春から夏への移り変わりに訪れる雨の時季、梅雨。ですが梅雨の前でも雨は降りますし、梅雨の後でも雨は降りますよね。いったい、いつが梅雨の始まりで、どうなったら終わりなのか。梅雨入り、梅雨明けの決まり方を解説します。
梅雨ってなに?
南と北の高気圧が力比べ
梅雨の時期に天気予報の天気図を見ると、日本列島に長い線がかかっています。これは前線といって、冷たい空気と暖かい空気の境目を示すもので、ちょうど前線が表示されたあたりに雲ができて、雨が降りやすくなります。
春から夏に季節が移ろうとしているとき、日本列島の南には高温多湿(暖かくて湿った)な太平洋高気圧があり、北には涼しいオホーツク海高気圧などがあります。この高気圧どうしの境目に前線はあります。高温多湿な高気圧と涼しい高気圧は勢力がほぼ同じで、おしあいへしあいしているため、境目にある前線は同じような場所から動きません。すると、その前線あたりではずっと雲が発生し続けて、雨が長く続きやすいのです。このように長く同じような場所にとどまるタイプの前線は「停滞前線」と呼ばれ、特に初夏の時期に現れる停滞前線を梅雨前線と呼びます。
梅雨前線はだいたい5月中旬ごろに沖縄・奄美地方に現れ始め、次第に北上していきます。停滞する梅雨前線がかかりはじめると、その地方が「梅雨入り」となります。例年の梅雨入りの時期は、沖縄・奄美地方が5月中旬、九州南部が5月下旬、九州北部・四国・中国・近畿・東海・関東甲信地方が6月上旬、北陸・東北南部・東北北部は6月中旬頃です。なお、北海道には梅雨前線は停滞しないことが多いため、気象庁では梅雨入り・梅雨明けの発表は行いません。
南の高気圧の押し出しが梅雨明けの合図
梅雨前線は、その南北にある高温多湿な高気圧と、涼しい高気圧の勢力の強さによって位置が少しずつ変わります。その力関係は日ごとに違い、前線は停滞しているとはいっても細かく南北に動いています。梅雨の真っ最中でもたまに晴れることがあり、これは「梅雨の中休み」と呼ばれますが、梅雨前線がたまたま自分の居場所から少しズレたときのことなのです。
季節が進むと、梅雨前線の南にある高温多湿な太平洋高気圧の勢力が、北にある涼しい高気圧よりの勢力よりも強くなっていきます。すると、梅雨前線は北上していくことになり、ある地方がすっかり太平洋高気圧に覆われるようになると「梅雨明け」となり、本格的な夏がやってきます。
梅雨入り、梅雨明けはどうやって決まる?
「しばらく続きそう」で決定、わからないときは「発表なし」
梅雨の季節になると、気象庁が地方ごとに梅雨入りや梅雨明けの発表を行っていきます。この発表はどのようにして行われるのでしょうか。
実は、ある地方に梅雨前線が停滞していたら即「梅雨入り」というわけではありません。そして梅雨前線がその地方よりも北に行けば即「梅雨明け」というわけでもありません。先ほども説明しましたが、梅雨前線を挟んだ暖かい空気と涼しい空気は日によって勢力が違うため、細かく南北に動くからです。
気象庁では、梅雨前線がその地方に停滞し、しばらく雨や曇りの日が続きそうなときに「〇〇地方が梅雨入りしたとみられる」という表現で梅雨入りを発表します。同じように、梅雨前線がその地方よりも北に行き、しばらく晴れの日が続きそうな場合は「〇〇地方が梅雨明けしたとみられる」という表現で梅雨明けを発表します。
実は、梅雨入りや梅雨明けの発表は暫定的なもので、夏の終わりになって修正されることがあります。梅雨入りの発表をしたけれど再び晴れの日が続いたり、梅雨明けの発表をしたにもかかわらず、再びぐずついた日が続いたりすることもあるからです。
また、年によっては梅雨入り、梅雨明けを特定しにくいこともあります。そんな年は梅雨入りや梅雨明けの「発表なし」となります。しかし、だからといってその場合は梅雨そのものが全くなかったり、年末まで梅雨が続いたりするわけではありません。あくまではっきりとした梅雨入りや梅雨明けの特徴が確認できないだけです。
たとえば、1963年の近畿地方と四国地方は、梅雨入りは発表されたのに、梅雨明けは発表されませんでした。そして、梅雨明けの発表がなかった年はたくさんあります。特に1993年は沖縄・奄美以外のすべての地方で梅雨明けの発表がありませんでした。この年は7月になってもぐずついた天気が続き、記録的な冷夏となりました。その結果、米が不作となり、米を輸入することになって「平成の米騒動」と呼ばれることになりました。
暦の「入梅」と「梅雨入り」は別物
また毎年6月10日頃、暦の上で「入梅」と呼ばれる日があります。この日は梅雨入りと何が違うのでしょうか。
梅雨入りは気象庁の職員が天気図や天候を見ながら総合的に判断して決めるもので、年によって日付が違いますし、ときには「発表なし」ということもありえます。しかし、「入梅」は太陽黄経(太陽が天球上を通る経路)上で春分の日を0°とすると、ちょうど80°のところに太陽がくる日のことを指すので、毎年必ずやってきて、しかも6月10日ごろと時期もほとんど同じです。
昔は今ほど天気予報の技術が発達していなかったので、昔の人は田植えの目安を決めるうえで「入梅」という暦の上での日が重要だったのではないかと思われます。
今年の梅雨は?
さて、今年の梅雨はどうなりそうなのでしょうか。
まず5月21日ごろに、気象庁による沖縄・奄美地方の梅雨入りの発表がありました。
また、日本気象協会が2024年5月30日に発表した梅雨入りの予想は、東北北部が6月下旬、そのほかの地方(北海道地方を除く)は6月中旬で、全体的に平年よりも遅いです。
また、気象庁が2024年5月21日に発表した3か月予報では、6月の降水量は西日本太平洋側と沖縄・奄美で平年並か多い見込み、7月の降水量は東日本太平洋側・西日本で平年並か多い見込みとなっています。
毎年、梅雨の終わりごろは集中豪雨が発生し、おもに西日本で水害や土砂災害に見舞われやすくなります。今年の夏はどうなるのでしょうか。天気予報に注意を払っていてくださいね。
参考