があったのか。当時、日本は一定の戦果をあげたものの、アメリカやイギリスからの借金(外国債)にも大きく依存しており、これ以上戦争を続けるのは難しかった。一方でロシアも国内で革命が起きてしまい、戦争どころではなく、講和はお互いのため(ウイン・ウイン)だった……という事情が見えてきます。

このように、“私ごと”としてお互いの国の立場を考えることは、これからの国際社会を生きる上で必要不可欠なことだと感じていただけると思います。

「問い」に始まり、「問い」に終わる

さて、「あなたがウィッテだったら…」という問いの話が出たところで、「歴史総合」の特徴としての「問い」の話をしましょう。教科書を開くと、どの教科書会社のものであっても「問い」があちこちに掲載されているのがわかります。考えるための風刺画、写真、表やグラフが数多く配されて、それぞれに「問い」がついています。

山川出版社教科書『現代の歴史総合―みる・読みとく・考える』
教科書に設けられた問 (山川出版社/歴史総合708『現代の歴史総合―みる・読みとく・考える』より)

そもそも、「問い」とはどんなものでしょうか。「1853年にペリーはどこへ来ましたか?」……これは問いではありません。クイズです。「1853年、ペリーは日本に何のために来たのだろう?」……これなら問いに発展します。先ほどの日露戦争の例も問いです。

歴史総合の授業は、問いに始まり問いで終わります。初めは先生が問いを用意し、生徒たちは話し合ったり自分の考えをまとめたりして理解を深めていきます。Googleクラスルームなどを使って、各自の意見を共有し、集計し、さらに自分の考えを高めます。最後には生徒自身が問いを立て、どうすれば正しく伝わるかを考えていきます。これが学習指導要領でうたわれている「問いを表現する」といわれるものです。

たとえば前述③「グローバル化と私たち」の大項目で扱われている高度経済成長。「1967年に公害対策基本法ができました。なぜ?」との問いを立てたとします。「四日市ぜんそくなどの公害はよくないから」……その通りですが、これでは答えとして深まりません。

次に、なぜもっと早くに規制ができなかったのか? という、別の観点からの問いを立ててみます。日本の高度経済成長は1950年代に始まっていた。ならば当時の政府は、環境問題よりも生産の方を優先していたのではないだろうか? → なぜ四日市で石油精製が行われたのだろう? → かつて日本では石炭を多用していた。でも石油の方がエネルギー効率がよく、プラスチック製品も作りやすいし、液体だから扱いやすい。安い原油を海外から輸入して大量に精製する方針だったのではないか? → だから四日市で公害が続いたんじゃないか? 海外にエネルギーを依存するデメリットはないだろうか?……問いは次々と立てられ、授業も深まっていきます。その中で問いを探究するのに有効である史資料の読み解き方も学んでいきます。

「歴史総合」の探究的なの授業を経験した生徒からは、これまでの講義を聞くだけ(先生側から見ればチョーク&トークのみ)の授業では物足りないという感想を得ています。保護者の方も、教科書を見て、ぜひ問いの内容について考えてみてください。

評価における定期テストの比重は下がっている

保護者の方にとって、評価、いわゆる成績のつけ方が気になるかもしれません。学校によって評価の仕方やテストの作り方は異なるでしょうが、実際のテストの形式は、従来通り、知識を問う穴埋め問題などがなくなったわけではありません。

学校によって出題の傾向が変わると申し上げた理由の1つは、各教科書会社の教科書のつくりが多岐にわたっていることにあります。現在は7社から12種の教科書が発行されていますが、今のところシェア(採択率)が20%以上の教科書はありません。従来の世界史、日本史を融合して横断的に編集されているものや、日本史分野と世界史分野がはっきりと色分けされているものなど、さまざまです。

ですが、文部科学省が示す学習指導要領では、知識・技能のほかに、思考力・判断力・表現力や、主体的に学習に取り組む態度(意欲)も重視されるようになっています。つまり、「歴史総合」では、問いを立てて考える授業態度にも重きが置かれて評価されると考えてよいでしょう。知識を問うテストは行われはしますが、評価に定期テストの占める比重は以前より低くなっているのが特徴です。

これには、大学入試でも、学校推薦型や、志願理由書、プレゼンテーションなどの総合型選抜が増えていることも背景にあります。

ヨーロッパ、たとえばイギリスでは「Citizenship Education(市民教育)」が行われ、多様な社会を生きる人材育成に重きが置かれていますが、日本も同様の教育を進めていこうとしているということにもつながっています。特に公職選挙法の改正により、18歳をむかえた高校3年生にも選挙権(参政権)が認められている現在では、「選挙民」を育てるという、終戦直後に誕生した社会科創設時の理念がより一層(社会科ではないものの)必修科目の「歴史総合」には求められているといえるでしょう。

2025年2月14日「内外教育」
(2025年2月14日「内外教育」7224号より抜粋引用)

小中学生のうちに「歴史総合」学習への下地をつくっておく!

このように、従来の学び方から大きく姿を変えた「歴史総合」。本格的な学習のスタートは高校生(多くの学校では高校1年生で学習。週2時間)からになりますが、学ぶための下地を作っておくことは重要だといえるでしょう。

そこでおすすめしたいのが、「まんがを読む」という方法です。まんがは小学校低学年からでも読めますし、視覚的に情報が入ってきますので、これまでお話ししてきたような、日本と世界の同時代の横断的な学習、問いの立て方、考え方なども理解しやすいのではないでしょうか。

たとえば『学研まんが 日本と世界の近現代の歴史』には、さまざまな問いが立てられています。大きな画像を使った問いのほか、セリフの中にもたくさんの「?」が登場します。この「?」に注目して読むことが、そっくりそのまま「歴史総合」の学習への導入となるでしょう。

また、それぞれの巻には個性的な案内役のキャラクターが登場します。このキャラクターが、登場する中学生たちと、他国へ行ったり、タイムトラベルしたり、時空を縦横に移動します。これがすなわち、「歴史総合」で生徒が行う「視点移動」です。ストーリーまんがには、必ず場面転換があります。この場面転換は、「歴史総合」における大切な着眼点と重なります。なぜここでこっちの場面へ飛ぶ必要があるのだろう、どうしてここで別のエピソードが入ったのだろう、なぜアメリカではなくロシアへ誘うのだろうか、など、相違点や共通点に頭をめぐらしながら読むことで、「歴史総合」の授業で求められる、①先生が用意する「問い」に応じる、②自らで「問い」を考える、そしてそれを③他人(先生やクラスの友人)に正しく伝わるよう「表現する」ことへの下地づくりが自然とできるといえるでしょう。

まんがやビジュアルの多い本は、読み進めていく上でのストレスが、少ないのがよいところです。気軽に読めるものから触れて、まずは歴史に興味をもち、高校で全員が必ず学習する「歴史総合」の時間を楽しみにしてもらえたらうれしいですね。

『日本と世界の近現代の歴史』

日本と世界の近現代の歴史 全6巻セット
全6巻セット初回限定は「歴史推理カードゲーム」「日本と世界の近現代の歴史年表」の二大特典付き。

近現代の歴史を、日本史・世界史を融合してわかりやすくとりあげた歴史学習まんが全6巻。読みやすいまんがと豊富な資料で、「問い」を立てながら歴史を深く学習できます。学校の授業の予習や復習、受験対策はもちろん、将来、社会に出た後にも通用する深い学びにおすすめです。

高橋哲・監修 南房秀久・原作
Gakken・刊
好評発売中
全6巻セット:8560円(税込)
各巻:1430円(税込)

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「歴史推理カードゲーム」で楽しく学びながら「問い」力UP!

全6巻セット初回特典の「歴史推理カードゲーム 水平思考クイズ」は、「はい」か「いいえ」で答えられる質問によって、カードに書かれた問題文の答えを探っていくゲーム。どのような「問い」をすれば解答が得られるか、お子様と一緒にプレイすることで思考力が鍛えられます。特典ゲームより1題出題。ぜひお子様と一緒にやってみてください。

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取材・文/入澤宣幸

高橋 哲(たかはし あきら)さん

高橋 哲(たかはし あきら)さん

高橋 哲(たかはし あきら)さん

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校教諭(日本史)。中学校社会科「歴史」、高等学校地理歴史科「歴史総合」の教科書執筆者。他に『全国大学入試問題正解日本史』(旺文社)の解説者。著作・監修(共著)に『全レベル問題集日本史―共通テストレベル』『日本史基礎問題精講』『とってもやさしい歴史総合』(旺文社)、『書きこみ教科書詳説日本史』(山川出版社)、『日本史の論点-論述力を鍛えるトピック60』(駿台文庫)など。

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