汚れた川にも魚はすめるの?
こたえ:
かつて日本の川には、メダカ(ミナミメダカ)やドジョウ、フナ類(ギンブナ、オオキンブナなど)、アユといった「日本固有種」(在来種)の魚がたくさん泳いでいました。ところが、水の汚染や生息地の環境の変化、むやみな捕獲などの原因により、多くの淡水魚が絶滅したり減少したりしました※1。2020年に環境省が発表した「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)」は、淡水や汽水(淡水と海水が混じり合った水)にすむ169種類の魚類を「絶滅危惧種」と指定しています1)。
けれども、多少にごった川でも魚が泳いでいるのを見かけますね。じつは、魚の種類によって川の汚れに対する強さ(抵抗性)がちがい、すめる汚れ度合いが異なるのです。では、どんな水質に、どんな魚がすんでいるのでしょうか。
その目安の1つが、有機物(川に流れこむ落ち葉や虫の死がい、家庭からの排水にふくまれる食べものなど)による汚れの度合いを示す「生物化学的酸素要求量」(Biochemical Oxygen Demand:BOD)です。生物が水中の有機物を分解するのに必要な酸素の量で、BODの値が大きいほど川が汚れていることを表します。環境基本法で定められた「環境基準」では、BOD1mg/L以下の「AA」(水道1級)から10mg/L以下の「E」(工業用水3級)まで6つの等級を設定しています2)。
また、BODだけでなく地域によっても魚の種類は異なります。たとえば、長野県から愛知県、静岡県まで流れる天竜川の上流では、BOD2.5mg/L以下の場所でイワナやアマゴ、カジカを、BOD2.5~5.0mg/L以下の場所ででアユやウグイを、BOD5.0~10.0mg/L以下の場所ではギンブナやモツゴ、オイカワ、ドジョウを見ることができます3)。BOD10.0mg/L以上になると、魚は生きられないそうです。
2023年1月、「ニホンウナギを捕獲」というニュースが話題になりました4)。たしかに、ニホンウナギは環境省が絶滅危惧種に指定するめずらしい生物ですが、注目を集めたのは、見つかった場所が大阪市の道頓堀川だったからです。
大阪(大坂)は、豊臣秀吉の時代に水路が整備された「水の都」。1615年に完成した道頓堀川は、貨物を運ぶのに重要な役割を果たしました5)。けれども時代が流れ、高度経済成長期(1955~1973年)になると、工場排水や家庭の下水が流れこみ、全国でも有名な「汚い川」になってしまいました。
大阪市は、そんな道頓堀川の“汚名”を返上しようと水質浄化に乗り出し、下水処理設備の整備などに取り組みました6)。その結果、2020年の調査ではBODが1.7mg/Lに改善7)、※2。2022年の調査では、在来種のハスやカワヒガイなどの生息も確認されました8)。そして2023年、おおさか環農水研生物多様性センターはニホンウナギの生息を確認し、11匹を捕獲したのです。
※1 その
※2
参考 資料
1)環境省「環境省レッドリスト2020掲載種数表」:https://www.env.go.jp/content/900502268.pdf
2)環境省「環境基準」:https://www.env.go.jp/kijun/wt2-1-1.html
3)国土交通省中部地方整備局 天竜川上流河川事務所『天竜川上流の主要な魚』「魚と河川環境」:
https://www.cbr.mlit.go.jp/tenjyo/jimusyo/publication/pbl_fish/pbl_fish.html
4)2023年1月10日、おおさか環農水研生物多様性センターの発表「水都大阪の代表“道頓堀川”でニホンウナギの生息を確認」:http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/kankyo/info/doc/2022122200043/
5)水都大阪コンソーシアム『水都大坂』「水都大阪の歴史」:
https://www.suito-osaka.jp/special/history/index.html
6)2014年11月14日、大阪市の発表「道頓堀川・東横堀川のさらなる水質改善に取り組みます」:https://www.city.osaka.lg.jp/kensetsu/page/0000288923.html
7)環境省『水環境総合サイト』「公共用水域水質測定データ」:
https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/
8)2022年5月20日、大阪市の発表「大阪市内の川に住む魚(大阪市内河川魚類生息状況調査)」:https://www.city.osaka.lg.jp/kankyo/page/0000445202.html
監修者 :大山 光晴
1957