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石戸奈々子先生に聞く!AI時代に、子どもの創造力を育む「探究学習」の進め方

石戸奈々子先生に聞く!AI時代に、子どもの創造力を育む「探究学習」の進め方

「指導計画の作成が難しい」「時間の確保が難しい」「児童生徒に役立っているか不明確」「評価の基準が難しい」――。
小中学校から高校までの教育課程に「総合的な学習(探究)の時間」が定着してきた一方、現場では今もこうした課題を抱えている先生方が少なくないようです。
そもそもなぜ「探究力」が求められるのか、教員は子どもたちにどう寄り添えばよいのか。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授で、NPO法人CANVAS理事長、一般社団法人超教育協会理事長を務める石戸奈々子先生にお聞きしました。

探究学習をブームにせず、「学びの構造」に

「探究力」とは、「自ら問いを立て、試行錯誤しながら新しい価値を生み出していく力」であり、著しく変化する社会を生きるために求められている力とも言えると思います。
まず大切なのは、探究学習を一時的なブームとして捉えないこと。探究学習は、これから変わっていかなければならない「学びの構造」そのものだと考えます。
社会が大きく、そして速く変化していく時代では、正解がひとつに決まらない課題が増えています。知識を持っているだけでは立ち行かない場面も少なくありません。時には、コロナ禍のように、大人でさえ答えがわからない課題に立ち向かう場面もあります。だからこそ、「自分で問いを立て、試行錯誤しながら学び続ける力」が重要になります。
さらに、生成AIの発達などデジタルツールの進展によって、「あることを深く調べてまとめる」ことのハードルは大きく下がりました。その分、「何を問うのか」「何を創り出すのか」が、学びの中心に戻ってきたともいえます。これも探究学習が求められる理由のひとつです。「何を問うか―問題を発見する力」「問いをもとに試行錯誤する力」「他者と協働する力」を包括する力が「探究力」で、探究学習はその力を育む学びの一つといえるでしょう。

疑問・好奇心

探究学習と教科学習を上手に組み合わせよう

よくある誤解として、「探究学習は教科学習と相反するものであり、探究に重点を置くと教科学習がおろそかになる」という見方があります。
しかし、探究学習と教科学習は、どちらが大事といった二項対立の問題ではありません。
ものごとを掘り下げ、新しいものを創り出すには、それまでに得た知識を総動員する必要があります。国語、算数(数学)、社会、理科、美術など、教科で培った知識や技能を活用する場面が多くあります。
探究には、ばらばらに学んできた多種多様な知識を統合し、活用することが求められるのです。探究学習と教科学習は互いに補い合いながら、子どもたちが力を育んでいきます。
探究学習では、自ら問いを立てる「学びの設計者」として学びに関わる姿勢が大切です。その際に探究学習で育んだ「学び方」と教科学習で学んだ「知識・技術」の両方を上手に使うことが重要なのです。
探究は「学びのOS」にたとえられるかもしれません。
探究学習は「問いを立てる→仮説を立てる→情報を集める→比較検討する→試してみる→修正する→表現する→振り返る」といったプロセスを踏みます。これはどんな教科・領域でも共通して使える思考の基盤となるプロセスです。OSに対し、教科学習はアプリやスキルにあたるともいえます。土台となるOSがしっかりしていれば、新しい知識や技能という“アプリ”や“スキル”はアップグレードしていくことができるのです。

教員の役割は子どもの「ファシリテーター」

では、教員はどのように関わればよいのでしょうか。
問いの立て方や情報の扱い方、行き詰まったときにどうフォローするか、うまく言語化できない子どもにどう声がけするか。さまざまな場面で、的確なサポートが必要なのではないかと感じるかもしれません。しかし、大切なのは、「どう寄り添うか」という視点です。
授業の中で、子どもたちは悩んだり迷ったりするでしょう。しかし、その過程自体が探究学習の大切な部分です。すぐに“正しい”方向に導かないといけないと思うのではなく、子どもたちと一緒に考えたりやってみたりする試行錯誤の過程が重要になります。
失敗に見えることがあっても、それは必ずしも失敗とは限りません。むしろ、失敗を肯定するような寄り添い方が大切です。
学校現場では、従来のティーチング中心の役割から、ファシリテーターとしての役割への転換も意識されるようになっています。動画授業やAIを活用し子どもの一人ひとりを指導することもできる中で、子どもの伴走者やファシリテーターとしての存在は、人間である教員だからこそ担える役割ともいえるでしょう。
「このことで気になるのはどこかな?」「別の方法でやってみたらどうなるかな?」「思っていた結果とちがったのはどうしてかな?」……。
子どもたちの表情をよく見ながら問い返して、思考を整理し、そっと背中を押していくような関わり方です。
問いが広がりすぎて収拾がつかなくなったときも、「いま一番大事にしたい問いはどれ?」と焦点を絞る声かけにより、学びが前に進むこともあります。

IT教育の授業風景

外に開く、小さく始める探究学習を考えよう

「意図したように探究学習を進められない」「探究学習を効率的に進められない」という声もよく聞かれます。
そもそも探究学習には、寄り道をしたり試行錯誤したりする過程そのものが重要な要素でもあります。そのため、効率を求めすぎることはあまり適していない場合もあります。探究学習で何か特別なことをしなければならないと考える必要もないと思います。学者が研究するような壮大なテーマを掲げると、子どもにとっても教員にとっても負担が大きくなることがあります。身の回りにある課題、手が届きそうなテーマから始めてみるのも一つの方法です。
また、探究学習を外に開く形も考えられます。プログラミングのように教員にとっても新しいテーマや手法を扱う際には、校外の専門家の力を借りるなど、地域や企業、保護者、他校などを巻き込む方法もあると思います。すべてを教員だけで担おうとせずに、外に開きながら進めることも、探究学習の一つの進め方かもしれません。

“成果”を評価するより“過程”を評価しよう

探究学習で多くの方が悩むことのひとつが評価です。
探究学習では、成果として見えるアウトプットだけでなく、プロセスを見ることも重要です。
どんな問いを立てたのか、どんな仮説を立てたのか、テーマをどのように分析したのか、うまくいかないときにどのように修正したのか、試行錯誤の過程はどうだったのか。
いわゆる成功に至らなかったともしても、どんな過程を経たかに目を向けることが大切です。「問いの深まり」「試行錯誤の質」「他者との対話」などの観点を入れることで、成果だけに偏らない評価もしやすくなります。
日頃から成功か失敗か、できたかできなかったかで評価されることが多いと感じる児童もいるでしょう。そのため、「失敗してもいいんだ」と思える環境があると、安心して挑戦しやすくなります。そうした挑戦を応援する大人としての立場で子どもを見守る姿勢も大切になります。

生成AIは“問いを広げるパートナー”。リテラシーを身につけながら活用を

生成AIの発達によって、何かを調べることは格段に簡単になりました。生成AIの利用に抵抗を感じる人もいるようで、「子どもに使わせていいのか」という声も聞かれます。しかし、禁止するのではなく、どう使うかを学ぶことが重要です。
これからの子どもたちは、生成AIと共にある社会の中で生きていくことになります。
便利なツールであっても、使い方次第で危険な面が生じることは、どんなツールにも共通しています。よくわからないからと禁止してしまうのではなく、「生成AIで得た情報をうのみにせず、必ず裏取りをしよう」「個人情報を公開するのは危険だよ」などのリテラシーを身につけながら、大人とともに適切な使い方を学ぶことが大切です。
「新しいツールは大人自身が使い方に自信がないため、子どもに使わせるのは不安だ」という声もあるようです。しかし、デジタルリテラシーは全ての人に必要な力です。また、社会が大きく変化するいま、生涯学び続ける力も大切です。大人も学ぶ姿勢を見せながら、子どもとともに学ぶのは大きな意義のあることです。
使い方のリテラシーを一緒に学ぶプロセスを大切にしながら、世界を掘り下げ、広げていくツールとして生成AIを使うという姿勢が大切なのです。

教員は子どもの好奇心を後押しする存在に

テクノロジーは日々進化し、未来の教育にもさまざまな影響を与えるでしょう。学びの環境やツールが変わることで、一人ひとりの興味に応じたAIによる学習支援が広がるなど、より個別化された学びが進む可能性があります。そうした変化は、学習指導要領にも影響を与えるかもしれません。入試のしくみも、たとえば学びのプロセスを記録・評価するような新しい仕組みが取り入れられるなど、変化していく可能性があります。さらに、学年や学校といった枠組みを超えた学習をデザインすることで、教育制度そのものも変わっていくかもしれません。
しかし、変わらないものもあります。さまざまな出来事に対して「なぜだろう?」「どうしてかな?」「もっと知りたい」という気持ちを抱く子どもたちの「探究心」です。これからの探究は、「調べてまとめる」段階を超え、「どんな価値を創るか」へと広がっていくと考えられます。
子どもの好奇心を大切にし、挑戦を応援する大人の存在が重要であることは変わりません。創造性を大切にしながら、子どもたちそれぞれの未来を切り拓いていく力を育むことが、ますます重要になっていくことでしょう。
問いを立て、試行錯誤し、新しい価値を生み出す力。それを支える伴走者として、教員の役割はますます重要になります。

「CANVAS 遊びと学びのヒミツ基地」活動レポート

石戸先生が理事長を務めるCANVASは、多様性を尊重しながら、子ども一人ひとりに応じた学びの場づくりを目指しています。異なる背景や多様な力を持つ子どもたちがコミュニケーションを通じて協働し、新たな価値を生み出すことができる場です。子どもたちが、主体的、協働的、創造的な学びを体験できるよう、多様なワークショップやイベントを開催するほか、身の回りの素材を使ったものからデジタルテクノロジーを活用したものまで300種類以上のプログラムを用意しています。
「ワークショップに参加する子どもの表情がパッと明るく変わる瞬間があります。その表情をよく観察することを大切にしています。子どもたちのアイデアは多様で、問題意識を持って解決しようという中で、私たちが驚くようなものをつくる子どももいます」(石戸先生)

CANVASワークショップの様子

子どもの未来を応援!「キッズみらいアワード」2026

子どもたちの学びや成長を支える“モノ・コト・ヒト”を顕彰する取り組みとして、キッズネットはこの春「キッズみらいアワード」をスタートしました。書籍・教材・デジタルサービス・体験スポット・生活や健康を支える商品、さらに子どもたちの手本となる人物など、多様な分野からノミネートを選出しました。※投票期間は終了いたしました。

選考では、教育関係者の視点に加え、小中学生や保護者の意見も重視し、ウェブ投票や体験イベントを通じて受賞を決定しました。また、石戸先生には審査員としてご参画いただきました!

「キッズみらいアワード」に選ばれた“モノ・コト・ヒト”は一体何でしょう? 結果発表をチェック!

キッズみらいアワード2026の各受賞賞品はこちら!

石戸奈々子

石戸奈々子(いしどななこ)先生
慶應義塾大学教授 博士(政策・メディア)B Lab所長。一般社団法人超教育協会理事長。CANVAS理事長。東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。株式会社松屋、株式会社フジ・メディア・ホールディングス、株式会社デジタルガレージの社外取締役。総務省情報通信審議会委員など省庁の委員やNHK中央放送番組審議会委員を歴任。デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。著書には「子どもの創造力スイッチ!」、「賢い子はスマホで何をしているのか」をはじめ、監修としても「マンガでなるほど! 親子で学ぶ プログラミング教育」など多数。

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