海風、陸風、季節風…風向きが変わる仕組みは? 海と陸の温まりやすさの違いが生む風
冷 めたところから、温 まったところへ向 けて
真夏の海では、砂浜を歩くと足の裏がやけどしそうなほどに熱いと感じたことはありませんか? しかし、砂浜は熱いのに海水がお湯になっているようなことはありません。
また、熱いココアの入ったマグカップの中に金属のスプーンを入れてかき混ぜたあとに取り出すと、スプーンはすぐに冷めます。しかし、マグカップの中のココアはまだ温かいままです。
これは、水(海水)と地面(砂浜)、水(ココア)と金属(スプーン)とでは温まり方や冷め方に違いがあるからです。水は温まりにくく冷めにくい性質があり、地面や金属は水に比べると温まりやすく冷めやすい性質があります。
この、温まりやすさと冷めやすさの違いが、風の吹き方とも関係しています。
海辺では、晴れた日の昼間に海から陸へと風が吹く「海風」が吹き、夜に陸から海へと風が吹く「陸風」が吹きます。これは、陸が海と比べて温まりやすく冷めやすいことが原因で起こる現象です。
もう少し詳しく説明しましょう。
昼間に、太陽の光で地球の表面が照らされると、温まりやすい陸地のほうが早く温まり、陸地の空気も暖かくなります。その一方で、海は陸地ほど温かくならず、海の上の空気も、陸地の空気に比べると冷たい状態です。
冷たい空気はぎゅっと縮んで密度が高くなります。すると、重くなるので下のほうに空気がたまります。重い空気は「高気圧」となります。逆に、暖かい空気は膨らんで密度が低くなり、軽くなるので上昇します。軽い空気は「低気圧」となります。高気圧と低気圧が隣り合うと、気圧の差をなくそうとする力が働き、高気圧から低気圧に向かって風が吹きます。だから、昼間は海から陸に風が吹くのです。
夜はこれとは逆の現象が起こります。太陽の光が当たらない夜になると、陸地は海よりも冷めやすいので、海よりも冷たい陸地の上には高気圧が、温かい海の上には低気圧ができて、陸から海へと風が吹くのです。
なお、海風と陸風が交代する朝と夕方の時間帯には風が弱くなります。これを「凪」といいます。
地球規模の風が日本の気候にも影響
さて、海風と陸風は数十km~100kmの比較的狭い範囲で起こり、1日単位で風向きが入れ替わる現象です。これよりももっと広い、ユーラシア大陸と太平洋などの大きな海との間の範囲で、1年単位で風向きが入れ替わる現象があります。それが季節風です。
夏は、太陽の高度が高く、地球の表面が太陽のエネルギーをたくさん受け取って陸地の温度が上がります。ですから、陸地のほうが海よりも温まりやすくなります。日本周辺でいうと、ユーラシア大陸のほうが太平洋などよりも熱くなるということです。すると、日本海・太平洋からユーラシア大陸へと風が吹きます。これが夏の季節風で、日本列島に梅雨をもたらす原因のひとつです。
反対に、冬は太陽の高度が低く、地球の表面が温まりにくくなるため、海のほうが陸地よりも温かくなります。すると、ユーラシア大陸から日本海・太平洋に向かって風が吹きます。これが冬の季節風で、日本では「木枯らし」などと呼ばれます。日本海側に大雪をもたらすのも、冬の季節風のしわざです。
このように、モノの温まり方の違いが、1日のうちの風の吹き方や、日本の気候にまで関わってくるのです。
文/今井明子