ヘクトパスカル(hPa)はどんな意味?
こたえ:
地球上では、重さのあるものはすべて重力によって地球に引っぱられています。それは、地球を包む空気でも同じ。重力に引かれて、地表を押さえつける力となります。これが気圧(大気圧)と呼ばれる圧力です(関連記事「空気について調べちゃおう」)。もう少しくわしくいうと、1m2当たりに垂直に働く大気の力を指します。
では、「ヘクトパスカル」(hPa)は、どのくらいの圧力を表すのでしょうか。1パスカル(Pa)は、1m2の床の上に約100g〔1ニュートン(N)〕のものを置いたときの圧力です。「ヘクト」は100倍という意味ですから、1hPaは「1m2の床の上に約10kgの重さのものを置いたときの圧力」ということになります。1円玉を手のひらに乗せたときの圧力は約31Paなので、1hPaは「手のひらに1円玉を3枚乗せたときくらいの圧力」ともいえます1)。
このヘクトパスカルという単位を耳にするのは、どんなときでしょう? 「ニュースや天気予報で聞いた」という人が多いはずです。たとえば、2020年9月2日の台風10号のニュースでは「中心気圧は日本列島に近づいても930hPaと『特別警報級』」と、注意を呼びかけていました2)。なぜ、中心気圧が930hPaの台風には注意が必要なのでしょう。
大気は場所によって気圧がちがい、周りよりも気圧が高いところを「高気圧」、低いところを「低気圧」といいます。気圧に差があると、同じ気圧になろうとして高気圧から低気圧に向かって空気が動きます。この空気の移動が風です。「低気圧は圧力が小さいから安全」と考える人がいるかもしれませんが、そうではありません。気圧が低いほど周りから空気が勢いよく流れこみやすくなるため、中心気圧の低い台風ほど風が強くなります。
今までに日本に上陸した台風で最も中心気圧が低かったのは、1961年の「第二室戸台風」(925hPa)、その次が1959年の「伊勢湾台風」(929hPa)で、どちらも大きな被害をもたらしました3)※。ですから上のニュースでは、中心気圧930hPaの台風を「特別警報級」と表現したのです。
「パスカル」は、圧力の法則を考え出したフランスの科学者・パスカル(Blaise Pascal、1623-1662)から取った単位です。人の名前に由来する単位はほかにもたくさんあって、たとえば力の単位「ニュートン」(N)はイギリスの物理学者・ニュートン(Isaac Newton、1642-1727)から、電流の単位「アンペア」(A)はフランスの物理学者・アンペール(André-Marie Ampère、1775-1836)に、仕事量の単位「ワット」(W)はイギリスの発明家・ワット(James Watt、1736-1819)に、そして竜巻の規模の尺度「藤田スケール」(または藤田・ピアソン・スケール)は日本の気象学者・藤田哲也氏(1920-1998)に由来しています。
※ 統計期間:1951年~2020年第13号
記事更新:2023年1月
参考資料
1)大日本図書.「いろいろな単位」:https://www.dainippon-tosho.co.jp/unit/list/
2)ウェザーニューズ.2020年9月2日付「お天気ニュース」:https://weathernews.jp/s/topics/202009/020135/
3)気象庁.「中心気圧が低い台風(統計期間:1951年~2020年第13号まで)」:https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/statistics/ranking/air_pressure.html
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。