こたえ:空気中のゴミが粘液で固まったものです。
わたしたちの周りの空気には、ほこりやカビ、花粉、細菌、ウイルスなど、たくさんのゴミがふくまれています。これらを空気といっしょに体内に吸いこむと、病気になってしまうかもしれません。そのため人間の体には、空気中のゴミが体内に入るのを阻止する仕組みがあります。それが、鼻毛や鼻水、そして鼻くそです。
人間は、鼻から空気を吸いこむと、まず入り口近くにある鼻毛が働きます1)。鼻毛と鼻毛の間にゴミを引っかけて、その先に進めないようにするのです。けれども、鼻毛ですべてのゴミをとらえられるわけではなく、ごく小さなゴミは鼻毛をすり抜けてしまいます。
そこでゴミたちの前に立ちはだかるのが、鼻の粘膜から分泌されるねばねばした液体(粘液)。鼻の内部ではいつも、吸いこんだ空気にしめり気を与えたり、粘膜を保護したりするために、少しずつ粘液が出ています2)。粘膜がゴミを検知すると、それらが体内に入らないように、通常より多くの粘液を分泌してゴミをくっつけます。こうしてゴミと粘液が混ざり合ったものが、鼻水です。鼻水は、外に流れ出すときに鼻毛でキャッチしたゴミもまとめて排出します。つまり、鼻水は、体内に入る空気にしめり気を与える加湿器のような役割と、鼻の内部をきれいに保つ洗浄液のような役割を持つのです。
鼻水は、このように流れ出すか、くしゃみとして外に飛び出すほか、粘膜の表面にある「線毛」とよばれる突起の動きによって運ばれて、のどから「たん」として吐き出されたり、胃の中に飲みこまれたりしますが、排出しきれない一部の鼻水は鼻の内部に留まります。これが乾いて固まると、鼻くそになります。
このような過程を経て鼻くそはできるので、空気の汚れた場所に長い時間いると、粘液が増えて鼻くそがたまりやすくなります。また、乾燥した場所では鼻水の水分が蒸発しやすいので、やはり鼻くそはたまりやすくなるようです。
鼻くそがたまると呼吸がしづらくなりますから、早く取り除きたいですね。だからといって、指で鼻を「ほじる」のはおすすめできません*。ツメで鼻の粘膜を傷つけてしまうかもしれませんし、指先に付いている細菌やウイルスを鼻の粘膜にうつしてしまうおそれもあるのです。鼻の粘膜が水分を多くふくむお風呂あがりに、やさしく鼻をかむのがよいでしょう。
鼻水や鼻くそが気になったとき、人間はティッシュでおおって鼻をかんだり、指や綿棒で鼻をほじったりできますが、指を自由に動かせない動物たちはどうしているのでしょうか。
たとえば手先の器用なサルの仲間は、手で鼻をかみます3)。野生の世界では、チンパンジーが木の棒を鼻に入れてくしゃみを引き起こし、鼻づまりを解消するのが観察されています。ほかにも、ヒゲオマキザルが草の葉や木の棒で鼻をほじる様子、さらには、ボノボのお母さんが子どもの鼻につまった鼻水を口で吸い取っている様子も目撃されているそうです。
けれども、ウシやウマなどの有蹄類(ゆうているい:ひづめのある動物)は、サルとは違って手で鼻をかめません。そのかわり、鼻の穴が前や上を向いているため、「フン」と鼻息を出すだけで鼻の通りをよくすることができます。キリンは、鼻に何かがつまっていると、長い舌で取り除きます。
* 「鼻をほじるのはよくない」という考えが“常識”ですが、鼻をほじることが脳の活性化につながるという研究結果も発表されています4)。鼻から吸う酸素の量を最大限に増やせる上、鼻の中の神経が刺激されて脳細胞の働きが活発になる、と研究者は述べています。
記事公開:2021年11月
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。