ナメクジに塩をかけると小さくなるのは、なぜ?
こたえ:うすい
ナメクジに限らず生き物の体の中には、かなりの量の水がふくまれています。わたしたち人間の水分は、生まれたばかりの赤ちゃんで約75%、子どもで約70%、大人になる約50~65%といわれています1)。ナメクジはそれよりも多く、体の約90%が水でできています。
ところが、ナメクジの体には人間のような皮膚がなく、「半透膜」と呼ばれるうすい膜でおおわれています。この膜は皮膚に比べて水を通しやすいので、ナメクジの体はすぐに乾燥してしまいます。そのためナメクジは、体の表面から粘液を出して体がかわかないようにしています。ジメジメした場所を好むのも、日の当たらない夜に動くのも、体を乾燥させないための工夫です。
このナメクジの体に塩をかけると、何が起きるのでしょうか。ナメクジの体をおおう半透膜は、水は通すけれど、水にとけた塩は通しません。そして、濃さのちがう食塩水を半透膜でへだてると、うすい方から濃い方へ水を通して、両側の食塩水を同じ濃さにしようとする力が働きます。
ナメクジに塩をかけても、同じことが起こります。体にかかった塩が粘液にとけて濃い食塩水ができると、ナメクジの体内の水分が半透膜を通して外へ出て行ってしまいます。その結果、ナメクジの体は小さくなるのです。ちぢんだナメクジは、水をかけると元気に回復することもありますし、そのまま死んでしまうこともあります。
さて、半透膜の両側に濃さのちがう食塩水があるとき、両方の濃さを同じにしようとする圧力のことを「浸透圧」といいます。くわしくは高校生になったら習いますが、ここでもいくつか例をしょうかいします。
いちばん身近なのは、生物の体をつくる細胞でしょう。細胞は「細胞膜」という半透膜でおおわれていて、細胞の内側と外側は、さまざまな物質が溶けた体液で満たされています。普段はそのバランスを保ちながら細胞の大きさを一定に保っているのですが、汗をかくと体液が濃くなって浸透圧が上がり、細胞の内側から水分を出さなければなりません。そのため、体液の浸透圧が上昇すると体の中のセンサーが反応して、脳はわたしたちに「のどがかわいた」と感じさせます2)。
植物の細胞も、「細胞壁」とよばれる丈夫な仕切りの内側が細胞膜でおおわれています。きゅうりやキャベツなどの野菜を切って塩をかけてしばらく置くと、水が出てきて野菜がしんなりとします。これも、食塩水の浸透圧によるもの。野菜の表面に付いた水に塩が溶けて濃い食塩水ができるため、細胞の内側と外側で同じ濃さにしようとして内側から水分が出てくるのです。コールスローなど、ドレッシングとあえておくサラダを作るとき、はじめに野菜に塩をかけて余分な水分を出しておけば、味付けのときに野菜から水が出てきてびちゃびちゃになったり、味がうすくなったりするのを防げますし、味がなじみやすくなります。
食塩水だけでなく、砂糖の水溶液にも浸透圧はあります。たとえばカレーといっしょに食べる福神漬けのように甘みのある漬け物は、食塩水と砂糖水の両方の浸透圧を利用して作られています3)。ちなみに、ナメクジに砂糖をかけても塩のときのようにちぢみますが、塩よりもたくさんの砂糖が必要です。
参考 資料
1)サントリー.「水大辞典 水の科学 人間と水」:https://www.suntory.co.jp/eco/teigen/jiten/
2)日本コカ・コーラ.「飲料アカデミー あなたの毎日に必要な水分補給」:https://www.cocacola.co.jp/article/hydration-tool_01
3)農畜産業進行機構.「食と文化 漬物作りと砂糖」:https://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0005c.htm
監修者 :大山 光晴
1957