こたえ:進化論 ( しんかろん ) でいえば、卵 ( たまご ) が先 ( さき ) です。
ニワトリは卵( たまご ) から生( う ) まれるから卵( たまご ) が先( さき ) ? それとも、 卵( たまご ) を産( う ) むのはニワトリだからニワトリが先( さき ) ?--「卵( たまご ) が先( さき ) か、ニワトリが先( さき ) か」は、2つの関連( かんれん ) した物事( ものごと ) の「どちらが先( さき ) か分( わ ) からない」「どちらが原因( げんいん ) か分( わ ) からない」という意味( いみ ) で使( つか ) われたり、「一方( いっぽう ) が生( う ) まれるにはもう一方( いっぽう ) がすでに存在( そんざい ) していなければならない」という辻褄( つじつま ) の合( あ ) わない状況( じょうきょう ) を表( あらわ ) すたとえとして使( つか ) われたりします。古代( こだい ) ギリシャの時代( じだい ) から人々( ひとびと ) を悩( なや ) ませてきたこの疑問( ぎもん ) は、哲学( てつがく ) や神学( しんがく ) 、生物学( せいぶつがく ) 、数学( すうがく ) などの分野( ぶんや ) で考( かんが ) え方( かた ) が違( ちが ) い、さまざまな意見( いけん ) が出( だ ) されています。
このページは「科学( かがく ) なぜなぜ110番( ばん ) 」なので、今回( こんかい ) は進化論( しんかろん ) と生化学( せいかがく ) の2つの考( かんが ) え方( かた ) を紹介( しょうかい ) します。
イギリスの自然( しぜん ) 科学者( かがくしゃ ) であるダーウィン(Charles Robert Darwin、1809-1882)が提唱( ていしょう ) した進化論( しんかろん ) は、生物( せいぶつ ) は現在( げんざい ) の姿( すがた ) で生( う ) まれたわけではなく原始的( げんしてき ) な形( かたち ) から進化( しんか ) したものだと考( かんが ) え、その進化( しんか ) の原因( げんいん ) や過程( かてい ) を研究( けんきゅう ) する分野( ぶんや ) です。たとえば、人類( じんるい ) の起源( きげん ) は30万( まん ) 年( ねん ) 前( まえ ) にアフリカで誕生( たんじょう ) したホモ・サピエンスだとされています。
この進化論( しんかろん ) によると、ニワトリの先祖( せんぞ ) は東南( とうなん ) アジアの森( もり ) に住( す ) むセキショクヤケイという鳥( とり ) で、それを飼( か ) い慣( な ) らしたのがニワトリです。このセキショクヤケイの「セキショク」は、漢字( かんじ ) で書( か ) くと「赤色( せきしょく ) 」。ニワトリの先祖( せんぞ ) は羽( はね ) の色( いろ ) が赤( あか ) い鳥( とり ) でした。
ここで、その順番( じゅんばん ) を追( お ) ってみましょう。先祖( せんぞ ) は羽( はね ) の色( いろ ) が赤色( あかいろ ) だったのですから、まず、羽( はね ) の赤( あか ) い親鳥( おやどり ) がいました。その親鳥( おやどり ) が卵( たまご ) を産( う ) み、その卵( たまご ) から白色( はくしょく ) の羽( はね ) のニワトリが生( う ) まれてきたと考( かんが ) えられます。
生( い ) き物( もの ) の世界( せかい ) では、親( おや ) とちがう体( からだ ) の色( いろ ) や性質( せいしつ ) を持( も ) った子( こ ) どもが生( う ) まれる場合( ばあい ) があり、これを「突然変異( とつぜんへんい ) 」といいます。赤色( せきしょく ) の羽( はね ) の親( おや ) 鳥( どり ) が産( う ) んだ卵( たまご ) から、突然変異( とつぜんへんい ) で白( しろ ) い羽( はね ) のニワトリが生( う ) まれたわけです。そうなると、進化論( しんかろん ) では「卵( たまご ) が先( さき ) 」という結論( けつろん ) がみちびき出( だ ) せます。
一方( いっぽう ) 、生命( せいめい ) を化学( かがく ) の視点( してん ) から研究( けんきゅう ) する生化学( せいかがく ) の分野( ぶんや ) では、2010年( ねん ) に新( あら ) たな研究( けんきゅう ) 結果( けっか ) が発表( はっぴょう ) されました1) 。イギリスのシェフィールド大学( だいがく ) とウォーリック大学( だいがく ) のチームによるものです。それによると、卵( たまご ) の殻( から ) とニワトリの卵巣( らんそう ) の両方( りょうほう ) にふくまれるたんぱく質( しつ ) 「ovocledidin-17」には、ニワトリの体内( たいない ) で卵( たまご ) の殻( から ) の形成( けいせい ) を促( うなが ) す働( はたら ) きがあり、卵巣( らんそう ) の中( なか ) にovocledidin-17がないと卵( たまご ) ができないことが分( わ ) かったそうです。つまり、ニワトリがいなければ卵( たまご ) はできない、ということ。そのため、この研究( けんきゅう ) 結果( けっか ) を知( し ) った人( ひと ) の中( なか ) には「ニワトリが先( さき ) 」だと考( かんが ) える人( ひと ) もいました。
ただし、この研究( けんきゅう ) の目的( もくてき ) は「卵( たまご ) が先( さき ) か、ニワトリが先( さき ) か」を明( あき ) らかにすることではありませんし、研究者( けんきゅうしゃ ) 自身( じしん ) も「決定的( けっていてき ) なこたえが出( で ) たわけではない」と言( い ) っています。やはり、この論争( ろんそう ) は決着( けっちゃく ) していないのです。
参考 ( さんこう ) 資料 ( しりょう )
監修者 ( かんしゅうしゃ ) :大山 ( おおやま ) 光晴 ( みつはる )
1957年 ( ねん ) 東京都 ( とうきょうと ) 生 ( う ) まれ。東京 ( とうきょう ) 工業 ( こうぎょう ) 大学 ( だいがく ) 大学院 ( だいがくいん ) 修士 ( しゅうし ) 課程 ( かてい ) 修了 ( しゅうりょう ) 。高等 ( こうとう ) 学校 ( がっこう ) の物理 ( ぶつり ) 教諭 ( きょうゆ ) 、千葉県 ( ちばけん ) 教育 ( きょういく ) 委員会 ( いいんかい ) 指導 ( しどう ) 主事 ( しゅじ ) 、千葉 ( ちば ) 県立 ( けんりつ ) 長生 ( ちょうせい ) 高等 ( こうとう ) 学校 ( がっこう ) 校長 ( こうちょう ) 等 ( など ) を経 ( へ ) て、現在 ( げんざい ) 、秀明大学 ( しゅうめいだいがく ) 学校 ( がっこう ) 教師 ( きょうし ) 学部 ( がくぶ ) 教授 ( きょうじゅ ) として「理数 ( りすう ) 探究 ( たんきゅう ) 」や「総合的 ( そうごうてき ) な学習 ( がくしゅう ) の時間 ( じかん ) 」の指導 ( しどう ) 方法 ( ほうほう ) について講義 ( こうぎ ) ・演習 ( えんしゅう ) を担当 ( たんとう ) している。科学 ( かがく ) 実験 ( じっけん ) 教室 ( きょうしつ ) やテレビの実験 ( じっけん ) 番組等 ( ばんぐみなど ) への出演 ( しゅつえん ) も多数 ( たすう ) 。千葉市 ( ちばし ) 科学館 ( かがくかん ) プロジェクト・アドバイザー、日本 ( にほん ) 物理 ( ぶつり ) 教育 ( きょういく ) 学会 ( がっかい ) 常務 ( じょうむ ) 理事 ( りじ ) 、日本 ( にほん ) 科学 ( かがく ) 教育 ( きょういく ) 学会 ( がっかい ) 及 ( およ ) び日本 ( にほん ) 理科 ( りか ) 教育 ( きょういく ) 学会 ( がっかい ) 会員 ( かいいん ) 、月刊 ( げっかん ) 『理科 ( りか ) の教育 ( きょういく ) 』編集 ( へんしゅう ) 委員 ( いいん ) 等 ( など ) も務 ( つと ) める。