春先になると、沖縄を皮切りに、桜の開花の便りが聞こえてきます。そして民間の気象会社からも、全国各地の今年の開花予想が発表されます。この桜の開花はどのようにして予想されているのでしょうか。
桜は寒さで目覚めて、暖かさで咲く
桜の開花は気象条件と深くかかわっています。
桜の花の芽は、前の年の夏には、すでに作られ始めています。秋になって気温が下がると花の芽はいったん成長をやめて休眠します。その休眠が破られるのは冬の寒さです。休眠から目覚めて、春に向かって気温が上昇していくと、再び花の芽は成長し、ある程度、暖かくなったところで花が開くのです。桜の開花には冬の寒さと、そのあとの暖かさが必要なのです。
桜の開花にはざっくりとした法則があります。それは、2月1日からの日々の平均気温を足して400度を超える頃に開花するという「400度の法則」や、2月1日からの日々の最高気温を足して600度になる頃に開花するという「600度の法則」というものです。
簡単な法則で計算すると、おおよその桜の開花日がわかる
実際に600度の法則を使って、2022年の東京の気温と開花日の記録を調べてみました。気象庁ホームページを見ると、2022年の東京での桜の開花日の記録は、3月20日となっています。
そして、2022年の2月以降の東京の最高気温は、次のように観測されていました。
2022年2月1日から3月18日までの最高気温の合計は592.5度、19日まででは611.1度となります。つまり、600度を超えたのは3月19日ということになります。実際の開花日は20日でしたから、誤差は1日だけで、ほぼ当たっていますね。なお、600度の法則にもとづく開花予想日と実際の開花日との間には最大で3日程度の誤差があるようです。
皆さんも、近所の公園などの最高気温を毎日測り、これから先の天気予報の最高気温を足していけば、その場所の桜の開花日を予想できるはずです。各地の過去の気温データは、気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php)でも調べることができます。
桜の開花予想日の基準に使われるソメイヨシノはすべてクローン!
ちなみに、気象会社が桜の開花予想日を出すときは、これよりはもっと複雑な数式を使い、会社ごとに違う計算式で予想をおこなっています。このように計算して出された開花予想日の同じ日を線で結んだものが「桜前線」と呼ばれます。
いよいよ桜が開花すると、気象庁が開花の発表をおこないます。このときの開花の判定に使われるのは標本木と呼ばれるものです。標本木は原則として都道府県に1本ずつあります。北海道のように広いところや沖縄などのように離島があるところは都道府県内に複数の標本木があり、全国では58本あります。標本木が植えられている場所は、地方気象台の敷地内が多いのですが、なかには有名な公園内にあるものもあります。たとえば東京の標本木は靖国神社の境内に、大阪は大阪城西の丸庭園内にあります(2023年3月時点)。
なお、桜の標本木は、ソメイヨシノという品種です(一部の地域を除く)。北海道(札幌、室蘭、函館以外)はエゾヤマザクラを、沖縄・奄美地方はヒカンザクラを標本木に使いますが、これはその地域では低温すぎたり高温すぎたりして、ソメイヨシノがうまく育たないからです。
ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラという2つの品種を掛け合わせてできたもので、種子ができないため接ぎ木で増やします。つまり、全国のソメイヨシノはすべて同じ遺伝子を持つクローンです。同じ気象条件でいっせいに咲き、開花の予想もしやすい理由のひとつは、クローンだからなのです。
しかしクローンならではの弱みもあります。現在、ソメイヨシノはてんぐ巣病と呼ばれる樹木の病気に弱く、ひとたび流行しだすと全滅してしまう恐れがあります。また、寿命が50年ほどと短いため、桜の名所の中には木が枯れ始めているところも出てきています。そこで、今ではソメイヨシノのかわりにコマツオトメやジンダイアケボノという、ソメイヨシノによく似た別の品種に植え替える動きがあります。