毎年春が近づいてくると急に多くなる「花粉症」。鼻水がとまらなかったり、目がかゆくなったりという不快な症状が特徴だ。日本ではの20%近くの人が花粉症にかかっているといわれるので、国民病とも呼ばれている。
花粉症のメカニズム
人間の体は、体内に異物が入ってくると、細胞(注1)が抗体(注2)をつくってそれを体の外に追い出そうとする。この抗体が必要以上に働くことをアレルギーと呼ぶよ。
あたたかくなって植物の花粉が風に乗って飛んできて目や鼻に入ると、抗体の働きで花粉をくしゃみでふきとばしたり、鼻水やなみだで花粉を洗い流したりしようとする。この抗体の働きが必要以上に起こると、花粉症の症状が現れる。春先になると、マスクやゴーグルのような大きな眼鏡をした人を多く見かけるね。その人たちは花粉が体に入るのを防いでいるんだ。
花粉症は日本ではニュースになるくらい大変な現象なのに、不思議なことに海外では花粉症に苦しむ患者の話はほとんど聞かないよ。
(注1)細胞…すべての生物の体をつくる基本単位のこと。直径約0.005mmで、顕微鏡でなければ見えない。ヒトの場合は約60兆個の細胞からできている。
(注2)抗体…体内に入った細菌や毒素に対抗するためにつくられる物質のこと。
花粉症の原因となっている植物
(提供=東邦大学薬学部教授 佐藤紀男)
花粉症の約70%は、スギの花粉が引き起こしていると考えられている。これはスギ林の面積が、日本の森林の18%、国土の12%を占めているため。スギ以外の樹木だとヒノキやハンノキが、草花ではカモガヤやブタクサ、ヨモギなどがある。花粉症を引き起こす原因と考えられている植物の花粉は、全部でおよそ60種類もあるんだよ。
植物には、昆虫の体にくっついて運ばれる虫媒花と風で運ばれる風媒花があり、花粉症の原因となっているのは風媒花の方だ。風に乗って花粉が運ばれるため、晴れで風の強い日は、花粉の飛ぶ量が多いといわれているよ。
また、スギ、ヒノキなどの樹木は春、カモガヤなどのイネ科は初夏、ブタクサ、ヨモギといったキク科は真夏から秋口というように、植物によって花粉を飛ばす時期が異なったり、地域によって生えている植物がちがうので、季節や場所によっても花粉の量は変わってくるんだよ。
提供=鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会「花粉症保健指導マニュアル」[環境省発行]
花粉症の防ぎ方
出典=日本医科大学耳鼻咽喉科 大久保公裕「的確な花粉症の治療のために」[厚生労働省発行]
花粉症は、体内に花粉が入ることで引き起こされるアレルギー。だから、花粉を体内に入れないことが一番よい花粉症対策になるんだ。
まず、環境省が出している花粉情報やニュースを見て、花粉が多く飛ぶような日は窓や戸を閉めて室内に花粉が入らないようにするほか、外出をひかえるようにすること。
外出するときは、マスクや眼鏡を使って目や鼻に花粉が入るのを防ぐ。さらに、表面がけばけばした毛織物などのコートには花粉がつきやすいのでなるべく使用しないこと。
外から家に帰ってきたときは、衣服やかみをよくはらって花粉を落としてから中に入り、洗顔、うがいをして鼻をかむようにすれば、室内の花粉の量を減らすことができる。
ただ、あまりに症状がひどいときは、病院でお医者さんにみてもらおう。
花粉症と寄生虫のふしぎな関係
出典=東京医科歯科大学医学部教授 藤田紘一郎 環境goo WEB講義「第5回 清潔志向が環境悪化を招く」
花粉症でつらい思いをするのは、人間だけじゃない。テレビCMや広告で花粉症にかかったニホンザルを見たことがあるかな? ニホンザルのほかにもイヌ。イヌの場合は、鼻づまりやくしゃみよりも、体がかゆくなるという症状が多いみたい。室内犬は散歩からもどったら、ブラッシングをして花粉を落としてあげよう。
花粉症と意外な関係にあるのが寄生虫だ。寄生虫とは、ほかの動物の体内で生息する生き物のことで、ギョウチュウやサナダムシが有名だ。第二次世界大戦直後は日本人の約70%が寄生虫に感染していたけれど、生活水準が向上し清潔になるにつれて感染率は低くなり、1980年代には0.2%になった。ところが、寄生虫感染者が少なくなるとアトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー患者が増え始めた。細胞がつくる抗体は、本来、寄生虫に対するものだったのに、寄生虫が体からいなくなったから、害のないはずの花粉に反応して花粉症が発症したようだ。実際、寄生虫感染率の高い国では花粉症患者がほとんど見当たらない。
でも、寄生虫を体に飼えば花粉症にならないっていわれても、考えちゃうけどね。