こたえ:海水の塩分濃度は約3.4%です。
水にふくまれる塩の濃さを表すのに「塩分濃度」という言葉を使います。海水のおおよその塩分濃度は3.4%。海水100gの中に塩が3.4gほどふくまれている、ということになります。といっても、世界中のどこの海でも塩分濃度が同じというわけではありません。海域によってばらつきがあり、3.1~3.8%です。
なぜ、塩分濃度に差があるのでしょうか。それは、暑いところでは海水が蒸発し、河口の近くでは川から淡水が流れ込み、北極や南極では氷ができたり溶けたりするためです。塩分濃度は、水が蒸発すれば高くなり、淡水が流れこめば低くなります。氷ができるときは塩分を押し出して真水だけがこおるので、塩分濃度は高まります2)。その氷が溶けるときは真水の分だけ塩分濃度が低くなります。
たとえば、北緯0~70°の北太平洋の塩分濃度は平均で3.41%ですが、同じ緯度の北大西洋では平均3.54%と、大西洋の方が塩分濃度が高くなっています。これには、大西洋で発生した「貿易風」と呼ばれる、赤道上で東から西へ吹く風が関係しています。貿易風は、水蒸気が発生した北大西洋から太平洋へと暖かく湿った空気を運び、北太平洋に雨を降らせます。大西洋では水分が蒸発した分だけ塩分濃度が上がり、太平洋では雨が降って塩分濃度が下がる、というわけです。
ここまでは、水深が150mより浅い「表層」(混合層)と呼ばれる部分について話しをしてきました。けれども、水深が数百mの「温度躍層」(水温躍層)や約1000m以下の「深層」では、海水はちがう動き方をしています。このうち、地球上の海水全体の80%を占める深層水は、温度と塩分濃度のちがいによって世界中の海をぐるぐると回っています。
北極海をスタートした深層水の動きを追いかけてみましょう。氷の多い北極海では、温度が低く塩分濃度の高い海水がつくられます。その一部が北大西洋へ流れ出し、グリーランドの沖合で沈みこんでいきます3)。冷たくて塩分濃度の高い海水は重いため、下へもぐりこむのです*。
この深層水は、その後、大西洋を南下して南極付近でつくられた深層水と合流し、インド洋と太平洋に別れて北上。地形や気象などの影響を受けて深層水は少しずつ湧き上がってきて表層水となります。そして、太平洋の表層で温められた流れはインド洋へ向かい、インド洋の表層水と合流して再び北大西洋へ戻り、また沈みこみます。このように海水が循環することを「海洋のコンベアベルト」と呼びます。
海洋のコンベアベルトは、1周するのに平均して1500~2000年もかかる、とてもゆっくりとした循環です。小さな塩分濃度の差が、気が遠くなるほど長い年月のかかる地球規模の循環を生み出しているのです。
* 物質の一定の体積(水の場合は1cm3)当たりの質量(重さ)を「密度」といいます。海水の密度は温度と塩分濃度で決まり、温度が低いほど、また、塩分濃度が高いほど密度が大きくなります。
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。