法務大臣が,その長であるところの行政機関の検察庁の検察官を,検事総長をとおして指揮命令できる権利。検察官は起訴権限を独占し,政治的な圧力を不当に受けない独立性を認められている。したがって,法務大臣が指揮権を発動できるのは,国家を重大な危険におとしいれる事件(内乱罪,外患罪,破壊活動防止法違反など)に関わる場合のみとする意見が強い。指揮権発動のかたちとしては,強制捜査中止,不起訴処分,強制捜査督励などがある。現在まで指揮権が発動されたと認められているのは1例のみで,1954(昭和29)年,造船疑獄の収賄容疑で捜査中の佐藤栄作自民党幹事長を,法務大臣犬養健が指揮権発動によって,強制捜査の中止,逮捕請求の無期限延期を命令したといわれるものである。また,1970年代から現在まで8件ほど,指揮権発動が疑われたり(確認されていない)発動の可能性が考えられた事例が存在する。